神奈川県立がんセンターが重粒子線治療を開始

12月1日付の日経新聞によりますと、神奈川県立がんセンターがかねてより建設をしていた、重粒子線の専用施設(アイロックと言うそうです)を12月中旬から稼働するそうです。

通常の放射線治療に使用されるX線は、体表部が一番線量が高く奥に進むほど線量が低くなるという性質がありました。その為にがん細胞だけでなく正常細胞にもダメージを与えてしまうと言う欠点があります。その欠点を補うためにがん細胞の形に添って360度から線量の強度を調整しながらX線を照射する強度変調放射線治療(IMRT)などの技術が開発され、大変有効に活用されています。

一方で重粒子線治療も放射線治療の一種ですが、X線を使用せずに光速の70~80%の速度に加速した炭素イオンをがん細胞に照射するという治療です。ちなみに陽子線治療は炭素イオンではなく、軽い水素イオンを使いますが、どちらの治療も粒子線が持つブラッグピークと言う特性を活かして、がん細胞だけをピンポイントで狙うことができると言われています。また、炭素線はパワーも高いためにがん細胞の殺傷能力もX線治療に比べて高いと言われています。もちろん放射線治療の一種ですので、手術痕なども残らず、低侵襲な治療です。

更に、アイロックでは高速三次元スキャニング照射法を用いた重粒子線治療を行います。この照射法は、細い重粒子線ビームで腫瘍を塗りつぶすように照射する新しい技術です。

この技術を用いることで、腫瘍の形状に合わせて腫瘍だけに高い線量を集中させることができます。また、腫瘍の周りにある正常組織の線量を今までの照射法よりさらに低く抑えることができると言われています。

期待が高まるアイロックですが、重粒子線治療共通のネックとして、費用の高さがあります。民間の生命保険などを上手に活用しての準備をされておいたらいかがでしょうか。

大腸がんの再発・転移率と検診の必要性

がんの原発巣(最初に出来たがん病変)を手術治療で切除して、しばらく経過してから再びがんが現れることを再発と言います。再発の中でも、がん細胞が元あった原発巣から離れた場所(ほかの臓器や組織)に飛び火し、その部位で増殖するのが転移です・

国立がん研究センターの予測では、2015年日本人の男女合計で最も罹患者数が多くなるとされる大腸がんですが、大腸がんの再発・転移が起こる割合はほかのがんと比べて高くはなく、大腸がん全体では再発率は約17%と言われています。しかし実際には最初に発見されたがんの進行度や発生部位(結腸がんか直腸がんか)によっても異なります。

大腸がんの再発は、その再発のうちの約80%が3年以内に起こり、95%が5年以内に見つけられています。5年経過後に再発する割合は非常に少ないと言えます。そして、再発も症状があらわれて発見されるケースよりも、定期的な検診によって発見されるケースが多くなっています。また、再発率は結腸がんよりも直腸がんの方が高いことにも注意が必要です。

以上のような事からも、治療後5年間は定期的な検診が必要とされているのです。

大腸がんのステージ別再発率と手術後の経過年数別累積再発出現率は以下の通りです。

ステージ 再発率(%) 手術後の経過年数別累積再発出現率(%)
3年以内 4年以内 5年以内
     Ⅰ 3.7 68.6 82.4 96.1
     Ⅱ 13.3 76.9 88.2 92.9
     Ⅲ 30.8 87 93.8 97.8
    全体 17.3 83.2 91.6 96.4
大腸がん研究会・プロジェクト研究1991-1996年症例より

肝細胞がんのリスク因子

肝細胞がんの原因としてよく知られているのは、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変です。つまり、この因子を持っている人は肝細胞がんの高危険群(発生のリスクが高い)と言えますので、定期的な検診が必要です。

また、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変ほどの高危険群とは言い切れませんが、次のような因子を持っている方は肝細胞がんになりやすいと言われています。

  • B型、C型肝炎ウィルスを持っている人
  • 両親がいずれかの肝炎である等の家族歴のある方
  • パートナーがいずれかの肝炎である方
  • C型肝炎ウィルスが発見された以前に輸血をしたことがある方
  • C型肝炎に脂肪肝を合併している方
  • 常習的に飲酒をしている方
  • 喫煙をしている方
  • メタボリックな因子を持っている方
  • 非アルコール性脂肪肝(NASH)の人
  • 肝機能悪い方

などです。このような因子を持っている方は定期的な肝臓のチェックをお勧めします。

なお、年齢や食生活、生活様式には特別な危険因子はないと言われています。

また、以前は母親がB型肝炎ウィルスを持っている場合、産道感染によりその子供がB型肝炎ウィルスに感染することがありましたが、現在では予防法が確立しており、母親から子供への感染はほとんどなくなりました。

腎臓がんの分子標的薬 パゾパニブ(ヴォトリエント)

根治手術不能または転移性腎細胞癌の治療、特にファーストライン治療から使用可能な新しい薬剤として、血管内皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(VEGFR-TKI)であるパゾパニブ(ヴォトリエント)が、日本では2014年3月から使用可能になりました。

パゾパニブ(ヴォトリエント)はもともと悪性軟部腫瘍の分子標的薬として認可されていましたが、今般適用が拡大されたものです。

腎臓がんのファーストラインの分子標的薬としてはスニチニブ(スーテント)がよく使用されてきましたが、パゾパニブ(ヴォトリエント)の治療効果は、スニチニブ(スーテント)に劣らないと言う結果が報告されています。

効果は同等でも、注目すべき点は、頻度が高く発生する注意すべき有害事象の種類が異なることです。

有害事象としては、簡潔に言うと、スニチニブ(スーテント)には血球減少や手足症候群が多く、パゾパニブ(ヴォトリエント)には肝機能障害が多いという特徴が認められるということだと思います。

効果が同等ではあまり意味がないとお感じになる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、効果は同等でも有害事象のプロファイルが異なる2剤が利用できるというのは、治療の選択肢が増えるという意味であり、非常に有用だと考えられるのです。

KM-CART療法(腹水濾過濃縮再静注法改良型):がん性腹水の治療

がんの終末期において、がん患者さんを悩ませるのが難治性の腹水。強い腹部膨満感や呼吸苦を生じ、患者さんのQOLを著しく低下させます。

しかしながら今のがん治療では腹水を抜けば体が弱るというのが常識です。というのも腹水にはがん細胞だけではなく、栄養分や免疫にかかわるたんぱく質も大量に漏出しているため、腹水を抜くということはこうした貴重な成分も捨てることになり、急激に体力が低下するだけでなく、さらに腹水がたまりやすくなるという悪循環を招くからです。

ですので、患者さんが腹水で苦しんでも治療しないことも多いようです。こうした医療の常識を覆したのが、KM-CART療法(腹水濾過濃縮再静注法改良型)です。この療法は腹水を抜いて濾過し、必要な成分を体内に戻すのです。

以前のCART法はがん治療に向かないと言われる欠点がありました。その欠点とは、がん性の腹水は成分が多いために、濾過する膜がすぐに詰まってしまい、濾過をするのに大変な手間と時間が掛かってしまうと言うことです。

そのために従来のCART法はがん性の腹水にはほとんど使われることがなくなってしまいました。その欠点を大きく改善したのが要町病院腹水治療センターの松崎圭祐センター長が考案した「KM-CART療法」です。従来のCART法と比較してはるかに短い時間で腹水を濾過できます。

患者さんの中には大量の腹水が抜けると見違えるほど元気になる方もいらっしゃいます。その上、2週間に1度施行できますので、「苦しくなったらまた腹水を抜けると思うと非常に気が楽になる」とおっしゃるかたもいらっしゃいます。実際の治療には多少の条件がありますが、がん性の腹水で悩まれている方がいらしたら検討されてはいかがでしょうか。

おおよそ2泊3日の入院でできますし、健康保険が適用されます。現在は要町病院だけでなく複数の医療機関で実施しています。

第二回 いのちのフォーラム が開催されました

以前にこちらでご案内していた「第二回 いのちのフォーラム」が11月15日に開催されました。

ビオセラクリニックの谷川院長の基調講演から始まり、がんサバイバーの方々のパネルディスカッション、更には保障の考え方や遺伝子治療や免疫療法と言う先端治療の説明と盛り沢山の内容でした。

3時間を超えるフォーラムでしたが、皆さん熱心に聞いていただき、ご参加の方からも大変に参考になったとのご意見を頂くことができました。ご参加いただいた皆様ありがとうございました。

今後も皆様のお役にたてる情報を発信する機会を設けたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

いのちのフォラム写真

卵巣がんの分子標的薬

日本においても年々罹患者が増加している卵巣がんですが、その標準治療は手術療法が基本となり、状況に応じて化学療法を加えます。

そして卵巣がんで使用できる薬剤は何種類もありますが、主流となっている化学療法はTC療法と言って、3週間ごとにパクリタキセル(タキソール)とカルボプラチン(パラプラチン)を投与していく方法です。最近までその中に分子標的薬は含まれておりませんでした。

しかし2013年11月にアバスチンが卵巣がんに対しても承認されました。アバスチンは、もともとは大腸がんの治療などで使われている分子標的薬です。アバスチンは卵巣がんでは、従来の抗がん薬にプラスして使用します。ですので化学療法への上乗せ効果が期待できます。

さらにアバスチンと抗がん薬による治療後に、維持療法として単独で使うと、再発するまでの期間を延長することが可能です。また、アバスチンは血管新生を抑える分子標的薬です。ですから、卵巣がんで問題となる腹膜播種(あるいは胸膜播種)に特に威力を発揮するのではないかと期待されています。

尚、アバスチンは、欧州では進行期の乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、腎がん、卵巣がん、米国では大腸がん、非小細胞肺がん、腎がん、再発膠芽腫の適応症で承認を受けています。また、アバスチンの卵巣がん(初回治療)に係る効能・効果は、EU28カ国を含む110の国または地域において承認されています(2013年8月7日現在)。

卵巣がんのIDS(腫瘍減量手術)

卵巣がんのサブタイプ

臨床試験と治験

臨床試験とは患者さんに参加いただき、実際に治療や診断を行って、新しく考案された治療法や診断法の有効性や安全性を客観的に評価する研究の事を言います。

現在行われている治療法や診断法も、今までに多くの患者さんに協力していただいた臨床試験により作り上げられたものと言えるでしょう。

臨床試験には「研究者(医師)主導型臨床試験」と、「治験」があります。

「研究者主導型臨床試験」は、研究者が主体となり、すでに国内で承認された薬剤や治療法、診断法の中から最良の治療法や診断法を選び出すことや、薬のより効果的な組み合わせを探ることを目的としています。

一方、「治験」は、未承認薬を用いるものです。主に製薬会社が主体となり、薬を厚生労働省に認めてもらうための臨床試験です。

臨床試験は、これまでの治療法よりも、より良い治療法を提供することを目的とするものですから、臨床試験に参加すれば、その治療法をいち早く受けられることがメリットとなります。

もちろん臨床試験は参加している多くの病院から絶えず情報を集めながら、患者さんの健康を第一に慎重に行われます。しかしながら新しい治療法ですから、予想しただけの効果が得られなかったり、思いもよらない副作用が生じたりすると言うデメリットもあります。

臨床試験に参加するには、病気の種類だけではなく、進行度合い、持病の有無や過去の治療経過、身体の状態など、さまざまな参加基準を満たすことが必要になります。臨床試験に参加している病院では、この基準に当てはまる患者さんに臨床試験のご案内をする場合もあります。

臨床試験に参加している病院のホームページでも、その病院が参加している臨床試験の情報を公開しています。ご興味のある方は参考にしてみてはいかがでしょうか。

がん予防に繋がる生活習慣の改善

糖尿病とがんの背景には共通のリスク因子として、不適切な生活習慣が関与していることは、以前にも記載しました。だとすれば生活習慣を改善すれば、糖尿病にもがんにも効果があるはずです。つまり、糖尿病の予防や改善のために生活習慣の改善に取り組むことは、将来のがんリスクを減らすことになると考えられます。

ここで生活習慣とがんの関係について改めて確認しておきましょう。

1.身体活動の影響

運動を良くする人としない人を比べると、運動を良くする人はがんが1~2割減ることが分っています。そして、結腸がん、肝臓がん、すい臓がんといった、糖尿病の人で増えるようながんが半分近くに減ります。総死亡率も約3~4割減っています。運動する人はがんになりにくいし、長生きだと言う事がはっきりしています。

2.煙草の影響

たばこを吸っている人は、がん全体のリスクが1.6倍に増えます。そして食道がんや肺がんは煙草によって大きくリスクが増えるがんですし、脳卒中や虚血性心疾患のリスクも増えてきます。たばこは生活習慣の大きな問題です。

3.お酒の影響

お酒については一番リスクが少ないのは、全く飲まない人ではなく、時々飲む人だと言われています。しかし、大量飲酒者では、がん全体のリスクは煙草と同程度増加します。そして食道がんは特にお酒が関係したがんであり、脳卒中や総死亡のリスクも高めます。

4.体型の影響

肥満も糖尿病と同じ程度にがんのリスクになります。体型とがんのリスクを見ると、肥満の人はがんが増えてきますが、やせすぎの人もがんのリスクがあります。一番リスクが少なかったのが、BMIで23~25の範囲の方だと言われています。

以上のように、運動やたばこ、お酒や食事、肥満などの生活習慣はがんのリスクに直結しています。がんも生活習慣病だと言われる所以です。ですから、これらの生活習慣を改善するだけで、がんによる死亡を大きく減らすことが期待できるのです。

肺がんの分子標的薬

肺がんは表面の細胞膜から、さまざまな受容体が突き出ており、その受容体が受けた刺激により、がん細胞が増殖すると言われています。

そのような受容体のうち、肺がんの20~30%でEGFR(上皮成長因子受容体)をつかさどる遺伝子に変異があると言われています。そのEGFRに作用するように開発された分子標的薬の一つにイレッサがあります。(他の受容体を標的とする分子標的薬もあります。)イレッサは世界に先駆けて日本で承認された薬剤ですが、そのイレッサや少し後に承認されたタルセバという薬剤は第一世代と呼ばれています。それぞれ2002年と2004年に承認されおり、EGFR変異のある肺がん治療に使用されています。

そして今は第二世代、第三世代の研究が行われています。

では、新世代の薬剤は第一世代と何が違うのでしょうか。

第一世代では標的とするEGFRが特定されていますが、第二世代ではすべてのEGFRを対象として抑えると言われています。そしてEGFRに結合したら離れにくいと言う性質を持っています。そのために、第一世代よりも無増悪生存期間が長いと推測されています。

第二世代では日本ではジオトリフという薬剤が2014年5月に発売されています。

EGFR(上皮成長因子受容体)に変異を持つ患者さんのうちの約半分が、エクソン19という遺伝子の部位に欠損を持っていますが、そのエクソン19の欠損を持っている患者さんにジオトリフが良く効くことが臨床試験では明らかになっています。特に日本人の患者さんには高い効果が見られました。

さらに第二世代では変異のあるなしに関わらず、すべてのEGFRに作用していましたが、第三世代では変異のあるEGFRにだけ作用するようになっており、より効果的であると考えられています。第三世代はまだ承認薬はありませんが、いくつかの臨床試験では、副作用が今までよりも軽いのではないかと言う結果が出ているようです。また、用量を上げても副作用が出にくいために今後が有望視されています。

更に、新世代の薬剤には、イレッサなどに耐性を持ってしまったがん細胞への効果も期待されています。

この分野での開発は世界的にも積極的に取り組まれています。一日も早い新薬の承認が期待されるところです。