臨床試験と治験

臨床試験とは患者さんに参加いただき、実際に治療や診断を行って、新しく考案された治療法や診断法の有効性や安全性を客観的に評価する研究の事を言います。

現在行われている治療法や診断法も、今までに多くの患者さんに協力していただいた臨床試験により作り上げられたものと言えるでしょう。

臨床試験には「研究者(医師)主導型臨床試験」と、「治験」があります。

「研究者主導型臨床試験」は、研究者が主体となり、すでに国内で承認された薬剤や治療法、診断法の中から最良の治療法や診断法を選び出すことや、薬のより効果的な組み合わせを探ることを目的としています。

一方、「治験」は、未承認薬を用いるものです。主に製薬会社が主体となり、薬を厚生労働省に認めてもらうための臨床試験です。

臨床試験は、これまでの治療法よりも、より良い治療法を提供することを目的とするものですから、臨床試験に参加すれば、その治療法をいち早く受けられることがメリットとなります。

もちろん臨床試験は参加している多くの病院から絶えず情報を集めながら、患者さんの健康を第一に慎重に行われます。しかしながら新しい治療法ですから、予想しただけの効果が得られなかったり、思いもよらない副作用が生じたりすると言うデメリットもあります。

臨床試験に参加するには、病気の種類だけではなく、進行度合い、持病の有無や過去の治療経過、身体の状態など、さまざまな参加基準を満たすことが必要になります。臨床試験に参加している病院では、この基準に当てはまる患者さんに臨床試験のご案内をする場合もあります。

臨床試験に参加している病院のホームページでも、その病院が参加している臨床試験の情報を公開しています。ご興味のある方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

がん予防に繋がる生活習慣の改善

糖尿病とがんの背景には共通のリスク因子として、不適切な生活習慣が関与していることは、以前にも記載しました。だとすれば生活習慣を改善すれば、糖尿病にもがんにも効果があるはずです。つまり、糖尿病の予防や改善のために生活習慣の改善に取り組むことは、将来のがんリスクを減らすことになると考えられます。

ここで生活習慣とがんの関係について改めて確認しておきましょう。

1.身体活動の影響

運動を良くする人としない人を比べると、運動を良くする人はがんが1~2割減ることが分っています。そして、結腸がん、肝臓がん、すい臓がんといった、糖尿病の人で増えるようながんが半分近くに減ります。総死亡率も約3~4割減っています。運動する人はがんになりにくいし、長生きだと言う事がはっきりしています。

2.煙草の影響

たばこを吸っている人は、がん全体のリスクが1.6倍に増えます。そして食道がんや肺がんは煙草によって大きくリスクが増えるがんですし、脳卒中や虚血性心疾患のリスクも増えてきます。たばこは生活習慣の大きな問題です。

3.お酒の影響

お酒については一番リスクが少ないのは、全く飲まない人ではなく、時々飲む人だと言われています。しかし、大量飲酒者では、がん全体のリスクは煙草と同程度増加します。そして食道がんは特にお酒が関係したがんであり、脳卒中や総死亡のリスクも高めます。

4.体型の影響

肥満も糖尿病と同じ程度にがんのリスクになります。体型とがんのリスクを見ると、肥満の人はがんが増えてきますが、やせすぎの人もがんのリスクがあります。一番リスクが少なかったのが、BMIで23~25の範囲の方だと言われています。

以上のように、運動やたばこ、お酒や食事、肥満などの生活習慣はがんのリスクに直結しています。がんも生活習慣病だと言われる所以です。ですから、これらの生活習慣を改善するだけで、がんによる死亡を大きく減らすことが期待できるのです。

肺がんの分子標的薬

肺がんは表面の細胞膜から、さまざまな受容体が突き出ており、その受容体が受けた刺激により、がん細胞が増殖すると言われています。

そのような受容体のうち、肺がんの20~30%でEGFR(上皮成長因子受容体)をつかさどる遺伝子に変異があると言われています。そのEGFRに作用するように開発された分子標的薬の一つにイレッサがあります。(他の受容体を標的とする分子標的薬もあります。)イレッサは世界に先駆けて日本で承認された薬剤ですが、そのイレッサや少し後に承認されたタルセバという薬剤は第一世代と呼ばれています。それぞれ2002年と2004年に承認されおり、EGFR変異のある肺がん治療に使用されています。

そして今は第二世代、第三世代の研究が行われています。

では、新世代の薬剤は第一世代と何が違うのでしょうか。

第一世代では標的とするEGFRが特定されていますが、第二世代ではすべてのEGFRを対象として抑えると言われています。そしてEGFRに結合したら離れにくいと言う性質を持っています。そのために、第一世代よりも無増悪生存期間が長いと推測されています。

第二世代では日本ではジオトリフという薬剤が2014年5月に発売されています。

EGFR(上皮成長因子受容体)に変異を持つ患者さんのうちの約半分が、エクソン19という遺伝子の部位に欠損を持っていますが、そのエクソン19の欠損を持っている患者さんにジオトリフが良く効くことが臨床試験では明らかになっています。特に日本人の患者さんには高い効果が見られました。

さらに第二世代では変異のあるなしに関わらず、すべてのEGFRに作用していましたが、第三世代では変異のあるEGFRにだけ作用するようになっており、より効果的であると考えられています。第三世代はまだ承認薬はありませんが、いくつかの臨床試験では、副作用が今までよりも軽いのではないかと言う結果が出ているようです。また、用量を上げても副作用が出にくいために今後が有望視されています。

更に、新世代の薬剤には、イレッサなどに耐性を持ってしまったがん細胞への効果も期待されています。

この分野での開発は世界的にも積極的に取り組まれています。一日も早い新薬の承認が期待されるところです。

ナッツによるがん死亡リスク低下の可能性

一握りのナッツを毎日食べる人は、食べない人よりも全死亡率が20%低下することが、大規模な疫学的研究で明らかになり「New England Journal of Medicine」誌で発表されました。

この研究は食事や生活要因などの健康転帰に関する様々なデータを収集している2つの観察研究(看護師健康調査と男性医療従事者追跡調査)のデータを活用して行なわれました。

参加者は一人分(約28グラム)のナッツをどのくらいの頻度で摂取したかを答えた。30年にわたり追跡し、喫煙や運動習慣など死亡率に関与する可能性のある要因を除外する最新の分析手法が用いられました。

この結果、死亡率はナッツを食べない人に比較して、食べる頻度が週1回の人は11%、週に2~4回の人は13%、週に5~6回の人は15%、週に7回以上の人は20%低下したことが明らかになりました。

疾病別に見ると、心臓病の死亡が29%低下し、がんによる死亡リスクも11%減少したと言われています。

更にナッツを食べる習慣のある人は、ない人より細身であると言うことも報告されています。

ナッツというと一般的には木の実の事ですが、ピーナッツでも死亡率低下は同程度あるそうです。

海外での研究成果なので、そのまま我々に当てはまるかどうかはわかりませんが、一考に価する結果ではないでしょうか。

未分化がんとは何か?

がん細胞の悪性度を語るときに分化、未分化と言う言葉が使われます。しかし分化・未分化って何を意味しているのでしょうか。

皆さんもご存知だと思いますが、細胞は分裂しながら増殖していきます。何度も分裂しながら次第にその組織に特有の細胞に変わる、つまり分化していくのです。胃なら胃の細胞に、前立腺なら前立腺の細胞になるということを分化したと言うのです。

一方でその途中の段階の細胞、完全に分化していない細胞も存在します。それを「未分化」の細胞と呼んでいます。未分化の中には分化度が高い(分化細胞に近い)ものから低いものまで存在します。

そして細胞ががん化した段階が、分化した段階でがん化したものを「分化がん」、未分化の段階でがん化すると「未分化がん」と呼びます。

一般にがん細胞は無制限・無秩序に分裂・増殖を繰り返します。その点は分化がんも未分化がんも変わりません。ただ、未分化の細胞はどのように成熟するか決まってませんし、どこの場所に落ち着くものなのかもわかりません。言い換えれば、分化度が低いほど、どこへでも行くことができてしまう、つまり転移が生じやすいと言うことなのです。その上、分化度が低いほど、がんは分裂・増殖のスピードが早いのも特徴です。ですので一般に分化度が低いがんほど悪性度が高いと言われるのです。

しかしながら未分化がんは放射線や化学療法が効果を増す、という側面も持ちます。なぜならば、放射線や抗がん剤は細胞の分裂・増殖過程を阻害するものであるからです。前述したように未分化がんは分裂・増殖のスピードが早いのも特徴です。すなわち分裂・増殖が多くなるので、逆に治療による分裂・増殖を阻害するチャンスが増えるのです。悪性がんにも弱点はあるのです。

頭頸部がんの分子標的薬治療

はじめに頭頚部がんの今までの治療方法を、解説します。

まずは早期なら手術又は放射線の単独治療を選択し、この段階では単独療法で治癒する可能性が高いです。

局所進行になった場合は発声などの機能温存を希望しなければ手術、機能温存の希望があったり、手術が出来ない場合は化学放射線療法が行われました。

そして再発・転移がんになると、局所治療の適用があれば手術か化学放射線療法、そうでない場合は化学療法となっていました。

しかしながら、局所進行がん以降の化学療法と放射線の併用で重い副作用が出ることがわかっています。粘膜炎や皮膚炎、嘔吐などは放射線単独よりも化学療法併用で2倍以上現れるようです。さらに言えば化学放射線療法の合併症による死亡率は、治療関連死亡率の全体の15%にも上っています。つまりこの治療は標準治療と言えども副作用の面で問題視され、新たな治療法が望まれていました。

そこに、2012年の12月に分子標的薬のアービタックスが、頭頚部がんの治療において適応追加がされました。アービタックスは日本では2008年に大腸がんの治療薬として承認され、2010年からは一次使用が承認されてます。しかしながら欧米ではその頃から頭頚部がんにも承認され始めていました。ここにきて、日本でもようやく臨床試験を経て承認となりました。日本では頭頚部がんに対する初めての分子標的薬です。

この薬が選択肢に入ってくることにより、患者さんには大きなメリットが期待されています。局所制御期間が、放射線単独に比べ、アービタックス併用により大きく延長されています。さらに大切なことはアービタックス併用による、放射線の毒性の悪化が少ないことです。つまり、副作用が放射線単独と比較してもあまり変わらないと言うことです。さらに患者さんのQOLも悪化させないことがアンケートによりわかりました。また、再発した場合も、化学放射線治療よりも救済手術がしやすいというデータもあります。

これらのことは前述した化学療法との併用と比較すると画期的な効果ではないでしょうか。ただ単純に生存の延長だけでなく、QOLの維持も満たせる治療法が選択肢になったと言うことは、患者さんにとっても非常にすばらしい変化ではないでしょうか。

大腸がんの症状

国立がん研究センター予測では2015年に日本人に最も多くなると言われる大腸がんは、早期の場合にはほとんど自覚症状がありません。また、便潜血検査でも中々診断できません。ですので、なんらかの自覚症状が出てきた場合は、大腸がんがある程度進行している可能性が考えられます。

大腸がんがある程度進行すると、粘膜表面に潰瘍ができ出血し、便が大腸を通るときに擦られて血液が付着し、下血や血便、粘血便となって現れるのです。また、腸管が狭くなるために、便の通りが悪くなり、便秘、腹部膨満感、下痢、残便感、便が細くなる(便柱狭小)、などの便通異常を起こしたり、腹痛、腸閉塞、貧血、腹部の腫瘤などの症状が現れたりします。

これらの症状の程度や起こり方は、がんの発生部位や進行度によって差があります。

一般に、大腸の右側(盲腸、上行結腸、横行結腸)に発生したがんでは自覚症状が起こりにくく、腹部にしこりが触れたり、慢性的な貧血症状が生じるようになってから受診し、発見されることが多いとされています。

反対の大腸の左側(下行結腸、S状結腸、直腸S状部、直腸)に発生したがんでは、下血や粘血便などの出血や便秘、下痢、便が細くなるなどの症状がきっかけとなり診断されることが多くあります。

いずれにしてもこのような症状がある場合は、早めに消化器科、胃腸科、肛門科のある医療機関で検査を受けましょう。もしがんが見つかっても早期発見・早期治療につながります。大腸がんは切除できれば十分に根治可能な場合が多いのです。

膵がんの原因、慢性膵炎

慢性膵炎があるとすい臓がんを発症しやすいと言われています。また、性別では、男性に非常に多いと言う調査結果もあります。

では慢性膵炎の原因はなんでしょうか。実は膵炎の原因は慢性でも急性でも最も多いのはアルコールです。ですから、慢性膵炎の治療で最も重要なのが、断酒です。アルコール性膵炎の人はもちろんの事、そうでない場合でも飲酒を控える必要があります。

しかし、慢性膵炎を発症している人の場合は、長年の大量飲酒が習慣化しており、膵炎を発症してからも飲酒をやめられない人がしばしばいらっしゃるようです。

しかしアルコール性慢性膵炎の人の追跡調査では、禁酒成功例は腹痛消失率が高く、糖尿病合併率が低いなどの結果が出ているそうです。

以前にも何度か触れたことがありますが、糖尿病とがんは密接に関係しています。もし糖尿病が防げるのであれば、それだけでもがんリスクは低くなると考えられます。

アルコール性膵炎の方は、いったん飲み始めると適量で止められなくなることが多いので、「節酒」ではなく「断酒」が良く、その為にも家族や周りの方の協力を仰ぐことも大切です。

膵がんの危険因子

日本では膵がんと言うと、一般的には「浸潤性膵管がん」を指し、発症すると進行も早く、予後も悪いがんだと言われています。膵管から発生し、砂をまき散らすように周囲に広がっていくがんで、見つかった時には、約半数の人が切除できないと言うのが現状です。

では、そのようなすい臓がんはどのような人がなるのでしょうか。上記したように、すい臓がんは早期発見が非常に難しいがんで、見つかった時には進行しているケースが多いので、なかなか危険因子を絞り切れていません。

しかしながら、今までのいろいろな疫学的研究の結果、膵がんガイドラインでは下記のような危険因子が挙げられています。

1.家族歴

兄弟や父母、祖父母が膵臓がんを発症している場合は、やはりすい臓がんになる可能性が高い傾向にあります。また、遺伝性膵がん症候群と言って、遺伝的にがんが速くできてしまうような方もすい臓がんの発症率が高いと言われています。

2.合併疾患

合併疾患として糖尿病を持っている人は疫学的にみて糖尿病でない人よりもリスクが高いと言われています。また、肥満や慢性膵炎もリスクが高い傾向にあります。

3.喫煙

生活習慣では喫煙が独立した危険因子としてガイドラインに掲載されています。危険率は2~3倍と言われています。

見つかった時には進行していることの多いすい臓がんです。上記に心当たりのある方は、定期的な検診をされてはいかがでしょうか。

がんと糖尿病の関係その2

日本でも増加している糖尿病ですが、一般的に、糖尿病の患者の方はそうでない方よりも寿命が短いと言われています。

その差は男性で9.6歳、女性では13歳も違うそうです。

では糖尿病患者さんの死因はどうなっているのでしょうか。1980年代までは血管障害(腎障害、虚血性心疾患、脳血管障害)が1位でしたが、1990年代からは、がんが第1位になっています。これはどういうことだと思いますか?

その答えは、合併症予防の取り組みが進んだことにより血管障害で亡くなる方が減少したからだと考えられています。つまり、血管障害で亡くなる方が減少し、糖尿病患者さんが長生きになったので、がんで亡くなる方が増加しているということです。

この傾向は、今後ますます強まるのではないでしょうか。ですから糖尿病患者さんにとっては、失明したり、透析になったりする事とともに、がんになると言う事も現実的であると言う事なのです。

以前にも申し上げましたが、最近の調査では、糖尿病とがんの合併は単なる偶然では無いことが明らかになっています。日本のデータでは前立腺がん以外のがんは、糖尿病で増加するのです。(欧米でのデータも同じ傾向を示しています。

それは何故かと言うと、糖尿病とがんには共通のリスク因子があるからだと言われています。

リスク因子としては、変えられるリスク因子と変えられないリスク因子があります。

変えられないリスク因子は、「加齢」「性別」「遺伝子型」があります。糖尿病とがんは、どちらも年齢とともに増える病気で、男性の方がなりやすい。さらに特定の遺伝子型がある方は、どちらの病気にもなりやすいと言う事が分ってきています。しかし残念ながらこれらは変えようがないものです。

他方、変えられるリスク因子としては「肥満」「食事」「運動不足」「喫煙」「飲酒」といった生活習慣があります。これらの生活習慣は、糖尿病だけではなく、がんをも増やすことになるそうです。つまり、糖尿病とがんの間に直接の因果関係が無いとしても、これらのリスク因子を持っている方は、両方の病気になりやすいと言う事になるわけです。

しかし、これらは修正可能なリスク因子でもあります。つまり改善できると言う事なのです。これらのリスク因子に心当たりのある方は、生活習慣の改善をはじめては如何でしょうか?