肺がんのレーザー照射治療(PDT)

肺がんのうち早期の肺門部のがんに対する治療法としてレーザー照射治療があります。

早期肺門部がんで行われるレーザー治療はPDTと言わます。Photodynamic Therapyの略であり、日本語では「光線力学的療法」と言われています。

一般的なレーザー治療は高出力のレーザーで病巣を焼切るというイメージがありますが、肺がんのPDTに使用するレーザーは非常に弱いものを使います。手をかざしても熱さを感じない程度で、レーザーメスの出力の200分の1程度の出力です。

そのような弱いレーザーでどのようにしてがんを治療するのでしょうか?

まずは腫瘍親和性光感受性物質を注射します。この物質はがんに選択的に集中する物質で、光を当てると活性化する性質を持っています。この物質ががんに集中した時にレーザー照射を行い、活性化させるのです。そしてこの物質は、活性化した状態から落ち着いた状態に戻るときに活性酸素を出します。その活性酸素ががんをやっつけるという仕組みなのです。

適用は早期の肺門部(太い気管支のあたり)がんで、大きさは1cm以内、がんの深さが3mm以内のものに有効とされています。

この手術法は開胸手術をするわけではなく、肺を切除するわけではないので、身体への負担は軽い治療法です。

但し、光感受性物質を注射しているため、手術後は日焼けしやすいので、2~3週間は直射日光を避けることになります。

PDTは1986年以降、早期の肺癌だけでなく、胃癌、食道癌、子宮頚癌に対し保険で治療がきるようになっています。

肺がんの症状

肺がんは早期のうちには症状の出にくいがんです。特に肺野型肺がんは早期のうちには、ほとんど症状が出ません。一方、肺の入り口部分の肺門部に出来る肺がんには症状があります。しかしながらその症状も肺がんに特徴的なものではありません。

肺門型肺がんは早期のうちから咳や痰がでやすく、血痰もしばしばみられます。ただし、咳や痰は肺がんに限らず、ほとんどの呼吸器の病気で最も頻繁にみられる症状で、がん特有の症状とは言えません。

ですので、咳や痰が2週間以上続く場合や、治療しても治らない場合はがんの可能性も考えて、呼吸器科の専門医に診てもらいましょう。特に肺門型肺がんの代表的ながんである扁平上皮がんは、喫煙との関係が濃厚だと言われています。煙草を吸っている人や、今は禁煙していても過去に長く煙草を吸っていた人は、症状の原因を専門医に調べてもらった方が良いと思います。

肺門型肺がんが進行すると、気管支の内壁が狭くなり、ゼーゼー、ヒューヒューと気管支ぜんそくのような症状が出てきます。さらに気管支の先への空気の出入りが悪くなるので、肺の中の空気の量が少なくなって肺がつぶれたような状態になることもあります。このような状態になると、空気の出入りが悪くなって、空気がよどんで浄化できなくなるので、ウィルスや細菌の感染が起こりやすくなります。このような結果起こった肺炎を閉塞性肺炎と言いますが、咳や痰はもちろん、発熱、胸痛なども伴うようになります。

また冒頭で記載したように、肺野型肺がんは早期のうちは症状がほとんどありません。周囲の組織に浸潤したり、転移したりして症状が出ることが多いので、早期発見のためには定期検診が必要と言う事になります。

更に肺がんは転移しやすので、転移先の臓器の症状によって、肺がんが発見されることもあります。しかしそのような状態で発見できたとしても、転移をしたがんは肺がんに限らず、治る確率が低くなってしまいます。

やはり、早期発見をするための定期的な検査と、異状を感じた時の速やかな受診行動が身を守る事に繋がります。

神奈川県立がんセンターが重粒子線治療を開始

12月1日付の日経新聞によりますと、神奈川県立がんセンターがかねてより建設をしていた、重粒子線の専用施設(アイロックと言うそうです)を12月中旬から稼働するそうです。

通常の放射線治療に使用されるX線は、体表部が一番線量が高く奥に進むほど線量が低くなるという性質がありました。その為にがん細胞だけでなく正常細胞にもダメージを与えてしまうと言う欠点があります。その欠点を補うためにがん細胞の形に添って360度から線量の強度を調整しながらX線を照射する強度変調放射線治療(IMRT)などの技術が開発され、大変有効に活用されています。

一方で重粒子線治療も放射線治療の一種ですが、X線を使用せずに光速の70~80%の速度に加速した炭素イオンをがん細胞に照射するという治療です。ちなみに陽子線治療は炭素イオンではなく、軽い水素イオンを使いますが、どちらの治療も粒子線が持つブラッグピークと言う特性を活かして、がん細胞だけをピンポイントで狙うことができると言われています。また、炭素線はパワーも高いためにがん細胞の殺傷能力もX線治療に比べて高いと言われています。もちろん放射線治療の一種ですので、手術痕なども残らず、低侵襲な治療です。

更に、アイロックでは高速三次元スキャニング照射法を用いた重粒子線治療を行います。この照射法は、細い重粒子線ビームで腫瘍を塗りつぶすように照射する新しい技術です。

この技術を用いることで、腫瘍の形状に合わせて腫瘍だけに高い線量を集中させることができます。また、腫瘍の周りにある正常組織の線量を今までの照射法よりさらに低く抑えることができると言われています。

期待が高まるアイロックですが、重粒子線治療共通のネックとして、費用の高さがあります。民間の生命保険などを上手に活用しての準備をされておいたらいかがでしょうか。

大腸がんの再発・転移率と検診の必要性

がんの原発巣(最初に出来たがん病変)を手術治療で切除して、しばらく経過してから再びがんが現れることを再発と言います。再発の中でも、がん細胞が元あった原発巣から離れた場所(ほかの臓器や組織)に飛び火し、その部位で増殖するのが転移です・

国立がん研究センターの予測では、2015年日本人の男女合計で最も罹患者数が多くなるとされる大腸がんですが、大腸がんの再発・転移が起こる割合はほかのがんと比べて高くはなく、大腸がん全体では再発率は約17%と言われています。しかし実際には最初に発見されたがんの進行度や発生部位(結腸がんか直腸がんか)によっても異なります。

大腸がんの再発は、その再発のうちの約80%が3年以内に起こり、95%が5年以内に見つけられています。5年経過後に再発する割合は非常に少ないと言えます。そして、再発も症状があらわれて発見されるケースよりも、定期的な検診によって発見されるケースが多くなっています。また、再発率は結腸がんよりも直腸がんの方が高いことにも注意が必要です。

以上のような事からも、治療後5年間は定期的な検診が必要とされているのです。

大腸がんのステージ別再発率と手術後の経過年数別累積再発出現率は以下の通りです。

ステージ 再発率(%) 手術後の経過年数別累積再発出現率(%)
3年以内 4年以内 5年以内
     Ⅰ 3.7 68.6 82.4 96.1
     Ⅱ 13.3 76.9 88.2 92.9
     Ⅲ 30.8 87 93.8 97.8
    全体 17.3 83.2 91.6 96.4
大腸がん研究会・プロジェクト研究1991-1996年症例より

肝細胞がんのリスク因子

肝細胞がんの原因としてよく知られているのは、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変です。つまり、この因子を持っている人は肝細胞がんの高危険群(発生のリスクが高い)と言えますので、定期的な検診が必要です。

また、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変ほどの高危険群とは言い切れませんが、次のような因子を持っている方は肝細胞がんになりやすいと言われています。

  • B型、C型肝炎ウィルスを持っている人
  • 両親がいずれかの肝炎である等の家族歴のある方
  • パートナーがいずれかの肝炎である方
  • C型肝炎ウィルスが発見された以前に輸血をしたことがある方
  • C型肝炎に脂肪肝を合併している方
  • 常習的に飲酒をしている方
  • 喫煙をしている方
  • メタボリックな因子を持っている方
  • 非アルコール性脂肪肝(NASH)の人
  • 肝機能悪い方

などです。このような因子を持っている方は定期的な肝臓のチェックをお勧めします。

なお、年齢や食生活、生活様式には特別な危険因子はないと言われています。

また、以前は母親がB型肝炎ウィルスを持っている場合、産道感染によりその子供がB型肝炎ウィルスに感染することがありましたが、現在では予防法が確立しており、母親から子供への感染はほとんどなくなりました。

腎臓がんの分子標的薬 パゾパニブ(ヴォトリエント)

根治手術不能または転移性腎細胞癌の治療、特にファーストライン治療から使用可能な新しい薬剤として、血管内皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(VEGFR-TKI)であるパゾパニブ(ヴォトリエント)が、日本では2014年3月から使用可能になりました。

パゾパニブ(ヴォトリエント)はもともと悪性軟部腫瘍の分子標的薬として認可されていましたが、今般適用が拡大されたものです。

腎臓がんのファーストラインの分子標的薬としてはスニチニブ(スーテント)がよく使用されてきましたが、パゾパニブ(ヴォトリエント)の治療効果は、スニチニブ(スーテント)に劣らないと言う結果が報告されています。

効果は同等でも、注目すべき点は、頻度が高く発生する注意すべき有害事象の種類が異なることです。

有害事象としては、簡潔に言うと、スニチニブ(スーテント)には血球減少や手足症候群が多く、パゾパニブ(ヴォトリエント)には肝機能障害が多いという特徴が認められるということだと思います。

効果が同等ではあまり意味がないとお感じになる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、効果は同等でも有害事象のプロファイルが異なる2剤が利用できるというのは、治療の選択肢が増えるという意味であり、非常に有用だと考えられるのです。

KM-CART療法(腹水濾過濃縮再静注法改良型):がん性腹水の治療

がんの終末期において、がん患者さんを悩ませるのが難治性の腹水。強い腹部膨満感や呼吸苦を生じ、患者さんのQOLを著しく低下させます。

しかしながら今のがん治療では腹水を抜けば体が弱るというのが常識です。というのも腹水にはがん細胞だけではなく、栄養分や免疫にかかわるたんぱく質も大量に漏出しているため、腹水を抜くということはこうした貴重な成分も捨てることになり、急激に体力が低下するだけでなく、さらに腹水がたまりやすくなるという悪循環を招くからです。

ですので、患者さんが腹水で苦しんでも治療しないことも多いようです。こうした医療の常識を覆したのが、KM-CART療法(腹水濾過濃縮再静注法改良型)です。この療法は腹水を抜いて濾過し、必要な成分を体内に戻すのです。

以前のCART法はがん治療に向かないと言われる欠点がありました。その欠点とは、がん性の腹水は成分が多いために、濾過する膜がすぐに詰まってしまい、濾過をするのに大変な手間と時間が掛かってしまうと言うことです。

そのために従来のCART法はがん性の腹水にはほとんど使われることがなくなってしまいました。その欠点を大きく改善したのが要町病院腹水治療センターの松崎圭祐センター長が考案した「KM-CART療法」です。従来のCART法と比較してはるかに短い時間で腹水を濾過できます。

患者さんの中には大量の腹水が抜けると見違えるほど元気になる方もいらっしゃいます。その上、2週間に1度施行できますので、「苦しくなったらまた腹水を抜けると思うと非常に気が楽になる」とおっしゃるかたもいらっしゃいます。実際の治療には多少の条件がありますが、がん性の腹水で悩まれている方がいらしたら検討されてはいかがでしょうか。

おおよそ2泊3日の入院でできますし、健康保険が適用されます。現在は要町病院だけでなく複数の医療機関で実施しています。

第二回 いのちのフォーラム が開催されました

以前にこちらでご案内していた「第二回 いのちのフォーラム」が11月15日に開催されました。

ビオセラクリニックの谷川院長の基調講演から始まり、がんサバイバーの方々のパネルディスカッション、更には保障の考え方や遺伝子治療や免疫療法と言う先端治療の説明と盛り沢山の内容でした。

3時間を超えるフォーラムでしたが、皆さん熱心に聞いていただき、ご参加の方からも大変に参考になったとのご意見を頂くことができました。ご参加いただいた皆様ありがとうございました。

今後も皆様のお役にたてる情報を発信する機会を設けたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

いのちのフォラム写真

がん遺伝子治療 その2 がん抑制遺伝子

本来、人間の身体には細胞が「がん化」しないようにしたり、がん化した細胞を死滅させる「がん抑制遺伝子」が備わっています。

がん抑制遺伝子としては、ゲノムの守護神とも呼ばれるp53をはじめとして、PTEN等多くのものが確認されています。

米国の有名な女優さんがBRCA1、BRCA2の異常があるので、健康な乳房を切除したと言うニュースの記憶がある方もいらっしゃると思いますが、BRCA1、BRCA2も特定のがんのがん抑制遺伝子の一つです。

一方で肺がんや大腸がんなどの多くのがん細胞ではp53などの普遍的な「がん抑制遺伝子」が変異しているか欠損した状態となっています。そのために、がん細胞は不死となり、更に無限に増殖をして、生命を脅かすのです。

ですから、そのような状態のがん細胞に何らかの方法でp53をはじめとする正常ながん抑制遺伝子を持ち込むことが出来れば、がんの無限増殖を止め、アポトーシスへと導くことが出来ると考えられるのです。これが基本的ながんの遺伝子治療の考え方です。

しかし、どんなに良い「がん抑制遺伝子」を塔載したとしても、がん細胞に届けることが出来なければ意味がありません。つまり大切な事は、いかにしてがん細胞まで「がん抑制遺伝子」を届けるか、と言う事になるのです。言い換えれば使用しているベクター(下記「がん遺伝子治療 その1」をご参照ください)によって治療成績は大きく左右されることになるのです。もし皆さんが遺伝子治療を選択する場合には「何を使って、そしてどんながん抑制遺伝子を運ぶのか」の吟味が重要になります。

卵巣がんの分子標的薬

日本においても年々罹患者が増加している卵巣がんですが、その標準治療は手術療法が基本となり、状況に応じて化学療法を加えます。

そして卵巣がんで使用できる薬剤は何種類もありますが、主流となっている化学療法はTC療法と言って、3週間ごとにパクリタキセル(タキソール)とカルボプラチン(パラプラチン)を投与していく方法です。最近までその中に分子標的薬は含まれておりませんでした。

しかし2013年11月にアバスチンが卵巣がんに対しても承認されました。アバスチンは、もともとは大腸がんの治療などで使われている分子標的薬です。アバスチンは卵巣がんでは、従来の抗がん薬にプラスして使用します。ですので化学療法への上乗せ効果が期待できます。

さらにアバスチンと抗がん薬による治療後に、維持療法として単独で使うと、再発するまでの期間を延長することが可能です。また、アバスチンは血管新生を抑える分子標的薬です。ですから、卵巣がんで問題となる腹膜播種(あるいは胸膜播種)に特に威力を発揮するのではないかと期待されています。

尚、アバスチンは、欧州では進行期の乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、腎がん、卵巣がん、米国では大腸がん、非小細胞肺がん、腎がん、再発膠芽腫の適応症で承認を受けています。また、アバスチンの卵巣がん(初回治療)に係る効能・効果は、EU28カ国を含む110の国または地域において承認されています(2013年8月7日現在)。

卵巣がんのIDS(腫瘍減量手術)

卵巣がんのサブタイプ