胃がんの新たな分子標的薬 サイラムザ

胃がんに対する最も有効な治療は手術による切除ですが、がんが進行しているために切除が難しかったり、術後に他臓器への転移などで再発した場合は、化学療法が治療の中心となります。

そのような場合でHER2陽性の場合は、分子標的薬のハーセプチン(トラスツズマブ)が2011年から使用可能となりましたが、HER2陰性の場合は、ファーストラインの化学療法としては、TS-1とプラチナ系抗がん薬を併用する治療法が行われています。(プラチナ系の抗がん薬としては、シスプラチンに加えて2015年3月からはオキサリプラチンが使用できるようになりました)

ファーストラインの薬剤が使えなくなった時のセカンドラインの薬剤として使われるのがタキサン系の薬剤であるタキソールやタキソテール、そしてイリノテカンが標準治療として位置づけられています。

このような状況の中で新たに登場したのが分子標的薬の「サイラムザ」です。

サイラムザはがんに栄養を運ぶための血管を作る「血管新生」を阻害する「血管新生阻害薬」です。タキソールと併用で使用されますが、日本が参加している臨床試験では良好な結果が報告されています。また、海外では1次治療で増悪が認められた、進行性の胃がん患者さんを対象に、サイラムザを単剤で投与する臨床試験も行われており、良好な結果が得られています。

副作用は同様な血管新生阻害薬のアバスチンの副作用である血栓症や消化管穿孔などがありますが、頻度もそれほど多くないとのことです。他にも高血圧やタンパク尿と言った副作用が出る場合もありますが、現時点ではサイラムザ特有の副作用が明らかになっていないので、アバスチンと同様な注意が必要になります。

がん治療と治療後の妊娠

一昔前まではがんになったら治療が最優先で、治療後の妊娠はあきらめざるを得ませんでした。

女性のがんで、治療や年齢によって不妊になる恐れがあるのは、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、血液がんです。乳がんでは、抗がん剤治療や長期間のホルモン薬治療の影響で、治療後に閉経したり排卵がなくなるリスクもあります。

一方で、2015年1月に厚生労働省の研究班が若年者のがんや小児がんの患者向けサイト(http://www.j-sfp.org/)を開設するなど、近年はがんの治療法に加え、生殖医療技術も進歩しているので、患者が希望すれば、可能な限り将来の妊娠を支援する動きも広がってきているようです。

また、子宮、卵巣など妊娠に直接関わる臓器のがんでは、進行度によっては子宮や卵巣を全部取らなければならないですが、ごく早期ならこれらを残せる可能性もあります。

一方で、受精卵の凍結など妊娠の可能性を残す生殖医療には公的保険が効かず、高額なのが難点となりますし、乳がんや子宮がんは治療法によっては、妊娠の可能性を残すためにがんの治療が不十分になる覚悟を強いられることもあります。

ですので、治療後の妊娠を望む方は、リスクや費用などを十分に主治医と相談してから治療法を決められたらよろしいのではないでしょうか。

妊娠を希望する人が、がんの治療前に主治医に確認しておきたいこと

  • 自分がかかったがんはどんな病気か、今の進行度で出産・子育ては可能な状態か?
  • 自分の受ける治療法とそれが卵巣に及ぼす影響は?
  • 現時点での卵巣の状態は?
  • 現在の計画では何歳で治療が終わる?
  • 妊娠の可能性を残すための選択肢とその費用は?

(出典:日経ヘルス&メディカル)

大腸がんは増加している

国立がん研究センターの予測によれば、2015年の日本で一番罹患数が多いがんは大腸がんとなっています。2014年の予測では胃がんが一番多いとされていましたので、大腸がんが大いに増加していることが分ります。2015年の罹患数は、予測では135,800人となっており、過去40年間で5~6倍の増加となっています。

大腸がんが増えている理由は、高齢者が増えていることや食事の欧米化、内視鏡検査の普及などが挙げられます。

部位として多いのはS状結腸と直腸で、この部分で大腸がんの約7割が発生してます。

大腸がんの自覚症状は早期がんではほとんどありません。

進行した時の症状は、血便、便通異状、腹痛の3つが典型的です。

出血に関しては通常、大量に出血する事は無く、便に付くとか便の最後に濁った赤黒い地がどろっと出るなどのケースが多いようです。痔と間違いやすいのですが、痔の出血は明るい赤なので、同じ出血でも異なります。

便通異常は、便が細くなったり、便秘と下痢を繰り返すなどが特徴的なパターンです。さらに進むと腸閉塞による腹痛や嘔吐などが見られます。

大腸がんは早期発見すれば怖いがんではありません。しかし進行して発見されれば相応のリスクが伴います。冒頭でも申し上げました通り、日本で大変に増加しているがんです。自覚症状があればもちろんの事、無い場合でも定期的な大腸がん検診などを受けることが肝要ではないでしょうか。

大腸ステント治療

がんによって大腸が閉塞することがあります。そのような状態になると便や消化液やガスが腸管内に溜まってパンパンの状態になり、患者さんは激しい苦痛に襲われ、適切な処置を行わなければ命に関わってしまいます。

そのような場合、かつては緊急手術で人工肛門を増設するのが一般的でしたが、現在では大腸ステントによる治療も可能になっています。

ステントとは金網を筒状にした医療器具で、大腸用に作られたものが大腸ステントです。

たたむと小さくなるので、このステントを内視鏡を使って大腸の閉塞している部分に挿入し、そこで解放させ留置するものです。最大で2cm程の径になりますが、実際には周囲にがんがあるので最大の大きさまでは大きくなりませんが、便が通過できる程度には広がります。便が通過できるようになれば緊急手術を回避できますので、人工肛門を回避できるのです。

大腸ステントは大きく二つの治療に分けられます。

一つ目は、切除手術が可能な患者さんに対する手術前の閉塞解除治療。

二つ目は、切除手術ができない患者さんに対する緩和的な治療です。

ステントを入れることが出来るのは結腸と上部直腸となります。ステントを入れるのにかかる時間は通常15分程度で、ステントを入れた後は普通の生活が可能になります。(食事には若干の注意が必要です)

日本では大腸がんにかかる方が急速に増えてきていますが、ほぼ1割の方が閉塞を起こしていると言われています。人工肛門は患者さんのQOLを低下させますが、大腸ステントで閉塞を解除できれば人工肛門を回避できます。2012年からは保険適用になっておりますので、選択肢として取り入れることができるのではないでしょうか。

受動喫煙(パッシブスモーキング)の害

タバコを吸っている本人が吸い込む煙を主流煙、タバコの先から立ち上る煙を副流煙と言います。同じタバコから出ている煙ですが、主流煙と副流煙では成分が異なります。その副流煙を吸ってしまうことを、受動喫煙(パッシブ・スモーキング)と言います。

普通に考えれば、直接吸う煙の方が有害物質が多いように思われますが、実はその逆だそうです。その理由は、主流煙と副流煙は温度が違うことと、主流煙はフィルターを通ることもあり、ニコチン、タール、ベンツピレン、一酸化炭素、窒素酸化物、アンモニアなど、有害物質のどれもが副流煙の方が多いと言われています。当然ですが、副流煙は空気中で薄まりますので、そこに居る人が煙のすべてを吸ってしまうわけではありませんが、非常に有害であることは間違いありません。

そのために、受動喫煙をしている方たちは、非喫煙者に比べて肺がん死亡率は1.19倍になると言われています。また、狭心症や心筋梗塞の死亡率も1.25倍になると言われています。

更に、喫煙者の呼気の中にも有害物質が含まれていると言う研究者も居ることを考えると、タバコを吸うと言う事は、自分の身体への自己責任を持つと言う事だけにとどまらず、大切なご家族など周囲に影響を及ぼすと言う事もご理解いただきたいと思います。

日本の肝臓がんの特徴

肝臓は体の右上腹部にあり、肋骨に守られるように囲まれている臓器です。人の臓器としては一番大きなもので、体重の1/50ほどの重さがあると言われています。また、肝臓は自己再生能力が高く、健康な肝臓なら75~80%を切り取っても約4ヶ月で元の大きさと機能を回復すると言われています。(ちなみにですが胃は再生できません。)

但し、肝機能が悪くなっている場合は再生が難しくなりますので、切除ができない事が多くあります。

日本の肝臓がんの多くが、慢性肝炎→肝硬変から発祥しています。肝炎ウィルスに感染すると、10~30年かけて、慢性肝炎→肝硬変→肝臓がんへと進行していきます。これが日本の肝臓がんの特徴ですので、慢性肝炎、肝硬変と診断された人は、きちんと治療を受けて肝臓がんを防ぐことが大事です。治療後は、肝機能の回復を図りながら、定期的に検診を受けることが重要となります。

逆に言えば、肝硬変が無いのにも関わらず肝臓がんだと診断された場合は、がんの原発が他にある事を疑って、しっかりと全身の検査をすることが肝要だと言えます。

がんと糖尿病の関係その1

最先端型ミニマム創前立腺全摘手術(ロボサージャン手術)

前立腺がんの治療には多くの選択肢がありますが、その中の一つに前立腺全摘術があります。

前立腺全摘術はもともと開腹で行われていましたが、その後、腹腔鏡手術も行われるようになりました。腹腔鏡は切開部位が小さく、患者さんの身体的負担が軽いのがメリットですが、逆に術者からは立体的な視野と自由に動く指を奪いました。

腹腔鏡手術で失ったこの二つの要素を回復させたたのが、ダヴィンチ手術です。手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った手術では患者さんから離れた位置で機械を操作しますが、このとき覗き込む画像は拡大3D画像です。

さらに人間の指以上に器用に動く多関節鉗子が使われています。つまり「ダヴィンチ」は立体的な視野と自由に動く指を術者に取り戻したのです。2012年4月からダヴィンチによる前立腺全摘術が健康保険適用になってからは急速に普及しています。

一方でダヴィンチによる手術は高価な使い捨ての器具が多く、機械自体も維持費も高いので、コストが高くなってしまいます。

そのようなダヴィンチと異なるアプローチで患者さんに優しい手術を目指したのが「ミニマム創内視鏡下手術」です。

この手術では、切開する部位はダヴィンチの4~6個に対して、1円玉2個程度の大きさの切開を一か所だけで済みます。ですので、手術を受けた患者さんの回復が早いと言われています。また、二酸化炭素ガスで腹腔を膨らませないのもミニマム創内視鏡下手術の利点だと言えます。これにより、呼吸器系や循環器系へのリスクを低減できます。さらにミニマム創内視鏡下手術ではそのほかの全摘術と異なり、後腹膜腔から直接入っていくので腹腔を開けません。ですので、この手術では腸の癒着を起こす危険性がほとんどなくなります。

さらにこの手術は進化を続け、術者がヘッドマウントディスプレーなどを使用する、「最先端型ミニマム創内視鏡下手術」となっています。これにより内視鏡の拡大3D画像だけでなく、経直腸超音波画像やMRI画像を並べて映し出すこともできるので、血管の位置などを正確に把握しながら手術が行えるのだと言います。

また、多数のヘッドマウントディスプレーに同じ画像を映し出せるので、多数の術者が同じ情報を共有しながら手術を進めることができます。

また、手術器具の進歩も著しく、例えば、血管を切断した時に糸で結ばなくても止血できるような機器が開発されています。このような技術の開発により、小さな切開部位からより安全に手術が行えるようになりました、ですから、この手術に使う器具はダヴィンチほどの動きをすることは出来ませんが、必要な操作はほぼ十分に行えるようになっているのです。

がんのクロノテラピー(時間治療)

がんのクロノテラピーとは、1980年代にフランスで始まった抗がん剤の投与方法です。

いわゆる抗がん剤は、一般的には細胞分裂が活発な細胞に対して働きかけます。さらに言えば抗がん剤は、毒であり、毒だからこそ、がん細胞を攻撃することが出来るのです。しかしだからこそ、がん細胞だけでなく細胞分裂が盛んな正常細胞をも傷つけてしまうので、副作用などが発生するのです。

そこで、がん細胞が活発になる時間帯と正常細胞が活発になる時間帯のずれを上手に利用して抗がん剤を投与出来ないかと考えられたのが、「クロノテラピー(時間治療)」です。

一般的には正常細胞は朝から昼に掛けて活発化し、夜に向けて活動が低下し、真夜中にもっとも沈静化します。一方がん細胞の分裂リズムは一定はしていないですが、真夜中、寝ているときに盛んになり、昼間は低下する事が多いといわれています。

そのような状況にも関わらず、一般的な抗がん剤の投与は午前中から始めるケースが多いようです。経口剤にしても朝と夕方飲むケースが多いようです。しかしこの時間帯は、細胞の活性リズムに照らし合わせて考えると、正常細胞に働きかける時間帯です。クロノテラピーでは夜の10時位から投与を始めます。

つまり正常細胞が沈静化しがん細胞が活発化する時間帯を狙うわけです。使う薬剤は新しい薬ではなく既存の抗がん薬を使います。正常細胞が寝ているときに行うので副作用が出にくいので、通常より多くの薬剤を投与できることになります。

それにより抗腫瘍効果もあがると言うことになります。日本では横浜市立大学が早くから実施していて、肝臓がんや大腸がんの肝転移などに治療しているようです。

しかしながら、日本ではあまり取り入れる病院は増えていないようです。 夜間に実施する人員や、診療報酬、そしてクロノテラピーを行う際に有効なクロノポンプも未承認な事も日本で進展しない一因だと言われています。

ちなみにクロノテラピーはがんだけでなく、喘息や高血圧治療でもやっていたりしますし、2012年の4月に放映されたNHKのクローズアップ現代ではリュウマチの治療も取り上げていましたので、リュウマチでお悩みの方がいらしたらご一考されるのも良いかもしれませんね。

前立腺がんの神経温存手術

前立腺の両側には、性機能を掌る神経が通っています。通常の手術ではこの神経を切断してしまうため、ほぼすべてのケースで性機能障害が生じるそうです。

しかし、がんが前立腺内にとどまっていて、本人の希望があれば、神経を温存する手術が検討されます。

性機能をコントロールしている神経は2本あり、どちらも前立腺に接するように走っています。神経温存手術では、前立腺を切除するときにこの神経を避けてメスを入れます。

がんの広がり方によって、2本の神経のうち、どちらも残せる場合と1本だけ残す場合とがあります。がんの広がりが前立腺の片側に偏っている場合は、反対側の神経だけを残すことが検討されます。当然ですが、性機能が温存される確率は神経を2本残す方が高くなります。

現状では、性機能の回復率はあまり高いとは言えません。(50%程度と言われています。)しかしながら、手術法の工夫が重ねられ、回復の確率も高まりつつあります。

神経切断後、くるぶしの外側にある腓腹神経を移植する方法もありますが、この場合の性機能の回復までに要する時間は1年以上と言われています。

どちらにしても、現状ではこれらの治療で、性機能が維持できるかは不確実です。

がんを取り除くことと併せて、よく考える事が重要ではないでしょうか。

卵巣がんのIDS(腫瘍減量手術)

卵巣がんは自覚症状が出にくく、発見が遅れるケースの多いがんです。ステージのⅠかⅡで発見できれば5年生存率は非常に高いがんですが、ステージのⅢ以降になると5年生存率は50%を切ってきます。

しかしながらステージⅢ以降でも、手術と抗がん薬を組み合わせて治療していくことによって卵巣がんを取り除ける可能性もあります。そして、抗がん薬の治療を行っている途中に手術を組み合わせる場合の手術の事をIDS(腫瘍減量手術)と言います。

標準的な方法は、まず最初に手術をして腫瘍を取れるだけ取ります。その腫瘍を病理で診断し、広がりやサブタイプを見極めてから効果的な抗がん薬治療を行います。取りきれなかった腫瘍が小さくなったところで、また手術をしてがんを切除すると言うことが行われます。

また、化学療法からスタートして、効果が出てから手術を行うという方法論の検討も臨床試験を通じて進んでいます。

手術が1回であれ2回であれ、画像で見えるがんがなくなって、腫瘍マーカーが正常化すれば、初回の治療はそこで終わりです。抗がん薬を飲み続ける必要もなく、患者さんのQOLは大きく改善されます。

東大病院で行ったIDSではⅢc期以上の患者さんのうち60%の患者さんで完全切除ができ、その患者さんの5年生存率は60%以上に達しているそうです。

さらに現在は抗がん薬の投与方法も研究されています。更に、2013年11月には分子標的薬のアバスチンが卵巣がんに対して承認された事もあり、さらなる生存率の改善が期待できるのではないでしょうか。