乳がんの分子標的薬カドサイラについて

乳がんの20%~25%の患者さんにHER2と呼ばれるたんぱく質の過剰発現が認められます。このHER2が、がん細胞の増殖と生存期間に大きく関与しています。

かつては、HER2が過剰発現している乳がんは予後が悪いと言われていました。しかし近年、このHER2を標的とするハーセプチン(トラスツズマブ)やタイケルブ(ラパチニブ)、パージェタ(ペルツズマブ)などの分子標的薬の登場により、HER2陽性乳がんの予後が劇的に改善しました。

しかしながら、転移性乳がんで2種類以上の抗HER2薬を含むレジメンで治療が行なわれた後は、明確な治療基準が確立されていませんでした。

しかし、カドサイラ(トラスツズマブ エムタンシン、T-DM1)という薬剤により、2種類以上の抗HER2薬を含むレジメンの治療を受けた患者さんの無増悪生存期間(PFS)が大幅に延長すると言う研究報告が2013年のヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO)で発表されました。

カドサイラは抗体であるハーセプチンと、がん細胞の増殖を阻害する薬剤であるエムタンシンを結合させたもので、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる新しいクラスの薬に区分されます。分子標的薬であるハーセプチンを利用し、がん細胞だけに抗がん剤を送り込むため、身体の他の部位が抗がん剤にさらされるのを制限でき、副作用が軽いと言う特徴を持っています。

カドサイラはHER2陽性・進行再発乳がんに対して、2014年から日本で使えるようになっており、HER2陽性・進行再発乳がんの治療戦略は大きく変わってきています。更に、現在でもさまざまな臨床試験が行われているので、数年後には治療戦略が新たな展開を見せることが期待されています。