がん検診のすすめ

公益財団法人 がん研究振興財団による、「がんを防ぐための新12か条」の10番目には「定期的ながん検診を」と書かれています。

がん検診でがんが見つかっても、それは早期発見かもしれませんが、厳密な意味での予防ではありません。しかしながら、早期発見は早期治療につながり、がんによる死を防ぐことができるという意味で「がんの2次予防」と呼ばれています。

多くのがんは初期のうちには自覚症状を伴いません。その為に、自覚症状が出るころにはがんがかなり大きくなっている事が多いのです。

しかし自覚症状が出ても多くの方はすぐに検査を受けようとしません。さんざん悩んで、症状がかなり進んだころにようやく検査を受けて、大きくなったがんが発見されるというケースも少なくありません。

がんの早期発見に意味は無いと言う意見をおっしゃる方もいらっしゃいます。しかし、例えば皆さんもお聞きになったことがある「重粒子線治療」。この治療は手術できない場所にあるがんに照射する場合もありますが、しかし進行度で言えば、手術が出来るような状態でなければ重粒子線治療も適用になりにくいのです。つまり早期発見が必要と言うことになります。

国立がんセンターで、なんの症状も感じていない7000人にがん検診を受けてもらったところ、なんとそのうちの5%にがんが見つかったそうです。5%と言うのは20人に1人ですから、かなりの高率です。(年齢などの関係もあるのでしょうけど)

なんの症状がない人でも5%の方にがんがあったことからも解るように、がんは初期の段階では信号を出してくれないのです。面倒くさいとか、怖い、などと言わずにがん検診を受ける機会を作りましょう。

下記の再発率から判断しても早期発見の意義は高いと思います。それに現実的にがんの進行度が若ければ若いほど治療の選択肢は多くあるのですから。

大腸がんの再発・転移率と検診の必要性

食道がんに対する化学陽子線治療

食道がんは早期に発見するのが難しいがんです。初期の段階から周囲へのリンパ節への転移が起こるため、何らかの症状が出て発見された場合の多くはリンパ節転移が起きています。そのため、遠くの臓器への転移が起きていないⅢ期までの食道がんでも治療範囲は比較的広くなります。

標準治療には「手術」と「化学放射線療法」があります。一般的に第一選択は手術となりますが、高齢の患者さんや、なんらかの合併症がある患者さんにはリスクが大きすぎるので、放射線治療と抗がん剤治療を同時併用する「化学放射線療法」が行われます。手術と比較しても、手術にかなり近い治療成績を上げています。

しかしながら、化学放射線療法には、化学放射線治療ならではの副作用があります。食堂に放射線を照射するときに、どうしても心臓や肺に放射線がかかってしまうのです。それにより心臓を包む膜に水がたまる「心外膜炎」や「放射性肺炎」が代表的な障害として発生してしまうのです。

これらの副作用を軽減するのに効果的だと考えられているのが、「化学陽子線治療」です。化学放射線治療の放射線治療の部分をX線から陽子線に置き換えたものです。

陽子線には「ブラッグピーク」という、エネルギーの放出が、ある一点で大きくなる性質があります。ですからそのピークをコントロールすることにより、目的とする臓器以外には放射線があまりかからないようにすることが出来るのです。そのことにより、食道がんの場合は肺や心臓に対する影響を大きく減らすことが出来ると期待されているのです。照射回数は基本的には30回照射を行います。

また、陽子線治療は先進医療なので、その部分の費用は全額自己負担となります。金額は筑波大学では、248万4000円と高額となります。その他の部分の治療には保険が適用されます。

食道がんの特徴と症状

食道は口と胃をつなぐ管状の臓器で消化機能を持たない食物の通り道です。

そして食道には漿膜という臓器を包む膜が無いと言う特徴があります。このため食道がんは、転移しやすいという性質があります。

食道がんは食道の真ん中か、下1/3に最も多く発生します。食道の上皮は扁平上皮で出来ているので、食道がんの90%以上が扁平上皮がんです。

喫煙、飲酒、熱い飲食物などが食道がんの発生と関係するといわれています。特にお酒とタバコの両方をたしなむ人に多く見られます。食道がんにかかると咽頭や口、喉頭などにもがんが出来やすく、一方で、咽頭や口、喉頭などにがんが出来ると、食道がんもできやすい傾向があるようです。

食道がんの症状は以下のとおりです

1.無症状・・・健康診断や人間ドック時に、無症状の食道がんの20%近くが見つかります。

2.食道がしみる感じ・・・食物を飲み込んだ時に胸の奥がチクチク痛んだり、熱いものを飲み込んだ時にしみるように感じるなどの症状が、がんの初期の頃に認められ、早期発見には重要な症状となっています。

3.食物がつかえる感じ・・・がんが大きくなると、固形の食物がつかえて異常に気が付くことになり、がんがさらに大きくなると、水も通らない状態になります。

一般的な治療方法としては、手術、内視鏡的粘膜切除術、抗がん剤治療、放射線治療となり、これらを組み合わせた集学的治療も行われます。

また放射線医学総合研究所では食道がんに対する重粒子線による臨床試験も行っていますが、臨床病期Ⅱ、Ⅲ期食道がんに対する化学療法併用術前炭素イオン線治療の第I/II相臨床試験となっています。扁平上皮がんが対象となっています。術前となっていますように手術との併用治療ですので、病巣が手術により切除できることが必要条件になります。肝臓や肺、遠隔リンパ節などに転移がある患者さんは適応外となっています。

神奈川県立がんセンターが重粒子線治療を開始

12月1日付の日経新聞によりますと、神奈川県立がんセンターがかねてより建設をしていた、重粒子線の専用施設(アイロックと言うそうです)を12月中旬から稼働するそうです。

通常の放射線治療に使用されるX線は、体表部が一番線量が高く奥に進むほど線量が低くなるという性質がありました。その為にがん細胞だけでなく正常細胞にもダメージを与えてしまうと言う欠点があります。その欠点を補うためにがん細胞の形に添って360度から線量の強度を調整しながらX線を照射する強度変調放射線治療(IMRT)などの技術が開発され、大変有効に活用されています。

一方で重粒子線治療も放射線治療の一種ですが、X線を使用せずに光速の70~80%の速度に加速した炭素イオンをがん細胞に照射するという治療です。ちなみに陽子線治療は炭素イオンではなく、軽い水素イオンを使いますが、どちらの治療も粒子線が持つブラッグピークと言う特性を活かして、がん細胞だけをピンポイントで狙うことができると言われています。また、炭素線はパワーも高いためにがん細胞の殺傷能力もX線治療に比べて高いと言われています。もちろん放射線治療の一種ですので、手術痕なども残らず、低侵襲な治療です。

更に、アイロックでは高速三次元スキャニング照射法を用いた重粒子線治療を行います。この照射法は、細い重粒子線ビームで腫瘍を塗りつぶすように照射する新しい技術です。

この技術を用いることで、腫瘍の形状に合わせて腫瘍だけに高い線量を集中させることができます。また、腫瘍の周りにある正常組織の線量を今までの照射法よりさらに低く抑えることができると言われています。

期待が高まるアイロックですが、重粒子線治療共通のネックとして、費用の高さがあります。民間の生命保険などを上手に活用しての準備をされておいたらいかがでしょうか。

乳がんの陽子線による研究治療

鹿児島県の指宿にある「メディポリス国際陽子線治療センター」では2011年の開業以来、先進医療として陽子線を使ったがんの治療を行っています。今までの治療実績は1,500人以上に上るそうです。

ご存知の方も多いと思いますが、重粒子線や陽子線治療にはブラッグピークと呼ばれる、ある深さで線量が大きくなると言う特徴があります。それを上手にコントロールすることにより、がん病巣を狙い撃ちして、正常細胞にはあまり影響を与えない放射線治療が可能になります。

この度、この治療法をメディポリス国際陽子線治療センターでは乳がんに対して研究治療を開始しました。特許を出願している乳房を固定する装置と独自のシステムを使用し実施します。今回実施している患者さんには26回照射を行う予定です。早期に見つかった小さな乳がんであれば、切らずに治療できると言いますので、来年度の一般患者受け入れが待たれるところですね。

(参照:KYT鹿児島読売テレビ)