大切な乳がんセルフチェック

日本で増加の一途の乳がんですが、乳がんはほかのがんと違って定期的に注意深く乳房を点検すれば、自分で発見することが可能な病気です。

石灰化病変やごく小さなしこりは発見できませんが、それでも自分で出来るセルフチェックは有効です。

それに乳がんを早く発見すればそれだけ治療後の治り方も良好ですし、転移が無いうちに発見できれば命に関わるようなこともありません。20歳を過ぎたら毎月一回、生理が終わるころ、閉経後は毎月、日付を決めてチェックし、記録を残しましょう。

セルフチェックのやり方ですが、まずは観察(視診)です。下記項目をチェックしましょう。

①左右の乳房を見比べて違いはないか

②腫れていたり、皮膚の色、硬さの変化はないか

③くぼみやひきつれがないか

④乳首にへこみやただれはないか

⑤下着の裏にしみはないか

やりかたとしては、鏡の前にリラックスして立って①~④を確認、両腕を腰にあてた姿勢で同様にチェック、両手を頭の後ろで組んで、バンザイのような感じでチェック、最後に腰をひねったり、前かがみになって同様にチェックします。

この次に触診をします。

⑥乳房にしこりはないか

⑦脇の下にしこりはないか

⑧片方の乳首のみの分泌物はないか

をチェックします。 チェックのやり方としては、親指以外の4本の指で乳首の周辺から細かく渦巻きを書くようにそっと押すような感じで周囲まで確認します。次に縦、横に平行線を引くように移動しながら4本の指でチェックします。最後に乳首や乳房をつまんで分泌物がないかをチェックします。 そんなに時間がかからないと思いますので毎月、定期的にチェックしてみてください。

私の知っている方も定期的に実施して、ご自分で乳がんを早期で発見しました。

ちなみに、⑤⑥に関しては入浴時に石鹸をつけて滑らせると凹凸が判り易いそうです。

遺伝性の乳がんについて

乳がんはBRCAと言われる遺伝子の変異も発症に関係していると見られています。

昭和大学医学部乳腺外科の中村清吾先生の発表によれば、乳がん患者のうち7~10%は、遺伝子変異が原因の遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)とされ、その多くはBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子に変異があることが報告されています。BRCA1遺伝子変異を持つ患者では、生涯乳がん発症リスクが6~8割と非常に高いほか、乳がん再発リスクや卵巣がん発症リスクが高いことも知られています。

アメリカやイギリスではBRCA1遺伝子の異常が分かった場合、発症前に、がんになりやすい臓器(乳房、卵巣)を切除するという予防法も行なわれています。少し前の話になりますが、有名なハリウッド女優さんが乳房と卵巣の摘出手術を行い話題になりましたよね。

しかしながら、日本では予防的な臓器切除は一般的ではありません。

それに、例え遺伝子異常を持っていても全員ががんを発症するわけではありませんし、生活習慣の改善によりリスクを減らせる可能性もあります。例えば脂肪の摂取を減らせばがんになる確率は下がると言われています。

ですから、予防のために臓器の切除を行うと言う選択肢よりは、定期的ながん検診を受け、がんが発見されたら早期に治療するという選択肢の方が一般的な選択肢になるのではないでしょうか。

上記の女優さんも次のように言ってます。「選択肢は一つではありません。大切なことは選択肢について知り、その中から自分の個性にあったものを選択することです。」と。

この言葉は、乳がん予防に関してだけではなく、がん治療全般にも まさに当てはまる言葉だと思います。

日本で乳がんが増加している理由

もともと乳がんは先進国である欧米の女性に多い病気です。アメリカでは生涯のうちに乳がんにかかる方は8人に1人と言われており、日本の12人に1人と比べるとはるかに高率です。しかしながら欧米では減少傾向を示し始めているにもかかわらず、日本では1980年代以降、乳がんの罹患率は上昇し続けています。それは何故でしょうか。

日本の乳がん罹患者が増えている理由は大きく分けて二つあると言われています。

一つ目は結婚・出産年齢が高くなり、1人の女性が生涯に産む子供の数が減っていることです。というのも乳がんはエストロゲンと言う女性ホルモンの影響を受けて増殖するものが多いと考えられています。エストロゲンは排卵の準備をするときに分泌が高まります。逆に言えば妊娠や授乳中は分泌が高まりません。つまり、少子化の現代はより多くの女性が、長い期間、高いレベルのエストロゲンにさらされていることになるのです。

二つ目は食生活の変化です。すなわち日本の伝統的な和食の食事が減り、洋食やファーストフードをとる機会が増えたと言うことです。もっと解り易く言うと動物性脂肪の摂取が増えたと言う事です。もともと女性ホルモンの合成と生成には脂肪組織が関わっていますので、脂肪摂取の増加によりエストロゲンの産出量が多くなるのではないかという事です。そして閉経後の肥満は乳がんリスクを高めることも解っていますので、動物性脂肪の取りすぎによる肥満がリスクを押し上げることになります。

話は変わりますが、欧米のセレブの間では食事のときにミソスープを飲むのが密かなブームになっているらしいです。健康に良いとの考えからだそうです。増え続けているとはいえ、まだまだ欧米よりは低い日本の乳がん罹患率。和食の本家である我々も、和食の良さを見直すことによって乳がんの増加に歯止めを掛けたいですね。

乳がんの分子標的薬アフィニトール(エベロリムス)

乳がんの治療はサブタイプ別に選択されます。サブタイプとしては分かれますが、その中で7割強を占めるのが、ホルモン受容体陽性のタイプです。

ホルモン受容体陽性の乳がんでは、女性ホルモンであるエストロゲンが、増殖因子受容体を通じてがん細胞の核にあるエストロゲン受容体に結合すると、がん細胞を増殖させるシグナルが出てしまいます。その結合をブロックするのがホルモン療法薬です。ですから、ホルモン受容体陽性の患者さんにはホルモン療法が行われます。

しかしながら治療の過程でホルモン療法薬への耐性(薬が効かなくなる)が出来てしまう事があるのが課題でした。

薬剤耐性が出来てしまう仕組みは、次のとおりです。ホルモン療法薬ががん細胞の核にあるエストロゲン受容体にエストロゲンが結合しないようにブロックすると、がん細胞は細胞の表面にあるわずかな増殖因子受容体(膜型エストロゲン受容体)の経由など、本来の増殖因子受容体を通さない迂回路を通じて増殖シグナルを受け取るようになるのです。

このような耐性を克服しようと登場したのが、分子標的薬のアフィニトール(エベロリムス)です。アフィニトールは、腎がんなどを対象に承認されていましたが、2014年に日本で「手術不能または再発乳がん」に対して承認されました。アフィニトールは、先ほどの迂回路の途中にあるmTOR(エムトール)という細胞内のタンパクに作用し、ここでがん増殖のシグナルをブロックすると言うものです。つまり増殖シグナルの迂回をさせない働きをします。

治験ではホルモン療法薬であるアロマシンとの併用で、アロマシン単独と比較して、無増悪生存期間(PFS)が大きく伸びました。

ただし、アロマシン単独と比較すると併用群では副作用も高い頻度で発生しました。代表的な副作用としては口内炎と間質性肺炎が上げられます。口内炎は2週間くらいで発生率が上昇し、その後落ち着くそうですが、間質性肺炎は1年くらいの間、発症頻度が増え続けるそうなので特に注意が必要です。

乳がんの遺伝子治療について

遺伝子治療はいわゆる標準治療ではありません。しかしながら標準治療となっていないことと、効果の有無は別だと思っています。新しい治療法は最初はどれも科学的根拠が証明されていないのです。更に科学的根拠を証明するのには時間が必要です。しかしながら証明を待っていられない患者さんがいらっしゃるのも一方の現実ではないでしょうか。

以下の写真は40歳女性の方です。左乳がんの診断にて乳房温存術施行、2年経過後に再発しました。PET-CT検査の結果、左乳房内局所再発、左鎖骨上、腋窩リンパ節転移及び多発性骨転移が認められました。その後遺伝子治療を局所注射で6回施行したケースです。

頸部リンパ節転移部分

図1改2 図2改

PET検査の画像

図3改 図4改

見てお分かりのように画像に写っているがんは消失しました。もちろん時間がまだ経過していないので、この後どのような経過となるかはわかりませんし、皆さんに全く同じ結果が出るとも限りません。

しかしこのような効果が出る方が普通にいらっしゃるのも現実です。またこの治療は標準治療を邪魔する治療でもありませんし、逆に標準治療と併用することで、より大きな効果を示すともいわれています。

末期がんと言われ、標準治療でやれることが無いと言われても治療は可能です。更に副作用も少なく患者さんにとっては低侵襲な治療です。

一見良い事ばかりのようですが、残念ながらこの治療は自由診療です。費用は全額自己負担ですし、治療できる施設も限定的です。また名称は遺伝子治療と謳っていても、薬剤を含め内容は医療機関により異なります。だからこそ、どの医療機関で治療を受けるかと言う選択が非常に重要になります。

いつか科学的根拠が証明されて一般的な治療になると良いですね。

遺伝子治療に寄らず、ご質問・ご相談があればお気軽にどうぞ。

乳がんの分子標的薬カドサイラについて

乳がんの20%~25%の患者さんにHER2と呼ばれるたんぱく質の過剰発現が認められます。このHER2が、がん細胞の増殖と生存期間に大きく関与しています。

かつては、HER2が過剰発現している乳がんは予後が悪いと言われていました。しかし近年、このHER2を標的とするハーセプチン(トラスツズマブ)やタイケルブ(ラパチニブ)、パージェタ(ペルツズマブ)などの分子標的薬の登場により、HER2陽性乳がんの予後が劇的に改善しました。

しかしながら、転移性乳がんで2種類以上の抗HER2薬を含むレジメンで治療が行なわれた後は、明確な治療基準が確立されていませんでした。

しかし、カドサイラ(トラスツズマブ エムタンシン、T-DM1)という薬剤により、2種類以上の抗HER2薬を含むレジメンの治療を受けた患者さんの無増悪生存期間(PFS)が大幅に延長すると言う研究報告が2013年のヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO)で発表されました。

カドサイラは抗体であるハーセプチンと、がん細胞の増殖を阻害する薬剤であるエムタンシンを結合させたもので、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる新しいクラスの薬に区分されます。分子標的薬であるハーセプチンを利用し、がん細胞だけに抗がん剤を送り込むため、身体の他の部位が抗がん剤にさらされるのを制限でき、副作用が軽いと言う特徴を持っています。

カドサイラはHER2陽性・進行再発乳がんに対して、2014年から日本で使えるようになっており、HER2陽性・進行再発乳がんの治療戦略は大きく変わってきています。更に、現在でもさまざまな臨床試験が行われているので、数年後には治療戦略が新たな展開を見せることが期待されています。

切らない乳がん治療 MRガイド下集束超音波療法

乳がんの治療において、出来れば乳房に傷をつけたくないと言う女性は多いと思います。大きながんでなければこのような要望を実現する試みが行われています。そのうちの一つがMRガイド下集束超音波療法です。

虫眼鏡の要領で超音波のエネルギーを一点に集中させ、熱でがん細胞を殺す治療法です。MRIと言う画像診断装置を使ってがんを狙うのでMRガイド下と言われます。

治療時にはMRIを見ながら行なうため、MR画像で焼灼範囲の計画を立てた通りに治療することが可能であり、治療データの保存が容易で温度のモニターもでき、焼け残りの有無もわかるので、世界的に研究が進んでいます。

適応は、大きさ2cm以下、広い乳管内進展がない、リンパ節転移がない、腫瘍が皮膚・肋骨から9㎜以上離れている、などです。

すでに子宮筋腫の治療で使われている治療法でもあり、治療方法としては全くの目新しい治療法ではありませんが、日本では臨床試験や自由診療として行われています。

がんは何故再発するのか?

がんは完治が難しい病気といわれます。なぜならば、がんは治ったように見えても再発する可能性があるからです。

つまり、がんの怖さは再発・転移にあるのです。

ではなぜ再発するのでしょうか?再発の理由としては、主に3つの理由があると言われています。

一つ目は、治療後にもわずかながん細胞が残っている場合があることです。手術の際に目に見える(画像に写る)がん細胞を全て取ったとしても、見えないがん細胞が残ってしまったり、すでに他の臓器に転移している場合などは、その残されたがん細胞が増殖して、再度がんとして成長をはじめる場合があります。

二つ目は、ひとたびがんを発症した患者さんは、例えがんの除去に成功したとしても「がんになりやすい状態」の身体そのもは変わっていないためです。どういうことでしょうか。がんはいくつかの遺伝子の変異が積み重なって発生する病気です。一方で、がんを発症した方の身体の中には、がんが出来たところ以外のところにも遺伝子の変異が生じている可能性があります。それゆえに再発の可能性が高いと言えるのです。

三つ目は、がん治療の過程で抗がん剤治療や放射線治療を受けたことが、がん発症の原因になり得るからです。放射線や抗がん剤の多くは、DNAを傷つけることによってがん細胞を殺します。しかしこの治療法では正常細胞の一部も遺伝子が傷つけられてしまい、その細胞ががん化することが有り得るそうです。

がんの再発は治療後2~3年以内に起こることが多く、一般的には遅くても5年以内に再発すると言われています。ですから一般の固形がんは5年間再発しなければ治癒と言う言葉が使われます。しかしながらがんの種類によっては乳がんのように10年以上経ってから再発する例もあります。そのような観点からも、5年経過してからも定期的な検査は大事です。

早期乳がんの再発予防の為のホルモン療法薬について

エストロゲン受容体陽性の非浸潤性乳管がんの、閉経後女性に対する再発予防を目的としたホルモン療法の比較試験が米国の複数の施設で実施され、その結果がASCO2015(2015年米国臨床腫瘍学会学術集会)で報告されました。

比較されたのはタモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン)とアナストロゾール(アリミデックス)です。

タモキシフェンはエストロゲンとがん細胞が結合するのを阻害するのに対し、アナストロゾールはエストロゲンの生成を抑制すると言う作用機序の違いがあります。

比較試験では非浸潤性乳管がんで腫瘍摘出と放射線療法による治療を受け、がんの残存が確認されていない3,104人を対象に5年間に渡り、それぞれを投与しました。

10年後の結果をみると、両薬剤とも乳がんの再発抑制が見られましたが、再発を見られなかった患者の割合は、アナストロゾールで93.5%、タモキシフェンで89.2%、とのこと。

ASCO2015ではこの結果を踏まえ、標準治療として使われるタモキシフェンよりもアナストロゾールの方が当該ケースではすぐれていると報告されました。

乳がんの陽子線による研究治療

鹿児島県の指宿にある「メディポリス国際陽子線治療センター」では2011年の開業以来、先進医療として陽子線を使ったがんの治療を行っています。今までの治療実績は1,500人以上に上るそうです。

ご存知の方も多いと思いますが、重粒子線や陽子線治療にはブラッグピークと呼ばれる、ある深さで線量が大きくなると言う特徴があります。それを上手にコントロールすることにより、がん病巣を狙い撃ちして、正常細胞にはあまり影響を与えない放射線治療が可能になります。

この度、この治療法をメディポリス国際陽子線治療センターでは乳がんに対して研究治療を開始しました。特許を出願している乳房を固定する装置と独自のシステムを使用し実施します。今回実施している患者さんには26回照射を行う予定です。早期に見つかった小さな乳がんであれば、切らずに治療できると言いますので、来年度の一般患者受け入れが待たれるところですね。

(参照:KYT鹿児島読売テレビ)