内視鏡下甲状腺がん切除術

甲状腺がんの種類は、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん、悪性リンパ腫の5種類があります。このうち乳頭がんがもっとも多く、患者の90%を占めています。また患者の男女比は5:1で圧倒的に女性に多い病気です。

標準治療では、悪性リンパ腫と未分化がんは薬物療法が第一選択となり、そのほかは手術が第一選択となります。

手術では、甲状腺は頸部にあるために首の前の部分を大きく切開します。また、周囲のリンパ節も出来るだけ切除する必要があります。その為に、手術時には甲状腺の前や横にある筋肉群を切断する必要があり、手術後に筋肉を縫合します。しかし、縫合しても神経が切断されているために、筋肉が委縮し、手術跡がへこむことがあります。また、ひどい肩こりになることもあります。

これらを回避するために考え出されたのが、内視鏡下甲状腺がん切除術です。この手術では首の下の方一か所を切開して、そこから内視鏡、鉗子、超音波メスを挿入して手術します。筋肉を傷つけないように、首の皮膚のすぐ下を剥離するように行われます。

この技術は健康保険適応ではないので自費となりますが、先進医療適応です。2016年2月現在では、筑波大学付属病院をはじめとして5施設で行った場合のみ先進医療適応となります。

また適応となる甲状腺がんは、未分化がん以外の甲状腺皮膜浸潤を伴わず、画像上明らかなりンパ節腫大を伴わない甲状腺がんです。

甲状腺の乳頭がんは、他のがんに比較して進行が遅いために、手術をするか、経過観察するのか、医師の間でも意見が分かれるところです。しかし、がんを抱えたままの生活にストレスを感じるのも無視できません。内視鏡下甲状腺がん切除術は、筋肉はもちろん、がんのない片側や副甲状腺も残すことが可能になるので、術後のホルモンの補充が不要になるなど機能の温存も可能なので、一考に値するのではないでしょうか。

また同じように自費となりますが、甲状腺がんは遺伝子治療の効果が高いと言われています。手術をしたく無かったり、がんが進行してしまった場合には遺伝子治療も一考に値するのではないでしょうか。

注意したい卵巣欠落症状-骨粗しょう症

卵巣がんなどの治療のために閉経前の人が両方の卵巣を切除したり、卵巣を残していても放射線療法などの影響で機能が失われた場合、「卵巣欠落症状」が起こることがあります。顔のほてりやのぼせ等、いわゆる更年期障害と同じような症状が現れます。症状の現れ方には個人差があり、一般的には若い人ほど強く出る傾向があります。

その卵巣欠落症状のなかでも注意が必要なものが骨粗しょう症です。

骨の新陳代謝には、新しい骨を作る「骨芽細胞」と古い骨を壊す「破骨細胞」が関わっています。女性ホルモンのエストロゲンには、「破骨細胞」の働きを抑える作用があり、そのおかげもあって骨芽細胞と破骨細胞がバランスよく働いているのです。しかし、卵巣を切除してエストロゲンが分泌されなくなると、「破骨細胞」の働きが「骨芽細胞」の働きを上回ってしまい、骨粗しょう症が起こりやすくなるのです。

骨粗しょう症を予防するポイントは食事と運動です。

食事は栄養バランスを考え、特にカルシウムやマグネシウムが不足しないように気を付けましょう。

また、骨を強くするために、骨に刺激を与える運動も必要となります。ウォーキングやストレッチなどを行い、定期的に骨密度の検査も受けることも忘れないようにしましょう。

子宮体がんの標準治療

子宮体がんの標準治療は、子宮と卵巣、卵管を摘出する手術が中心となります。

厳密にはがんとは言えない子宮内膜異型増殖症の場合は単純子宮全摘出術が適用されます。

がんが子宮体部にとどまっているⅠ期では単純子宮全摘出術または、準広汎子宮全摘出術に加え、卵巣、卵管の切除、リンパ節郭清を行います。さらに再発予防のために化学療法が追加されることもあります。

さらに進行したⅡ~Ⅲ期では、準広汎子宮全摘出術または広汎子宮全摘出術によって、子宮と周辺組織、卵巣、卵管などを切除。再発予防のために化学療法や放射線療法が追加されることもあります。

Ⅳ期では化学療法が中心となりますが、痛みや出血を抑えるために手術や放射線治療を行うこともあります。

また、初期の子宮体がんで、妊娠を強く希望する場合はホルモン療法と言う選択肢もあります。プロゲストロンと言うホルモンと同様の働きを持つホルモン薬を一定期間服用した後、子宮内膜を全面掻把して病理診断をします。これを数サイクル繰り返してがん細胞を取り除きます。この方法が適用出来るのはがんがⅠa期以下の初期の段階です。

気を付けなければいけないのは、妊娠の可能性を残せる代わりに再発の可能性が高くなる、というデメリットがあるということです。そのため、この療法を選択する場合は医師と十分に話し合い、納得して行う必要があります。

卵巣がんの標準治療

卵巣がんの場合、事前に細胞をとって検査することができないため、がんのタイプや進行度が確定するのは手術後になります。

そのため、卵巣がんの治療は手術療法が基本となります。両側の卵巣、卵管と子宮の摘出、大網(たいもう。胃から垂れ下がっている網状の組織)の切除、後腹膜リンパ節郭清を行います。転移が起こっている場合は腸管や脾臓を切除する場合もあります。

ただしもっとも初期のⅠa期で年齢が若く(40歳以下)、妊娠を希望している場合は、片側の卵巣と卵管、子宮を残すことも可能です。

Ⅰb期以降は、手術療法に加えて化学療法を行います。Ⅲ期以降のがんでは、抗がん剤が効くタイプのがんの場合、化学療法でがんを小さくしてから手術を行うこともあります。

卵巣がんは細かい組織型に分かれています。ですので、手術ができる場合は、手術後の検査で組織型を確定してから化学療法の計画が立てられることになります。

卵巣がんのIDS1(腫瘍減量手術)

卵巣がんの分子標的薬

がん治療と治療後の妊娠

TAGRISSO(タグリッソ)-オシメルチニブが認可されました

優先審査品目として審査されていた肺がんの第三世代分子標的薬AZD9291(TAGRISSO タグリッソ)オシメルチニブが2016年2月29日に国内で認可されました。

適応は「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん」です。

タグリッソはEGFR阻害薬による治療に耐性が生じた患者にみられる「EGFR T790M変異」という新たな遺伝子変異を標的にするものです。

イレッサやタルセバなどのEGFR-TKIが奏効しても、ほとんどの症例で薬剤に対する耐性ができ病状が進行してしまいますが、この耐性化した症例の過半数にT790M変異がみられると言われています。このT790M変異陽性の非小細胞肺がんに効果を発揮する薬剤として期待されているのが第3世代分子標的薬のタグリッソ(オシメルチニブ)です。

今まではT790M変異陽性肺がんに対する治療薬は市場になかったため、日本肺癌学会が15年7月に同剤の早期承認を厚労相に求めており、同年8月に申請し優先審査されていました。EGFR T790M変異陽性の非小細胞肺がん患者数は約1万9,700人~3万5,300人と推測されています。

使用法は1日1回経口投与で用います。またT790M変異の遺伝子変異があるかどうかを検出するため、厚労省は、同剤の承認とほぼ同時期にコンパニオン診断薬も承認する方針です。

悪性リンパ腫

成熟したリンパ球はリンパ節に移動します。悪性リンパ腫は、このリンパ節に到達したリンパ球が異常増殖する病気で、リンパ節のがんと考えられます。身体の表面のリンパ節や身体の奥のリンパ節がが腫れる事もあり、時には色々な内臓に入り込んだり、血液の中に流れ込んだりすることもあります。悪性リンパ腫の患者さんは白血病の患者さんの2倍以上と言われており、血液腫瘍の中では頻度の高い病気です。高齢者に多いですが若年層でも発症することもあり、現在は微増しています。

また悪性リンパ腫は大きく分けると、腫瘍を構成する組織型により、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類されます。さらに細かく病理学的に分類されますが、それは治療法を選択するための重要な手掛かりとなります。日本ではホジキンリンパ腫は約1割で、9割が非ホジキンリンパ腫です。(欧米では約3割がホジキンリンパ腫です。)

ホジキンリンパ腫は主に首やわきの下や胸の縦隔などにあるリンパ節から発生します。

一方、非ホジキンリンパ腫はリンパ節から発生する人が半分。残りは胃腸、肝臓、すい臓、乳腺、卵巣、どこにでもできます。 できた場所により症状もまちまちです。胃に出来れば胃潰瘍のような症状がでますが、それゆえに他の病気と間違われやすく、診断が遅れたり、適切な治療が施されない場合もあるので注意が必要です。

悪性リンパ腫は化学療法の効果が高いがんですが、根治になりにくいタイプや使用できる薬剤が限定されているタイプもあります。現在も新薬の開発がされていますので、一刻も早い登場が期待されます。

また、遺伝子治療で非常に大きな効果がある患者さんもいらっしゃいますので、それも選択肢の一つに入るのではないでしょうか。

胃がんの縮小手術

胃がんの手術では定型手術が標準治療となっています。胃に関連したリンパ節に転移した可能性のある場合はこの定型手術が行われます。

定型手術は胃の3分の2から5分の4程度の切除と切除範囲の領域のリンパ節すべてを、その周りの脂肪組織とともに切除します。日本ではがんが出来る場所との関係もあり、胃の出口の方の幽門側を切除する、幽門側切除が行われます。全摘も含め、幽門がなくなると、食物が一気に腸に流れるため、低血圧、発汗、めまい、低血糖状態が現れるなどの「ダンピング症候群」などが発生しやすくなります。

このような障害を軽減し、手術後のQOLを上げる目的で行われるのが縮小手術です。

縮小手術は定型手術と比較して胃の切除範囲を縮小するとともに、リンパ節を取り除く範囲も縮小した手術です。

胃の切除範囲の縮小にはいくつかの選択肢がありますが、その一つに幽門保存切除術があります。これは胃の出口である幽門を残すことによって、上記ダンピング症候群の発生や腸液が胃に逆流するのを防ぐことができます。また、胃以外の組織の切除縮小範囲としては、胃に付着している大網と言う脂肪組織の多い膜を残せます。これにより、腸の癒着の程度を減少させ、腸閉塞が起こる危険性を少なくできます。また、胃の周囲の神経を温存することにより、手術後に下痢が起こりにくくなり、また胆石が出来るのも防げます。

このような縮小手術の適応は、リンパ節転移の可能性はあっても低いこと、がんが粘膜内か粘膜下層にとどまっていることが条件となり、内視鏡治療適応外のがんに対して行われます。

子宮頸がんの標準治療

子宮頸がんの標準治療は、がんの進行期や組織型によって異なります。

0期~Ⅰa1期なら局所療法が可能です。膣から器具を入れて子宮頚部の一部を切除する「円錐切除術」と言う手術を行います。但し妊娠をしなくてもいい場合や円錐切除術での完治が難しい場合は、単純子宮全摘手術が適用される場合もあります。

Ⅰa2期では、子宮の周りの組織をやや広めに切除する準広範子宮全摘手術を行い、転移の可能性に備えて骨盤リンパ節の郭清を行うこともあります。

Ⅰb期~Ⅱ期では、広範子宮全摘手術で子宮と膣の一部、卵巣、卵管の摘出及び骨盤リンパ節の郭清も行います。放射線療法や化学療法が追加されることもあります。

Ⅲ期以降では、放射線療法が治療の中心となります。遠隔転移の可能性も考慮して同時に化学療法も行われます。

子宮頸がんは初期の段階では自覚症状がほとんどないか、あっても軽いものであり見過ごしてしまうことがほとんどです。しかしながら上記のような治療を考慮するならば、早期発見することはとても大切になります。そして早期発見のためには定期的に検診を受けることが大切なこととなります。

肺がんの外科手術-縮小手術

肺がんの標準治療は、大きく分けて3つの方法があります。

切除をする外科手術、抗がん剤を主とした化学療法、放射線照射を行う放射線療法です。

その中でも切除によって根治が可能の場合に選択されるのが外科手術です。標準治療ではがんのできた肺葉を丸ごと取る肺葉切除が行われます。その場合には、リンパ節転移している可能性を考慮してリンパ節も切除します。最近ではリンパ節切除は最小限で済ますという方法も考えられていますが、肺がんは進行が速くて転移しやすいため、安全を考えて広範囲のリンパ節を切除するのが原則です。

しかしながら、切除部分が大きいと、術後の肺機能の低下による呼吸障害が見られることがあります。

その為に肺を出来るだけ温存して、切除する部分を出来るだけ狭い範囲にする方法で行われるのが縮小手術です。

基本的には非小細胞がんで病気はⅠA期で、がん細胞が2cm以下と言う、ごく早期のがんを対象としています。しかしながら2cmを超えていても肺機能の悪い方や高齢者、あるいは持病がある方に行われることもあります。

縮小手術には区域切除とくさび状切除があります。

区域切除はがんの有る肺葉の狭い区域を切除する方法ですが、リンパ節転移がないことが最低条件です。

くさび状切除は病巣のみをくさび形に切除する方法ですが、胸部CTで見たときに、すりガラス状の陰影が75%以上あり、がんの病巣が肺の外側三分の一以内にある事が条件となります。

この手術は手術後の呼吸機能低下が少なくて済むという結果が出てますが、しかし縮小手術は局所再発する可能性があります。

その為に、これらの手術は標準治療とはなっておらず、病院によっては行ってない施設もあります。行っている施設でも、主治医とよく話し合って手術法を決める必要があります。

食道がんの原因-バレット食道

長引く食道の病気が食道がんの素地を作ってしまう場合があります。

その病気の一つがバレット食道です。

バレット食道は食道粘膜の細胞が異常になってしまった病気です。通常の食道粘膜の扁平上皮細胞は平たい四角形をしています。これが食道炎を繰り返すうちに、酸から身を守るために円柱形に変化していき、やがて粘膜に、大きさや形の異なる細胞が入り乱れた状態になってしまうのです。バレット食道は腹部食道(胃の近く)に起こることが多く、腺がんの原因になりやすいと言われています。

では、バレット食道の原因はなんでしょうか。良く聞く、逆流性食道炎もその一つです。胃から胃酸が食道に逆流し、食道炎をおこす病気です。この病気で食道炎を繰り返すことによって上記バレット食道を引き起こすのです。

逆流性食道炎は、胃の入り口にある噴門の筋肉が緩んでくることによって発生します。筋肉の緩みは多くは加齢が原因となります。また、胃や食道の手術後にも発生しやすいものです。胸焼けや咳、のどの違和感など、症状としては軽いので市販の胃腸薬でやり過ごしてしまう場合もありますが、逆流性食道炎が疑われる方は医師の診察と定期的な検診を受けられることをおすすめします。