胃がんを早期発見するペプシノーゲン検査

胃がんは日本でも死亡率は下がってきてはいますが、罹患者数は相変わらず大勢いらっしゃいます。その胃がんになりやすい危険度が血液検査で判る方法が「ペプシノーゲン検査」です。「ペプシノーゲン検査」とは、血液中のペプシノーゲンの産出量を測定することによって、高い確率で萎縮性胃炎を発見することができるというものです。また胃癌は萎縮性胃炎を経て発生する可能性が高いので、胃癌の早期発見にも有効な検査方法だと言われています。

ペプシノーゲンの検査結果は数値によって陽性と陰性に分かれますが、陽性の中でも強い陽性の場合は委縮性胃炎や胃がんが疑われます。陰性でも数値が高めの場合はピロリ菌感染が疑われますので、ピロリ菌の検査をお勧めします。

ただ、ペプシノーゲン検査にも欠点はあり、萎縮と関係なく発症する未分化型腺がんや、間接X線法では容易に診断できる進行がんが逆に見逃されると言われています。そこで近年では、ペプシノーゲン検査でスクリーニングを行ない、陽性になった人は上部消化管内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)による精密検査を受け、陰性者は従来の胃X線検査を受けるという方法が最適であると考えられています。

胃がんの治療費と入院日数を知る

胃がんと告げられて、手術を行なう場合の医療費はいくらかかるでしょうか?おおまかに見てみましょう。

下記金額は、2010年の一般病院の症例をもとにした「治療費用+入院費用」のおおよその目安です。(もちろん差額ベッド代などの特別な料金は別途必要になりますし、2010年以降は特定機能病院は入院費が一日当たり3000円ほど割高になってます。)

そして、健康保険加入者が支払うのはこの3割ですし(高齢者で1割)、さらに高額療養費制度があるので、実際の負担の上限は一般的な方で月間で9万円位(最上位所得区分者は26万位)となります。

つまり治療費自体はかなり高額でも、個人の負担はかなり抑えられます。この点は日本の健康保険制度のすばらしい面だと思います。ただし、高額療養費制度は暦月で精算するので、複数月に跨った治療の場合は注意が必要です。

また、実際には直接的な治療費だけではなくそれ以外の費用も考えて、計画的な資金準備をするべきでしょう。

手術方法 内容 入院期間 金額
内視鏡手術 ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術) 8日 約50万円
EMR(内視鏡的粘膜切除術) 7日 約30万円
腹腔鏡下手術 部分切除 23日 約160万円
全摘出術 28日 約210万円
開腹手術 部分切除 28日間 約170万円
全摘出術 38日間 約240万円

食道がんの特徴と症状

食道は口と胃をつなぐ管状の臓器で消化機能を持たない食物の通り道です。

そして食道には漿膜という臓器を包む膜が無いと言う特徴があります。このため食道がんは、転移しやすいという性質があります。

食道がんは食道の真ん中か、下1/3に最も多く発生します。食道の上皮は扁平上皮で出来ているので、食道がんの90%以上が扁平上皮がんです。

喫煙、飲酒、熱い飲食物などが食道がんの発生と関係するといわれています。特にお酒とタバコの両方をたしなむ人に多く見られます。食道がんにかかると咽頭や口、喉頭などにもがんが出来やすく、一方で、咽頭や口、喉頭などにがんが出来ると、食道がんもできやすい傾向があるようです。

食道がんの症状は以下のとおりです

1.無症状・・・健康診断や人間ドック時に、無症状の食道がんの20%近くが見つかります。

2.食道がしみる感じ・・・食物を飲み込んだ時に胸の奥がチクチク痛んだり、熱いものを飲み込んだ時にしみるように感じるなどの症状が、がんの初期の頃に認められ、早期発見には重要な症状となっています。

3.食物がつかえる感じ・・・がんが大きくなると、固形の食物がつかえて異常に気が付くことになり、がんがさらに大きくなると、水も通らない状態になります。

一般的な治療方法としては、手術、内視鏡的粘膜切除術、抗がん剤治療、放射線治療となり、これらを組み合わせた集学的治療も行われます。

また放射線医学総合研究所では食道がんに対する重粒子線による臨床試験も行っていますが、臨床病期Ⅱ、Ⅲ期食道がんに対する化学療法併用術前炭素イオン線治療の第I/II相臨床試験となっています。扁平上皮がんが対象となっています。術前となっていますように手術との併用治療ですので、病巣が手術により切除できることが必要条件になります。肝臓や肺、遠隔リンパ節などに転移がある患者さんは適応外となっています。

胃がん手術後の感染症の注意

胃がんの手術によって体力が低下すると、普段から身の回りにいる菌などによって感染症を起こしてしまうことがあります。さらに、手術後に抗がん剤治療を受けている場合にも注意が必要です。

感染症としては、肺炎や虫歯、感染性腸炎などがあります。

肺炎では、食べ物が気道に入って起こる誤嚥性肺炎があります。これは高齢の方によく見られます。

虫歯や歯周病も口の中の細菌が引き起こす感染症です。放置していると菌がほかの部位に移って感染が広がり、重症化することがあるので、注意が必要です。

感染性腸炎は、殺菌作用のある胃酸の分泌が減ることで、食べ物と一緒に腸内に入った細菌などが感染を引き起こすことがあります。

このほかにもいろいろな部位で感染をおこしやすくなります。

感染症が疑われる症状としては次のようなものがあります。

1.38℃以上の発熱

2.せき、寒気、震え

3.歯肉痛、むし歯、口内炎

4.腹痛を伴う下痢

です。

感染症は、一旦かかると治りにくく、悪化しやすい傾向がありますので、注意が必要です。

せっかく手術が出来たのですから、上記のような症状がある場合にはただちに受診しましょう。

胃がんの縮小手術

胃がんの手術では定型手術が標準治療となっています。胃に関連したリンパ節に転移した可能性のある場合はこの定型手術が行われます。

定型手術は胃の3分の2から5分の4程度の切除と切除範囲の領域のリンパ節すべてを、その周りの脂肪組織とともに切除します。日本ではがんが出来る場所との関係もあり、胃の出口の方の幽門側を切除する、幽門側切除が行われます。全摘も含め、幽門がなくなると、食物が一気に腸に流れるため、低血圧、発汗、めまい、低血糖状態が現れるなどの「ダンピング症候群」などが発生しやすくなります。

このような障害を軽減し、手術後のQOLを上げる目的で行われるのが縮小手術です。

縮小手術は定型手術と比較して胃の切除範囲を縮小するとともに、リンパ節を取り除く範囲も縮小した手術です。

胃の切除範囲の縮小にはいくつかの選択肢がありますが、その一つに幽門保存切除術があります。これは胃の出口である幽門を残すことによって、上記ダンピング症候群の発生や腸液が胃に逆流するのを防ぐことができます。また、胃以外の組織の切除縮小範囲としては、胃に付着している大網と言う脂肪組織の多い膜を残せます。これにより、腸の癒着の程度を減少させ、腸閉塞が起こる危険性を少なくできます。また、胃の周囲の神経を温存することにより、手術後に下痢が起こりにくくなり、また胆石が出来るのも防げます。

このような縮小手術の適応は、リンパ節転移の可能性はあっても低いこと、がんが粘膜内か粘膜下層にとどまっていることが条件となり、内視鏡治療適応外のがんに対して行われます。

胃がんのロボット内視鏡手術

胃がんの手術方式は大きく分けると、おなかを切り開く開腹手術と、おなかに小さな穴をあけて器具を挿入して行う腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術には傷口が小さいので術後の痛みが少なく回復が早いと言うメリットがあります。

ですので、胃がんの手術における腹腔鏡手術の割合は年々上昇しています。ただ、通常の腹腔鏡手術には、細かい作業がしにくいとか、画像が2次元なので奥行きが分りにくいなどの欠点があります。そのような欠点を減らすように進化したものが、最新の手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った「ロボット内視鏡手術」です。

ダヴィンチ手術は前立腺がんの手術では公的医療保険の対象として承認されており、現在日本全国で200台以上のダヴィンチが稼働しています。しかし胃がんに関しては昨年に先進医療として承認されたばかりで、実施している医療機関も限られています。

最新のダヴィンチSiはアームの可動域が大きく、狭い場所でも人間の手よりも器用に動かせます。更に高性能の手ブレ防止機能が付いており、手術の精度が上がることになります。また、モニターで見られる画像が3Dである事も大きな利点です。奥行きが感覚的につかめるようになり、更に映像を10倍にまで拡大できるので、手術がやり易くなっなります。結果、手術の精度が上がり、合併症のリスクが軽減され、予後にも良い影響を与えます。

非常に素晴らしいダヴィンチ手術ですが、注意しなければならない点がいくつかあります。

まず、ダヴィンチは手術ができない患者さんを手術できるようにすることが出来るわけではありませんし、切除範囲を小さくすることが出来るわけでもないと言うことが重要な点です。

更に、ダビンチによる胃の手術を先進医療で実施することが出来るのは全国では5か所の医療施設だけです。先進医療で受ける場合は

  1. がんのステージが1または2まで
  2. 85歳以下の年齢
  3. 糖尿病がある場合、血糖コントロールが適切に行われている

等の条件を満たす必要があります。

また費用に関しては、総費用199万250円で、先進医療に係る費用は130万9,400円ですが、このうちの50万円はダヴィンチのメーカーが無償提供してくれるので、患者負担は80万9,400円となり、残りの68万850円は保険診療扱いとなります(どちらの費用も第22回先進医療会議資料より)。

塩分と(胃)がんの深い関係

塩分の過剰摂取は高血圧を通じて脳卒中の大きな原因と考えられていますが、他にも胃がんと深い関わりがあり、さらにはがん全般の発症とも関わっているといわれています。

ではなぜ塩分の過剰摂取で、胃がんのリスクが増加するのでしょうか。

塩分は過剰にとると刺激によって胃壁が荒れやすくなります。まず、このこと自体ががんの発生を促すと考えられます。さらに荒れた胃壁にはピロリ菌が棲みつきやすく、活動や繁殖も活発になるそうです。そしてそのピロリ菌によって、さらに胃の粘膜が荒れるという悪循環が発生します。そこでは胃壁の荒れと修復が繰り返されます。一方で身体の組織はどこであれ、荒れて修復を繰り返すほど、がん化のリスクは高まっていきます。つまり、塩分とピロリ菌がタッグを組めば胃がんのリスクが高まるのは当然なのです。

さらに荒れた粘膜からは塩分そのものが細胞に浸透しやすくなり、それにより細胞のミネラルバランスが崩れることによっても、がん全般のリスクは高まると考えられています。

もともと我々の身体にはミネラルが溶け込み一定のバランスを保っています。そのことにより正常な代謝が行われるようになっているのです。その中でも特に重要なのが、ナトリウムとカリウムのバランスだといわれています。しかし塩分(ナトリウム)の過剰摂取が続くとこのバランスの乱れを招きやすくなります。このバランスが乱れると細胞の代謝の異常につながりやすく、ひいてはがんの発症の促進につながると考えられています。

このようなことから、塩分の取りすぎは脳卒中だけではなく、がんの大きな要因にもなっていると考えられるのです。ですので、がんの食事療法で有名な「ゲルソン療法」や「甲田療法」、そのほかの多くの「がんの食事療法」では塩分の制限を行うのです。塩分は人間の身体に必要なものではありますが、何事もほどほどが肝要なようですね。

肺がんのレーザー照射治療(PDT)

肺がんのうち早期の肺門部のがんに対する治療法としてレーザー照射治療があります。

早期肺門部がんで行われるレーザー治療はPDTと言わます。Photodynamic Therapyの略であり、日本語では「光線力学的療法」と言われています。

一般的なレーザー治療は高出力のレーザーで病巣を焼切るというイメージがありますが、肺がんのPDTに使用するレーザーは非常に弱いものを使います。手をかざしても熱さを感じない程度で、レーザーメスの出力の200分の1程度の出力です。

そのような弱いレーザーでどのようにしてがんを治療するのでしょうか?

まずは腫瘍親和性光感受性物質を注射します。この物質はがんに選択的に集中する物質で、光を当てると活性化する性質を持っています。この物質ががんに集中した時にレーザー照射を行い、活性化させるのです。そしてこの物質は、活性化した状態から落ち着いた状態に戻るときに活性酸素を出します。その活性酸素ががんをやっつけるという仕組みなのです。

適用は早期の肺門部(太い気管支のあたり)がんで、大きさは1cm以内、がんの深さが3mm以内のものに有効とされています。

この手術法は開胸手術をするわけではなく、肺を切除するわけではないので、身体への負担は軽い治療法です。

但し、光感受性物質を注射しているため、手術後は日焼けしやすいので、2~3週間は直射日光を避けることになります。

PDTは1986年以降、早期の肺癌だけでなく、胃癌、食道癌、子宮頚癌に対し保険で治療がきるようになっています。

胃がんの新たな分子標的薬 サイラムザ

胃がんに対する最も有効な治療は手術による切除ですが、がんが進行しているために切除が難しかったり、術後に他臓器への転移などで再発した場合は、化学療法が治療の中心となります。

そのような場合でHER2陽性の場合は、分子標的薬のハーセプチン(トラスツズマブ)が2011年から使用可能となりましたが、HER2陰性の場合は、ファーストラインの化学療法としては、TS-1とプラチナ系抗がん薬を併用する治療法が行われています。(プラチナ系の抗がん薬としては、シスプラチンに加えて2015年3月からはオキサリプラチンが使用できるようになりました)

ファーストラインの薬剤が使えなくなった時のセカンドラインの薬剤として使われるのがタキサン系の薬剤であるタキソールやタキソテール、そしてイリノテカンが標準治療として位置づけられています。

このような状況の中で新たに登場したのが分子標的薬の「サイラムザ」です。

サイラムザはがんに栄養を運ぶための血管を作る「血管新生」を阻害する「血管新生阻害薬」です。タキソールと併用で使用されますが、日本が参加している臨床試験では良好な結果が報告されています。また、海外では1次治療で増悪が認められた、進行性の胃がん患者さんを対象に、サイラムザを単剤で投与する臨床試験も行われており、良好な結果が得られています。

副作用は同様な血管新生阻害薬のアバスチンの副作用である血栓症や消化管穿孔などがありますが、頻度もそれほど多くないとのことです。他にも高血圧やタンパク尿と言った副作用が出る場合もありますが、現時点ではサイラムザ特有の副作用が明らかになっていないので、アバスチンと同様な注意が必要になります。