KM-CART療法(腹水濾過濃縮再静注法改良型):がん性腹水の治療

がんの終末期において、がん患者さんを悩ませるのが難治性の腹水。強い腹部膨満感や呼吸苦を生じ、患者さんのQOLを著しく低下させます。

しかしながら今のがん治療では腹水を抜けば体が弱るというのが常識です。というのも腹水にはがん細胞だけではなく、栄養分や免疫にかかわるたんぱく質も大量に漏出しているため、腹水を抜くということはこうした貴重な成分も捨てることになり、急激に体力が低下するだけでなく、さらに腹水がたまりやすくなるという悪循環を招くからです。

ですので、患者さんが腹水で苦しんでも治療しないことも多いようです。こうした医療の常識を覆したのが、KM-CART療法(腹水濾過濃縮再静注法改良型)です。この療法は腹水を抜いて濾過し、必要な成分を体内に戻すのです。

以前のCART法はがん治療に向かないと言われる欠点がありました。その欠点とは、がん性の腹水は成分が多いために、濾過する膜がすぐに詰まってしまい、濾過をするのに大変な手間と時間が掛かってしまうと言うことです。

そのために従来のCART法はがん性の腹水にはほとんど使われることがなくなってしまいました。その欠点を大きく改善したのが要町病院腹水治療センターの松崎圭祐センター長が考案した「KM-CART療法」です。従来のCART法と比較してはるかに短い時間で腹水を濾過できます。

患者さんの中には大量の腹水が抜けると見違えるほど元気になる方もいらっしゃいます。その上、2週間に1度施行できますので、「苦しくなったらまた腹水を抜けると思うと非常に気が楽になる」とおっしゃるかたもいらっしゃいます。実際の治療には多少の条件がありますが、がん性の腹水で悩まれている方がいらしたら検討されてはいかがでしょうか。

おおよそ2泊3日の入院でできますし、健康保険が適用されます。現在は要町病院だけでなく複数の医療機関で実施しています。

第二回 いのちのフォーラム が開催されました

以前にこちらでご案内していた「第二回 いのちのフォーラム」が11月15日に開催されました。

ビオセラクリニックの谷川院長の基調講演から始まり、がんサバイバーの方々のパネルディスカッション、更には保障の考え方や遺伝子治療や免疫療法と言う先端治療の説明と盛り沢山の内容でした。

3時間を超えるフォーラムでしたが、皆さん熱心に聞いていただき、ご参加の方からも大変に参考になったとのご意見を頂くことができました。ご参加いただいた皆様ありがとうございました。

今後も皆様のお役にたてる情報を発信する機会を設けたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

いのちのフォラム写真

がん遺伝子治療 その2 がん抑制遺伝子

本来、人間の身体には細胞が「がん化」しないようにしたり、がん化した細胞を死滅させる「がん抑制遺伝子」が備わっています。

がん抑制遺伝子としては、ゲノムの守護神とも呼ばれるp53をはじめとして、PTEN等多くのものが確認されています。

米国の有名な女優さんがBRCA1、BRCA2の異常があるので、健康な乳房を切除したと言うニュースの記憶がある方もいらっしゃると思いますが、BRCA1、BRCA2も特定のがんのがん抑制遺伝子の一つです。

一方で肺がんや大腸がんなどの多くのがん細胞ではp53などの普遍的な「がん抑制遺伝子」が変異しているか欠損した状態となっています。そのために、がん細胞は不死となり、更に無限に増殖をして、生命を脅かすのです。

ですから、そのような状態のがん細胞に何らかの方法でp53をはじめとする正常ながん抑制遺伝子を持ち込むことが出来れば、がんの無限増殖を止め、アポトーシスへと導くことが出来ると考えられるのです。これが基本的ながんの遺伝子治療の考え方です。

しかし、どんなに良い「がん抑制遺伝子」を塔載したとしても、がん細胞に届けることが出来なければ意味がありません。つまり大切な事は、いかにしてがん細胞まで「がん抑制遺伝子」を届けるか、と言う事になるのです。言い換えれば使用しているベクター(下記「がん遺伝子治療 その1」をご参照ください)によって治療成績は大きく左右されることになるのです。もし皆さんが遺伝子治療を選択する場合には「何を使って、そしてどんながん抑制遺伝子を運ぶのか」の吟味が重要になります。

卵巣がんの分子標的薬

日本においても年々罹患者が増加している卵巣がんですが、その標準治療は手術療法が基本となり、状況に応じて化学療法を加えます。

そして卵巣がんで使用できる薬剤は何種類もありますが、主流となっている化学療法はTC療法と言って、3週間ごとにパクリタキセル(タキソール)とカルボプラチン(パラプラチン)を投与していく方法です。最近までその中に分子標的薬は含まれておりませんでした。

しかし2013年11月にアバスチンが卵巣がんに対しても承認されました。アバスチンは、もともとは大腸がんの治療などで使われている分子標的薬です。アバスチンは卵巣がんでは、従来の抗がん薬にプラスして使用します。ですので化学療法への上乗せ効果が期待できます。

さらにアバスチンと抗がん薬による治療後に、維持療法として単独で使うと、再発するまでの期間を延長することが可能です。また、アバスチンは血管新生を抑える分子標的薬です。ですから、卵巣がんで問題となる腹膜播種(あるいは胸膜播種)に特に威力を発揮するのではないかと期待されています。

尚、アバスチンは、欧州では進行期の乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、腎がん、卵巣がん、米国では大腸がん、非小細胞肺がん、腎がん、再発膠芽腫の適応症で承認を受けています。また、アバスチンの卵巣がん(初回治療)に係る効能・効果は、EU28カ国を含む110の国または地域において承認されています(2013年8月7日現在)。

卵巣がんのIDS(腫瘍減量手術)

卵巣がんのサブタイプ

臨床試験と治験

臨床試験とは患者さんに参加いただき、実際に治療や診断を行って、新しく考案された治療法や診断法の有効性や安全性を客観的に評価する研究の事を言います。

現在行われている治療法や診断法も、今までに多くの患者さんに協力していただいた臨床試験により作り上げられたものと言えるでしょう。

臨床試験には「研究者(医師)主導型臨床試験」と、「治験」があります。

「研究者主導型臨床試験」は、研究者が主体となり、すでに国内で承認された薬剤や治療法、診断法の中から最良の治療法や診断法を選び出すことや、薬のより効果的な組み合わせを探ることを目的としています。

一方、「治験」は、未承認薬を用いるものです。主に製薬会社が主体となり、薬を厚生労働省に認めてもらうための臨床試験です。

臨床試験は、これまでの治療法よりも、より良い治療法を提供することを目的とするものですから、臨床試験に参加すれば、その治療法をいち早く受けられることがメリットとなります。

もちろん臨床試験は参加している多くの病院から絶えず情報を集めながら、患者さんの健康を第一に慎重に行われます。しかしながら新しい治療法ですから、予想しただけの効果が得られなかったり、思いもよらない副作用が生じたりすると言うデメリットもあります。

臨床試験に参加するには、病気の種類だけではなく、進行度合い、持病の有無や過去の治療経過、身体の状態など、さまざまな参加基準を満たすことが必要になります。臨床試験に参加している病院では、この基準に当てはまる患者さんに臨床試験のご案内をする場合もあります。

臨床試験に参加している病院のホームページでも、その病院が参加している臨床試験の情報を公開しています。ご興味のある方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

がん予防に繋がる生活習慣の改善

糖尿病とがんの背景には共通のリスク因子として、不適切な生活習慣が関与していることは、以前にも記載しました。だとすれば生活習慣を改善すれば、糖尿病にもがんにも効果があるはずです。つまり、糖尿病の予防や改善のために生活習慣の改善に取り組むことは、将来のがんリスクを減らすことになると考えられます。

ここで生活習慣とがんの関係について改めて確認しておきましょう。

1.身体活動の影響

運動を良くする人としない人を比べると、運動を良くする人はがんが1~2割減ることが分っています。そして、結腸がん、肝臓がん、すい臓がんといった、糖尿病の人で増えるようながんが半分近くに減ります。総死亡率も約3~4割減っています。運動する人はがんになりにくいし、長生きだと言う事がはっきりしています。

2.煙草の影響

たばこを吸っている人は、がん全体のリスクが1.6倍に増えます。そして食道がんや肺がんは煙草によって大きくリスクが増えるがんですし、脳卒中や虚血性心疾患のリスクも増えてきます。たばこは生活習慣の大きな問題です。

3.お酒の影響

お酒については一番リスクが少ないのは、全く飲まない人ではなく、時々飲む人だと言われています。しかし、大量飲酒者では、がん全体のリスクは煙草と同程度増加します。そして食道がんは特にお酒が関係したがんであり、脳卒中や総死亡のリスクも高めます。

4.体型の影響

肥満も糖尿病と同じ程度にがんのリスクになります。体型とがんのリスクを見ると、肥満の人はがんが増えてきますが、やせすぎの人もがんのリスクがあります。一番リスクが少なかったのが、BMIで23~25の範囲の方だと言われています。

以上のように、運動やたばこ、お酒や食事、肥満などの生活習慣はがんのリスクに直結しています。がんも生活習慣病だと言われる所以です。ですから、これらの生活習慣を改善するだけで、がんによる死亡を大きく減らすことが期待できるのです。

肺がんの分子標的薬

肺がんは表面の細胞膜から、さまざまな受容体が突き出ており、その受容体が受けた刺激により、がん細胞が増殖すると言われています。

そのような受容体のうち、肺がんの20~30%でEGFR(上皮成長因子受容体)をつかさどる遺伝子に変異があると言われています。そのEGFRに作用するように開発された分子標的薬の一つにイレッサがあります。(他の受容体を標的とする分子標的薬もあります。)イレッサは世界に先駆けて日本で承認された薬剤ですが、そのイレッサや少し後に承認されたタルセバという薬剤は第一世代と呼ばれています。それぞれ2002年と2004年に承認されおり、EGFR変異のある肺がん治療に使用されています。

そして今は第二世代、第三世代の研究が行われています。

では、新世代の薬剤は第一世代と何が違うのでしょうか。

第一世代では標的とするEGFRが特定されていますが、第二世代ではすべてのEGFRを対象として抑えると言われています。そしてEGFRに結合したら離れにくいと言う性質を持っています。そのために、第一世代よりも無増悪生存期間が長いと推測されています。

第二世代では日本ではジオトリフという薬剤が2014年5月に発売されています。

EGFR(上皮成長因子受容体)に変異を持つ患者さんのうちの約半分が、エクソン19という遺伝子の部位に欠損を持っていますが、そのエクソン19の欠損を持っている患者さんにジオトリフが良く効くことが臨床試験では明らかになっています。特に日本人の患者さんには高い効果が見られました。

さらに第二世代では変異のあるなしに関わらず、すべてのEGFRに作用していましたが、第三世代では変異のあるEGFRにだけ作用するようになっており、より効果的であると考えられています。第三世代はまだ承認薬はありませんが、いくつかの臨床試験では、副作用が今までよりも軽いのではないかと言う結果が出ているようです。また、用量を上げても副作用が出にくいために今後が有望視されています。

更に、新世代の薬剤には、イレッサなどに耐性を持ってしまったがん細胞への効果も期待されています。

この分野での開発は世界的にも積極的に取り組まれています。一日も早い新薬の承認が期待されるところです。

ナッツによるがん死亡リスク低下の可能性

一握りのナッツを毎日食べる人は、食べない人よりも全死亡率が20%低下することが、大規模な疫学的研究で明らかになり「New England Journal of Medicine」誌で発表されました。

この研究は食事や生活要因などの健康転帰に関する様々なデータを収集している2つの観察研究(看護師健康調査と男性医療従事者追跡調査)のデータを活用して行なわれました。

参加者は一人分(約28グラム)のナッツをどのくらいの頻度で摂取したかを答えた。30年にわたり追跡し、喫煙や運動習慣など死亡率に関与する可能性のある要因を除外する最新の分析手法が用いられました。

この結果、死亡率はナッツを食べない人に比較して、食べる頻度が週1回の人は11%、週に2~4回の人は13%、週に5~6回の人は15%、週に7回以上の人は20%低下したことが明らかになりました。

疾病別に見ると、心臓病の死亡が29%低下し、がんによる死亡リスクも11%減少したと言われています。

更にナッツを食べる習慣のある人は、ない人より細身であると言うことも報告されています。

ナッツというと一般的には木の実の事ですが、ピーナッツでも死亡率低下は同程度あるそうです。

海外での研究成果なので、そのまま我々に当てはまるかどうかはわかりませんが、一考に価する結果ではないでしょうか。

未分化がんとは何か?

がん細胞の悪性度を語るときに分化、未分化と言う言葉が使われます。しかし分化・未分化って何を意味しているのでしょうか。

皆さんもご存知だと思いますが、細胞は分裂しながら増殖していきます。何度も分裂しながら次第にその組織に特有の細胞に変わる、つまり分化していくのです。胃なら胃の細胞に、前立腺なら前立腺の細胞になるということを分化したと言うのです。

一方でその途中の段階の細胞、完全に分化していない細胞も存在します。それを「未分化」の細胞と呼んでいます。未分化の中には分化度が高い(分化細胞に近い)ものから低いものまで存在します。

そして細胞ががん化した段階が、分化した段階でがん化したものを「分化がん」、未分化の段階でがん化すると「未分化がん」と呼びます。

一般にがん細胞は無制限・無秩序に分裂・増殖を繰り返します。その点は分化がんも未分化がんも変わりません。ただ、未分化の細胞はどのように成熟するか決まってませんし、どこの場所に落ち着くものなのかもわかりません。言い換えれば、分化度が低いほど、どこへでも行くことができてしまう、つまり転移が生じやすいと言うことなのです。その上、分化度が低いほど、がんは分裂・増殖のスピードが早いのも特徴です。ですので一般に分化度が低いがんほど悪性度が高いと言われるのです。

しかしながら未分化がんは放射線や化学療法が効果を増す、という側面も持ちます。なぜならば、放射線や抗がん剤は細胞の分裂・増殖過程を阻害するものであるからです。前述したように未分化がんは分裂・増殖のスピードが早いのも特徴です。すなわち分裂・増殖が多くなるので、逆に治療による分裂・増殖を阻害するチャンスが増えるのです。悪性がんにも弱点はあるのです。

頭頸部がんの分子標的薬治療

はじめに頭頚部がんの今までの治療方法を、解説します。

まずは早期なら手術又は放射線の単独治療を選択し、この段階では単独療法で治癒する可能性が高いです。

局所進行になった場合は発声などの機能温存を希望しなければ手術、機能温存の希望があったり、手術が出来ない場合は化学放射線療法が行われました。

そして再発・転移がんになると、局所治療の適用があれば手術か化学放射線療法、そうでない場合は化学療法となっていました。

しかしながら、局所進行がん以降の化学療法と放射線の併用で重い副作用が出ることがわかっています。粘膜炎や皮膚炎、嘔吐などは放射線単独よりも化学療法併用で2倍以上現れるようです。さらに言えば化学放射線療法の合併症による死亡率は、治療関連死亡率の全体の15%にも上っています。つまりこの治療は標準治療と言えども副作用の面で問題視され、新たな治療法が望まれていました。

そこに、2012年の12月に分子標的薬のアービタックスが、頭頚部がんの治療において適応追加がされました。アービタックスは日本では2008年に大腸がんの治療薬として承認され、2010年からは一次使用が承認されてます。しかしながら欧米ではその頃から頭頚部がんにも承認され始めていました。ここにきて、日本でもようやく臨床試験を経て承認となりました。日本では頭頚部がんに対する初めての分子標的薬です。

この薬が選択肢に入ってくることにより、患者さんには大きなメリットが期待されています。局所制御期間が、放射線単独に比べ、アービタックス併用により大きく延長されています。さらに大切なことはアービタックス併用による、放射線の毒性の悪化が少ないことです。つまり、副作用が放射線単独と比較してもあまり変わらないと言うことです。さらに患者さんのQOLも悪化させないことがアンケートによりわかりました。また、再発した場合も、化学放射線治療よりも救済手術がしやすいというデータもあります。

これらのことは前述した化学療法との併用と比較すると画期的な効果ではないでしょうか。ただ単純に生存の延長だけでなく、QOLの維持も満たせる治療法が選択肢になったと言うことは、患者さんにとっても非常にすばらしい変化ではないでしょうか。