早期乳がんの再発予防の為のホルモン療法薬について

エストロゲン受容体陽性の非浸潤性乳管がんの、閉経後女性に対する再発予防を目的としたホルモン療法の比較試験が米国の複数の施設で実施され、その結果がASCO2015(2015年米国臨床腫瘍学会学術集会)で報告されました。

比較されたのはタモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン)とアナストロゾール(アリミデックス)です。

タモキシフェンはエストロゲンとがん細胞が結合するのを阻害するのに対し、アナストロゾールはエストロゲンの生成を抑制すると言う作用機序の違いがあります。

比較試験では非浸潤性乳管がんで腫瘍摘出と放射線療法による治療を受け、がんの残存が確認されていない3,104人を対象に5年間に渡り、それぞれを投与しました。

10年後の結果をみると、両薬剤とも乳がんの再発抑制が見られましたが、再発を見られなかった患者の割合は、アナストロゾールで93.5%、タモキシフェンで89.2%、とのこと。

ASCO2015ではこの結果を踏まえ、標準治療として使われるタモキシフェンよりもアナストロゾールの方が当該ケースではすぐれていると報告されました。

追加全脳照射のリスクとベネフィット

がんが脳転移した場合、手術で脳転移病変を除去できるケースは限定されてきます。

脳転移病変が小さく、数も少ないケースでは脳腫瘍部位に放射線を照射する定位放射線治療を行いますが、その後、術後療法・救援療法・終末期治療などとして、全脳照射(WBRT)を実施することもあります。

しかし、ASCO2015(2015年米国臨床腫瘍学会学術集会)で報告された、米国立衛生研究所(NIH)が助成した第Ⅲ相試験では、1~3個の小さい脳転移病変(最大径3㎝以下)があるケースでは、定位放射線治療後に全脳照射を追加した場合、病変の増大は制御されるものの、全生存期間(OS)は有意に延長しないことが示されました。また、認知機能低下などのリスクは高く、リスクがベネフィットを上回ると報告されています。

本試験は日本人で実施されたものではないので、そのまま我々に当てはまるかは不明です。しかしながら、本件に限らず、リスクとベネフィット(便益)を意識しながら治療を選択すると言うことも大切ではないでしょうか。

切除不能肝転移大腸がんへのラジオ波焼灼療法の有効性

2015年米国臨床腫瘍学会学術集会(ASCO2015)において、切除不能肝転移大腸がんの治療で、ラジオ波焼灼療法の併用が生存率を改善すると報告がありました。

これは切除不能の肝転移性大腸がんに関して、「化学療法単独の治療」と「化学療法とラジオ波焼灼療法の併用治療」を比較した第Ⅱ相試験での結果で示されました。

化学療法は6か月のFOLFOX療法※の後にアバスチン(ベバシズマブ)の追加投与が行われると言う形で実施されています。

追跡期間中央値9.7年間後の結果報告では、無増悪生存期間(PFS)の中央値が化学療法単独群が9.92か月に対して併用群は16.82か月、また全生存期間中央値は単独群が40.54か月に対して併用群が45.6か月と、両郡間に有意差が認められたと報告されています。

※FOLFOX療法:フォリン酸(FOLinic acid)・フルオロウラシル(Fluorouracil)・オキサリプラチン(OXaliplatin)の3剤併用による化学療法を意味します。

乳がんの陽子線による研究治療

鹿児島県の指宿にある「メディポリス国際陽子線治療センター」では2011年の開業以来、先進医療として陽子線を使ったがんの治療を行っています。今までの治療実績は1,500人以上に上るそうです。

ご存知の方も多いと思いますが、重粒子線や陽子線治療にはブラッグピークと呼ばれる、ある深さで線量が大きくなると言う特徴があります。それを上手にコントロールすることにより、がん病巣を狙い撃ちして、正常細胞にはあまり影響を与えない放射線治療が可能になります。

この度、この治療法をメディポリス国際陽子線治療センターでは乳がんに対して研究治療を開始しました。特許を出願している乳房を固定する装置と独自のシステムを使用し実施します。今回実施している患者さんには26回照射を行う予定です。早期に見つかった小さな乳がんであれば、切らずに治療できると言いますので、来年度の一般患者受け入れが待たれるところですね。

(参照:KYT鹿児島読売テレビ)

胃がんの新たな分子標的薬 サイラムザ

胃がんに対する最も有効な治療は手術による切除ですが、がんが進行しているために切除が難しかったり、術後に他臓器への転移などで再発した場合は、化学療法が治療の中心となります。

そのような場合でHER2陽性の場合は、分子標的薬のハーセプチン(トラスツズマブ)が2011年から使用可能となりましたが、HER2陰性の場合は、ファーストラインの化学療法としては、TS-1とプラチナ系抗がん薬を併用する治療法が行われています。(プラチナ系の抗がん薬としては、シスプラチンに加えて2015年3月からはオキサリプラチンが使用できるようになりました)

ファーストラインの薬剤が使えなくなった時のセカンドラインの薬剤として使われるのがタキサン系の薬剤であるタキソールやタキソテール、そしてイリノテカンが標準治療として位置づけられています。

このような状況の中で新たに登場したのが分子標的薬の「サイラムザ」です。

サイラムザはがんに栄養を運ぶための血管を作る「血管新生」を阻害する「血管新生阻害薬」です。タキソールと併用で使用されますが、日本が参加している臨床試験では良好な結果が報告されています。また、海外では1次治療で増悪が認められた、進行性の胃がん患者さんを対象に、サイラムザを単剤で投与する臨床試験も行われており、良好な結果が得られています。

副作用は同様な血管新生阻害薬のアバスチンの副作用である血栓症や消化管穿孔などがありますが、頻度もそれほど多くないとのことです。他にも高血圧やタンパク尿と言った副作用が出る場合もありますが、現時点ではサイラムザ特有の副作用が明らかになっていないので、アバスチンと同様な注意が必要になります。

がん治療と治療後の妊娠

一昔前まではがんになったら治療が最優先で、治療後の妊娠はあきらめざるを得ませんでした。

女性のがんで、治療や年齢によって不妊になる恐れがあるのは、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、血液がんです。乳がんでは、抗がん剤治療や長期間のホルモン薬治療の影響で、治療後に閉経したり排卵がなくなるリスクもあります。

一方で、2015年1月に厚生労働省の研究班が若年者のがんや小児がんの患者向けサイト(http://www.j-sfp.org/)を開設するなど、近年はがんの治療法に加え、生殖医療技術も進歩しているので、患者が希望すれば、可能な限り将来の妊娠を支援する動きも広がってきているようです。

また、子宮、卵巣など妊娠に直接関わる臓器のがんでは、進行度によっては子宮や卵巣を全部取らなければならないですが、ごく早期ならこれらを残せる可能性もあります。

一方で、受精卵の凍結など妊娠の可能性を残す生殖医療には公的保険が効かず、高額なのが難点となりますし、乳がんや子宮がんは治療法によっては、妊娠の可能性を残すためにがんの治療が不十分になる覚悟を強いられることもあります。

ですので、治療後の妊娠を望む方は、リスクや費用などを十分に主治医と相談してから治療法を決められたらよろしいのではないでしょうか。

妊娠を希望する人が、がんの治療前に主治医に確認しておきたいこと

  • 自分がかかったがんはどんな病気か、今の進行度で出産・子育ては可能な状態か?
  • 自分の受ける治療法とそれが卵巣に及ぼす影響は?
  • 現時点での卵巣の状態は?
  • 現在の計画では何歳で治療が終わる?
  • 妊娠の可能性を残すための選択肢とその費用は?

(出典:日経ヘルス&メディカル)

大腸がんは増加している

国立がん研究センターの予測によれば、2015年の日本で一番罹患数が多いがんは大腸がんとなっています。2014年の予測では胃がんが一番多いとされていましたので、大腸がんが大いに増加していることが分ります。2015年の罹患数は、予測では135,800人となっており、過去40年間で5~6倍の増加となっています。

大腸がんが増えている理由は、高齢者が増えていることや食事の欧米化、内視鏡検査の普及などが挙げられます。

部位として多いのはS状結腸と直腸で、この部分で大腸がんの約7割が発生してます。

大腸がんの自覚症状は早期がんではほとんどありません。

進行した時の症状は、血便、便通異状、腹痛の3つが典型的です。

出血に関しては通常、大量に出血する事は無く、便に付くとか便の最後に濁った赤黒い地がどろっと出るなどのケースが多いようです。痔と間違いやすいのですが、痔の出血は明るい赤なので、同じ出血でも異なります。

便通異常は、便が細くなったり、便秘と下痢を繰り返すなどが特徴的なパターンです。さらに進むと腸閉塞による腹痛や嘔吐などが見られます。

大腸がんは早期発見すれば怖いがんではありません。しかし進行して発見されれば相応のリスクが伴います。冒頭でも申し上げました通り、日本で大変に増加しているがんです。自覚症状があればもちろんの事、無い場合でも定期的な大腸がん検診などを受けることが肝要ではないでしょうか。

大腸ステント治療

がんによって大腸が閉塞することがあります。そのような状態になると便や消化液やガスが腸管内に溜まってパンパンの状態になり、患者さんは激しい苦痛に襲われ、適切な処置を行わなければ命に関わってしまいます。

そのような場合、かつては緊急手術で人工肛門を増設するのが一般的でしたが、現在では大腸ステントによる治療も可能になっています。

ステントとは金網を筒状にした医療器具で、大腸用に作られたものが大腸ステントです。

たたむと小さくなるので、このステントを内視鏡を使って大腸の閉塞している部分に挿入し、そこで解放させ留置するものです。最大で2cm程の径になりますが、実際には周囲にがんがあるので最大の大きさまでは大きくなりませんが、便が通過できる程度には広がります。便が通過できるようになれば緊急手術を回避できますので、人工肛門を回避できるのです。

大腸ステントは大きく二つの治療に分けられます。

一つ目は、切除手術が可能な患者さんに対する手術前の閉塞解除治療。

二つ目は、切除手術ができない患者さんに対する緩和的な治療です。

ステントを入れることが出来るのは結腸と上部直腸となります。ステントを入れるのにかかる時間は通常15分程度で、ステントを入れた後は普通の生活が可能になります。(食事には若干の注意が必要です)

日本では大腸がんにかかる方が急速に増えてきていますが、ほぼ1割の方が閉塞を起こしていると言われています。人工肛門は患者さんのQOLを低下させますが、大腸ステントで閉塞を解除できれば人工肛門を回避できます。2012年からは保険適用になっておりますので、選択肢として取り入れることができるのではないでしょうか。

受動喫煙(パッシブスモーキング)の害

タバコを吸っている本人が吸い込む煙を主流煙、タバコの先から立ち上る煙を副流煙と言います。同じタバコから出ている煙ですが、主流煙と副流煙では成分が異なります。その副流煙を吸ってしまうことを、受動喫煙(パッシブ・スモーキング)と言います。

普通に考えれば、直接吸う煙の方が有害物質が多いように思われますが、実はその逆だそうです。その理由は、主流煙と副流煙は温度が違うことと、主流煙はフィルターを通ることもあり、ニコチン、タール、ベンツピレン、一酸化炭素、窒素酸化物、アンモニアなど、有害物質のどれもが副流煙の方が多いと言われています。当然ですが、副流煙は空気中で薄まりますので、そこに居る人が煙のすべてを吸ってしまうわけではありませんが、非常に有害であることは間違いありません。

そのために、受動喫煙をしている方たちは、非喫煙者に比べて肺がん死亡率は1.19倍になると言われています。また、狭心症や心筋梗塞の死亡率も1.25倍になると言われています。

更に、喫煙者の呼気の中にも有害物質が含まれていると言う研究者も居ることを考えると、タバコを吸うと言う事は、自分の身体への自己責任を持つと言う事だけにとどまらず、大切なご家族など周囲に影響を及ぼすと言う事もご理解いただきたいと思います。

日本の肝臓がんの特徴

肝臓は体の右上腹部にあり、肋骨に守られるように囲まれている臓器です。人の臓器としては一番大きなもので、体重の1/50ほどの重さがあると言われています。また、肝臓は自己再生能力が高く、健康な肝臓なら75~80%を切り取っても約4ヶ月で元の大きさと機能を回復すると言われています。(ちなみにですが胃は再生できません。)

但し、肝機能が悪くなっている場合は再生が難しくなりますので、切除ができない事が多くあります。

日本の肝臓がんの多くが、慢性肝炎→肝硬変から発祥しています。肝炎ウィルスに感染すると、10~30年かけて、慢性肝炎→肝硬変→肝臓がんへと進行していきます。これが日本の肝臓がんの特徴ですので、慢性肝炎、肝硬変と診断された人は、きちんと治療を受けて肝臓がんを防ぐことが大事です。治療後は、肝機能の回復を図りながら、定期的に検診を受けることが重要となります。

逆に言えば、肝硬変が無いのにも関わらず肝臓がんだと診断された場合は、がんの原発が他にある事を疑って、しっかりと全身の検査をすることが肝要だと言えます。

がんと糖尿病の関係その1