前立腺がんの臨床試験‐寡分割照射法(放射線療法)

前立腺がんの治療選択の一つに放射線療法があります。放射線療法には外照射と内照射があります。

内照射では、放射性物質を小さなカプセルに密封し、それを前立腺の中に埋め、身体の中から放射線を当てる小線源療法が行われます。

一方、外照射は身体の外から放射線を当てる方法です。前立腺がん診療ガイドラインでは根治的放射線治療では総線量70グレイ以上が必要で、1回あたりが1.8グレイから2グレイの照射が標準と記載されてます。その為に患者さんは相当回数の通院が必要となります。

寡分割照射法は1回の照射量を増やす照射法の事で、照射回数を減らすことが出来ます。生物実験や組織内照射の結果から、前立腺に放射線を照射する場合には高線量を少数回かけたほうが良く効くかもしれないと数年前から指摘されるようになってきたからです。

しかし1回あたりの線量を増やすので、少し間違えば正常組織を傷つけてしまい、副作用が強く出てしまいます。そこで用いられるのがIMRT(強度変調放射線治療)とIGRT(画像誘導放射線治療)です。両者を併用することにより、非常に精度の高い照射が可能となります。

日本ではIMRTとIGRTの併用寡分割照射の第Ⅱ相臨床試験が行われています。1回あたりの照射線量は2.5グレイで、総線量70グレイを28回で照射します。現在は登録が終了し、経過観察中です。

欧州では従来法と比較して同等の成績とする報告が出始めていますが、日本ではまだデータの報告はされていません。この治療法が可能になると従来法では8週間掛かっていた放射線治療が6週間でできると言うメリットと1回の線量を上げることで治療効果が高まるかもしれないと言う事があります。

ただし、承認されたとしても、機材の問題と技術的な問題で、限られた施設での治療となるかもしれません。

最先端型ミニマム創前立腺全摘手術(ロボサージャン手術)

前立腺がんの治療には多くの選択肢がありますが、その中の一つに前立腺全摘術があります。

前立腺全摘術はもともと開腹で行われていましたが、その後、腹腔鏡手術も行われるようになりました。腹腔鏡は切開部位が小さく、患者さんの身体的負担が軽いのがメリットですが、逆に術者からは立体的な視野と自由に動く指を奪いました。

腹腔鏡手術で失ったこの二つの要素を回復させたたのが、ダヴィンチ手術です。手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った手術では患者さんから離れた位置で機械を操作しますが、このとき覗き込む画像は拡大3D画像です。

さらに人間の指以上に器用に動く多関節鉗子が使われています。つまり「ダヴィンチ」は立体的な視野と自由に動く指を術者に取り戻したのです。2012年4月からダヴィンチによる前立腺全摘術が健康保険適用になってからは急速に普及しています。

一方でダヴィンチによる手術は高価な使い捨ての器具が多く、機械自体も維持費も高いので、コストが高くなってしまいます。

そのようなダヴィンチと異なるアプローチで患者さんに優しい手術を目指したのが「ミニマム創内視鏡下手術」です。

この手術では、切開する部位はダヴィンチの4~6個に対して、1円玉2個程度の大きさの切開を一か所だけで済みます。ですので、手術を受けた患者さんの回復が早いと言われています。また、二酸化炭素ガスで腹腔を膨らませないのもミニマム創内視鏡下手術の利点だと言えます。これにより、呼吸器系や循環器系へのリスクを低減できます。さらにミニマム創内視鏡下手術ではそのほかの全摘術と異なり、後腹膜腔から直接入っていくので腹腔を開けません。ですので、この手術では腸の癒着を起こす危険性がほとんどなくなります。

さらにこの手術は進化を続け、術者がヘッドマウントディスプレーなどを使用する、「最先端型ミニマム創内視鏡下手術」となっています。これにより内視鏡の拡大3D画像だけでなく、経直腸超音波画像やMRI画像を並べて映し出すこともできるので、血管の位置などを正確に把握しながら手術が行えるのだと言います。

また、多数のヘッドマウントディスプレーに同じ画像を映し出せるので、多数の術者が同じ情報を共有しながら手術を進めることができます。

また、手術器具の進歩も著しく、例えば、血管を切断した時に糸で結ばなくても止血できるような機器が開発されています。このような技術の開発により、小さな切開部位からより安全に手術が行えるようになりました、ですから、この手術に使う器具はダヴィンチほどの動きをすることは出来ませんが、必要な操作はほぼ十分に行えるようになっているのです。

前立腺がんの神経温存手術

前立腺の両側には、性機能を掌る神経が通っています。通常の手術ではこの神経を切断してしまうため、ほぼすべてのケースで性機能障害が生じるそうです。

しかし、がんが前立腺内にとどまっていて、本人の希望があれば、神経を温存する手術が検討されます。

性機能をコントロールしている神経は2本あり、どちらも前立腺に接するように走っています。神経温存手術では、前立腺を切除するときにこの神経を避けてメスを入れます。

がんの広がり方によって、2本の神経のうち、どちらも残せる場合と1本だけ残す場合とがあります。がんの広がりが前立腺の片側に偏っている場合は、反対側の神経だけを残すことが検討されます。当然ですが、性機能が温存される確率は神経を2本残す方が高くなります。

現状では、性機能の回復率はあまり高いとは言えません。(50%程度と言われています。)しかしながら、手術法の工夫が重ねられ、回復の確率も高まりつつあります。

神経切断後、くるぶしの外側にある腓腹神経を移植する方法もありますが、この場合の性機能の回復までに要する時間は1年以上と言われています。

どちらにしても、現状ではこれらの治療で、性機能が維持できるかは不確実です。

がんを取り除くことと併せて、よく考える事が重要ではないでしょうか。