大腸がんの再発・転移率と検診の必要性

がんの原発巣(最初に出来たがん病変)を手術治療で切除して、しばらく経過してから再びがんが現れることを再発と言います。再発の中でも、がん細胞が元あった原発巣から離れた場所(ほかの臓器や組織)に飛び火し、その部位で増殖するのが転移です・

国立がん研究センターの予測では、2015年日本人の男女合計で最も罹患者数が多くなるとされる大腸がんですが、大腸がんの再発・転移が起こる割合はほかのがんと比べて高くはなく、大腸がん全体では再発率は約17%と言われています。しかし実際には最初に発見されたがんの進行度や発生部位(結腸がんか直腸がんか)によっても異なります。

大腸がんの再発は、その再発のうちの約80%が3年以内に起こり、95%が5年以内に見つけられています。5年経過後に再発する割合は非常に少ないと言えます。そして、再発も症状があらわれて発見されるケースよりも、定期的な検診によって発見されるケースが多くなっています。また、再発率は結腸がんよりも直腸がんの方が高いことにも注意が必要です。

以上のような事からも、治療後5年間は定期的な検診が必要とされているのです。

大腸がんのステージ別再発率と手術後の経過年数別累積再発出現率は以下の通りです。

ステージ 再発率(%) 手術後の経過年数別累積再発出現率(%)
3年以内 4年以内 5年以内
     Ⅰ 3.7 68.6 82.4 96.1
     Ⅱ 13.3 76.9 88.2 92.9
     Ⅲ 30.8 87 93.8 97.8
    全体 17.3 83.2 91.6 96.4
大腸がん研究会・プロジェクト研究1991-1996年症例より

肝細胞がんのリスク因子

肝細胞がんの原因としてよく知られているのは、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変です。つまり、この因子を持っている人は肝細胞がんの高危険群(発生のリスクが高い)と言えますので、定期的な検診が必要です。

また、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変ほどの高危険群とは言い切れませんが、次のような因子を持っている方は肝細胞がんになりやすいと言われています。

  • B型、C型肝炎ウィルスを持っている人
  • 両親がいずれかの肝炎である等の家族歴のある方
  • パートナーがいずれかの肝炎である方
  • C型肝炎ウィルスが発見された以前に輸血をしたことがある方
  • C型肝炎に脂肪肝を合併している方
  • 常習的に飲酒をしている方
  • 喫煙をしている方
  • メタボリックな因子を持っている方
  • 非アルコール性脂肪肝(NASH)の人
  • 肝機能悪い方

などです。このような因子を持っている方は定期的な肝臓のチェックをお勧めします。

なお、年齢や食生活、生活様式には特別な危険因子はないと言われています。

また、以前は母親がB型肝炎ウィルスを持っている場合、産道感染によりその子供がB型肝炎ウィルスに感染することがありましたが、現在では予防法が確立しており、母親から子供への感染はほとんどなくなりました。

がん予防に繋がる生活習慣の改善

糖尿病とがんの背景には共通のリスク因子として、不適切な生活習慣が関与していることは、以前にも記載しました。だとすれば生活習慣を改善すれば、糖尿病にもがんにも効果があるはずです。つまり、糖尿病の予防や改善のために生活習慣の改善に取り組むことは、将来のがんリスクを減らすことになると考えられます。

ここで生活習慣とがんの関係について改めて確認しておきましょう。

1.身体活動の影響

運動を良くする人としない人を比べると、運動を良くする人はがんが1~2割減ることが分っています。そして、結腸がん、肝臓がん、すい臓がんといった、糖尿病の人で増えるようながんが半分近くに減ります。総死亡率も約3~4割減っています。運動する人はがんになりにくいし、長生きだと言う事がはっきりしています。

2.煙草の影響

たばこを吸っている人は、がん全体のリスクが1.6倍に増えます。そして食道がんや肺がんは煙草によって大きくリスクが増えるがんですし、脳卒中や虚血性心疾患のリスクも増えてきます。たばこは生活習慣の大きな問題です。

3.お酒の影響

お酒については一番リスクが少ないのは、全く飲まない人ではなく、時々飲む人だと言われています。しかし、大量飲酒者では、がん全体のリスクは煙草と同程度増加します。そして食道がんは特にお酒が関係したがんであり、脳卒中や総死亡のリスクも高めます。

4.体型の影響

肥満も糖尿病と同じ程度にがんのリスクになります。体型とがんのリスクを見ると、肥満の人はがんが増えてきますが、やせすぎの人もがんのリスクがあります。一番リスクが少なかったのが、BMIで23~25の範囲の方だと言われています。

以上のように、運動やたばこ、お酒や食事、肥満などの生活習慣はがんのリスクに直結しています。がんも生活習慣病だと言われる所以です。ですから、これらの生活習慣を改善するだけで、がんによる死亡を大きく減らすことが期待できるのです。

ナッツによるがん死亡リスク低下の可能性

一握りのナッツを毎日食べる人は、食べない人よりも全死亡率が20%低下することが、大規模な疫学的研究で明らかになり「New England Journal of Medicine」誌で発表されました。

この研究は食事や生活要因などの健康転帰に関する様々なデータを収集している2つの観察研究(看護師健康調査と男性医療従事者追跡調査)のデータを活用して行なわれました。

参加者は一人分(約28グラム)のナッツをどのくらいの頻度で摂取したかを答えた。30年にわたり追跡し、喫煙や運動習慣など死亡率に関与する可能性のある要因を除外する最新の分析手法が用いられました。

この結果、死亡率はナッツを食べない人に比較して、食べる頻度が週1回の人は11%、週に2~4回の人は13%、週に5~6回の人は15%、週に7回以上の人は20%低下したことが明らかになりました。

疾病別に見ると、心臓病の死亡が29%低下し、がんによる死亡リスクも11%減少したと言われています。

更にナッツを食べる習慣のある人は、ない人より細身であると言うことも報告されています。

ナッツというと一般的には木の実の事ですが、ピーナッツでも死亡率低下は同程度あるそうです。

海外での研究成果なので、そのまま我々に当てはまるかどうかはわかりませんが、一考に価する結果ではないでしょうか。

大腸がんの症状

国立がん研究センター予測では2015年に日本人に最も多くなると言われる大腸がんは、早期の場合にはほとんど自覚症状がありません。また、便潜血検査でも中々診断できません。ですので、なんらかの自覚症状が出てきた場合は、大腸がんがある程度進行している可能性が考えられます。

大腸がんがある程度進行すると、粘膜表面に潰瘍ができ出血し、便が大腸を通るときに擦られて血液が付着し、下血や血便、粘血便となって現れるのです。また、腸管が狭くなるために、便の通りが悪くなり、便秘、腹部膨満感、下痢、残便感、便が細くなる(便柱狭小)、などの便通異常を起こしたり、腹痛、腸閉塞、貧血、腹部の腫瘤などの症状が現れたりします。

これらの症状の程度や起こり方は、がんの発生部位や進行度によって差があります。

一般に、大腸の右側(盲腸、上行結腸、横行結腸)に発生したがんでは自覚症状が起こりにくく、腹部にしこりが触れたり、慢性的な貧血症状が生じるようになってから受診し、発見されることが多いとされています。

反対の大腸の左側(下行結腸、S状結腸、直腸S状部、直腸)に発生したがんでは、下血や粘血便などの出血や便秘、下痢、便が細くなるなどの症状がきっかけとなり診断されることが多くあります。

いずれにしてもこのような症状がある場合は、早めに消化器科、胃腸科、肛門科のある医療機関で検査を受けましょう。もしがんが見つかっても早期発見・早期治療につながります。大腸がんは切除できれば十分に根治可能な場合が多いのです。

膵がんの危険因子

日本では膵がんと言うと、一般的には「浸潤性膵管がん」を指し、発症すると進行も早く、予後も悪いがんだと言われています。膵管から発生し、砂をまき散らすように周囲に広がっていくがんで、見つかった時には、約半数の人が切除できないと言うのが現状です。

では、そのようなすい臓がんはどのような人がなるのでしょうか。上記したように、すい臓がんは早期発見が非常に難しいがんで、見つかった時には進行しているケースが多いので、なかなか危険因子を絞り切れていません。

しかしながら、今までのいろいろな疫学的研究の結果、膵がんガイドラインでは下記のような危険因子が挙げられています。

1.家族歴

兄弟や父母、祖父母が膵臓がんを発症している場合は、やはりすい臓がんになる可能性が高い傾向にあります。また、遺伝性膵がん症候群と言って、遺伝的にがんが速くできてしまうような方もすい臓がんの発症率が高いと言われています。

2.合併疾患

合併疾患として糖尿病を持っている人は疫学的にみて糖尿病でない人よりもリスクが高いと言われています。また、肥満や慢性膵炎もリスクが高い傾向にあります。

3.喫煙

生活習慣では喫煙が独立した危険因子としてガイドラインに掲載されています。危険率は2~3倍と言われています。

見つかった時には進行していることの多いすい臓がんです。上記に心当たりのある方は、定期的な検診をされてはいかがでしょうか。

がんと糖尿病の関係その2

日本でも増加している糖尿病ですが、一般的に、糖尿病の患者の方はそうでない方よりも寿命が短いと言われています。

その差は男性で9.6歳、女性では13歳も違うそうです。

では糖尿病患者さんの死因はどうなっているのでしょうか。1980年代までは血管障害(腎障害、虚血性心疾患、脳血管障害)が1位でしたが、1990年代からは、がんが第1位になっています。これはどういうことだと思いますか?

その答えは、合併症予防の取り組みが進んだことにより血管障害で亡くなる方が減少したからだと考えられています。つまり、血管障害で亡くなる方が減少し、糖尿病患者さんが長生きになったので、がんで亡くなる方が増加しているということです。

この傾向は、今後ますます強まるのではないでしょうか。ですから糖尿病患者さんにとっては、失明したり、透析になったりする事とともに、がんになると言う事も現実的であると言う事なのです。

以前にも申し上げましたが、最近の調査では、糖尿病とがんの合併は単なる偶然では無いことが明らかになっています。日本のデータでは前立腺がん以外のがんは、糖尿病で増加するのです。(欧米でのデータも同じ傾向を示しています。

それは何故かと言うと、糖尿病とがんには共通のリスク因子があるからだと言われています。

リスク因子としては、変えられるリスク因子と変えられないリスク因子があります。

変えられないリスク因子は、「加齢」「性別」「遺伝子型」があります。糖尿病とがんは、どちらも年齢とともに増える病気で、男性の方がなりやすい。さらに特定の遺伝子型がある方は、どちらの病気にもなりやすいと言う事が分ってきています。しかし残念ながらこれらは変えようがないものです。

他方、変えられるリスク因子としては「肥満」「食事」「運動不足」「喫煙」「飲酒」といった生活習慣があります。これらの生活習慣は、糖尿病だけではなく、がんをも増やすことになるそうです。つまり、糖尿病とがんの間に直接の因果関係が無いとしても、これらのリスク因子を持っている方は、両方の病気になりやすいと言う事になるわけです。

しかし、これらは修正可能なリスク因子でもあります。つまり改善できると言う事なのです。これらのリスク因子に心当たりのある方は、生活習慣の改善をはじめては如何でしょうか?

がんと糖尿病の関係 その1

以前は、糖尿病になるとがんにならないという都市伝説?がありました。

しかしながら実際は、糖尿病患者さんはがんになりやすく、がん患者さんは糖尿病を起こしやすいと言われています。

2013年の5月に日本癌学会と日本糖尿病学会の合同委員会では「糖尿病とがんのリスクに関する報告」が発表されました。この報告によれば糖尿病がある人は無い人に比べて、全がんで1.2倍の発症リスクがあると言われています。

何故ならば、糖尿病とがん発生の間には、肥満、運動不足、喫煙、飲酒などの共通の原因もありますが、インスリン抵抗性や高血糖など、糖尿病の病態ががんを増やすリスクになると言われているからです。特に増加しやすいのは肝がんで糖尿病のない人の1.97倍のリスクであり、膵がん、大腸がん、子宮体がんと乳がんもリスク増加すると言われています。

また、もともと糖尿病があった患者さんに、がんが出来た場合の特徴的な症状として、血糖コントロールが悪化する事が多いと言えます。ですから、特に食べ過ぎてもないし運動量も以前と同じなのに血糖値が上がるなど、特別な理由もないのに血糖コントロールが悪くなる場合、その原因としてがんが隠れていることがあるので、十分な注意が必要です。

肝がんの原因NASH(非アルコール性脂肪肝炎)

がんと糖尿病の関係 その2

日本人のがん予防法とがんリスクチェック

日本人での疫学的な調査を踏まえて、国立がん研究センターがん予防・検診センターでは、日本人のためのがん予防法を提唱しています。それは次の6項目からなります。

  1. たばこは吸わない
  2. 食事はかたよらず、バランスよく
  3. 運動不足にならないように
  4. 飲酒は適度に
  5. 太りすぎない、やせすぎない
  6. 肝炎ウィルスに感染しているかを知り、感染している場合は治療する

となります。

1~5番目までは生活習慣に関する部分です。6番目は生活習慣とは関係ないのですが、肝臓がん予防の大きなポイントです。

日本人の肝臓がんの原因としてはC型肝炎ウィルスの関与が大きく、C型肝炎に感染している人が肝臓がんになるリスクは、感染していない人の36倍と言われていますので、肝炎ウィルスに感染しているかどうかは非常に大きなポイントになり、感染している場合は治療が提唱されるのです。

また、1~5番目までの健康習慣とがんの関係を見ていくと、その該当数が増えるほどがん罹患リスクが減っていくことを示したデータがあります。男女ともに、該当数が0~1個の方と比べて、5つそろっている方はがん罹患リスクが40%以上減少します。また、60歳を超えても同様の効果が見られているので、生活習慣の改善はいつから始めても遅いと言う事はないのです。

国立がん研究センターのホームページには、40歳~69歳の方に対する「がんリスクチェック」というものがあります。簡単な項目に入力していくと、今後の10年間でがんになるリスクをチェックすることができると言うものです。是非お試しください。

【がんリスクチェック】http://epi.ncc.go.jp/riskcheck/index.html

がんは何故再発するのか?

がんは完治が難しい病気といわれます。なぜならば、がんは治ったように見えても再発する可能性があるからです。

つまり、がんの怖さは再発・転移にあるのです。

ではなぜ再発するのでしょうか?再発の理由としては、主に3つの理由があると言われています。

一つ目は、治療後にもわずかながん細胞が残っている場合があることです。手術の際に目に見える(画像に写る)がん細胞を全て取ったとしても、見えないがん細胞が残ってしまったり、すでに他の臓器に転移している場合などは、その残されたがん細胞が増殖して、再度がんとして成長をはじめる場合があります。

二つ目は、ひとたびがんを発症した患者さんは、例えがんの除去に成功したとしても「がんになりやすい状態」の身体そのもは変わっていないためです。どういうことでしょうか。がんはいくつかの遺伝子の変異が積み重なって発生する病気です。一方で、がんを発症した方の身体の中には、がんが出来たところ以外のところにも遺伝子の変異が生じている可能性があります。それゆえに再発の可能性が高いと言えるのです。

三つ目は、がん治療の過程で抗がん剤治療や放射線治療を受けたことが、がん発症の原因になり得るからです。放射線や抗がん剤の多くは、DNAを傷つけることによってがん細胞を殺します。しかしこの治療法では正常細胞の一部も遺伝子が傷つけられてしまい、その細胞ががん化することが有り得るそうです。

がんの再発は治療後2~3年以内に起こることが多く、一般的には遅くても5年以内に再発すると言われています。ですから一般の固形がんは5年間再発しなければ治癒と言う言葉が使われます。しかしながらがんの種類によっては乳がんのように10年以上経ってから再発する例もあります。そのような観点からも、5年経過してからも定期的な検査は大事です。