乳がんの分子標的薬アフィニトール(エベロリムス)

乳がんの治療はサブタイプ別に選択されます。サブタイプとしては分かれますが、その中で7割強を占めるのが、ホルモン受容体陽性のタイプです。

ホルモン受容体陽性の乳がんでは、女性ホルモンであるエストロゲンが、増殖因子受容体を通じてがん細胞の核にあるエストロゲン受容体に結合すると、がん細胞を増殖させるシグナルが出てしまいます。その結合をブロックするのがホルモン療法薬です。ですから、ホルモン受容体陽性の患者さんにはホルモン療法が行われます。

しかしながら治療の過程でホルモン療法薬への耐性(薬が効かなくなる)が出来てしまう事があるのが課題でした。

薬剤耐性が出来てしまう仕組みは、次のとおりです。ホルモン療法薬ががん細胞の核にあるエストロゲン受容体にエストロゲンが結合しないようにブロックすると、がん細胞は細胞の表面にあるわずかな増殖因子受容体(膜型エストロゲン受容体)の経由など、本来の増殖因子受容体を通さない迂回路を通じて増殖シグナルを受け取るようになるのです。

このような耐性を克服しようと登場したのが、分子標的薬のアフィニトール(エベロリムス)です。アフィニトールは、腎がんなどを対象に承認されていましたが、2014年に日本で「手術不能または再発乳がん」に対して承認されました。アフィニトールは、先ほどの迂回路の途中にあるmTOR(エムトール)という細胞内のタンパクに作用し、ここでがん増殖のシグナルをブロックすると言うものです。つまり増殖シグナルの迂回をさせない働きをします。

治験ではホルモン療法薬であるアロマシンとの併用で、アロマシン単独と比較して、無増悪生存期間(PFS)が大きく伸びました。

ただし、アロマシン単独と比較すると併用群では副作用も高い頻度で発生しました。代表的な副作用としては口内炎と間質性肺炎が上げられます。口内炎は2週間くらいで発生率が上昇し、その後落ち着くそうですが、間質性肺炎は1年くらいの間、発症頻度が増え続けるそうなので特に注意が必要です。