卵巣がんの標準治療

卵巣がんの場合、事前に細胞をとって検査することができないため、がんのタイプや進行度が確定するのは手術後になります。

そのため、卵巣がんの治療は手術療法が基本となります。両側の卵巣、卵管と子宮の摘出、大網(たいもう。胃から垂れ下がっている網状の組織)の切除、後腹膜リンパ節郭清を行います。転移が起こっている場合は腸管や脾臓を切除する場合もあります。

ただしもっとも初期のⅠa期で年齢が若く(40歳以下)、妊娠を希望している場合は、片側の卵巣と卵管、子宮を残すことも可能です。

Ⅰb期以降は、手術療法に加えて化学療法を行います。Ⅲ期以降のがんでは、抗がん剤が効くタイプのがんの場合、化学療法でがんを小さくしてから手術を行うこともあります。

卵巣がんは細かい組織型に分かれています。ですので、手術ができる場合は、手術後の検査で組織型を確定してから化学療法の計画が立てられることになります。

卵巣がんのIDS1(腫瘍減量手術)

卵巣がんの分子標的薬

がん治療と治療後の妊娠

TAGRISSO(タグリッソ)-オシメルチニブが認可されました

優先審査品目として審査されていた肺がんの第三世代分子標的薬AZD9291(TAGRISSO タグリッソ)オシメルチニブが2016年2月29日に国内で認可されました。

適応は「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん」です。

タグリッソはEGFR阻害薬による治療に耐性が生じた患者にみられる「EGFR T790M変異」という新たな遺伝子変異を標的にするものです。

イレッサやタルセバなどのEGFR-TKIが奏効しても、ほとんどの症例で薬剤に対する耐性ができ病状が進行してしまいますが、この耐性化した症例の過半数にT790M変異がみられると言われています。このT790M変異陽性の非小細胞肺がんに効果を発揮する薬剤として期待されているのが第3世代分子標的薬のタグリッソ(オシメルチニブ)です。

今まではT790M変異陽性肺がんに対する治療薬は市場になかったため、日本肺癌学会が15年7月に同剤の早期承認を厚労相に求めており、同年8月に申請し優先審査されていました。EGFR T790M変異陽性の非小細胞肺がん患者数は約1万9,700人~3万5,300人と推測されています。

使用法は1日1回経口投与で用います。またT790M変異の遺伝子変異があるかどうかを検出するため、厚労省は、同剤の承認とほぼ同時期にコンパニオン診断薬も承認する方針です。

悪性リンパ腫

成熟したリンパ球はリンパ節に移動します。悪性リンパ腫は、このリンパ節に到達したリンパ球が異常増殖する病気で、リンパ節のがんと考えられます。身体の表面のリンパ節や身体の奥のリンパ節がが腫れる事もあり、時には色々な内臓に入り込んだり、血液の中に流れ込んだりすることもあります。悪性リンパ腫の患者さんは白血病の患者さんの2倍以上と言われており、血液腫瘍の中では頻度の高い病気です。高齢者に多いですが若年層でも発症することもあり、現在は微増しています。

また悪性リンパ腫は大きく分けると、腫瘍を構成する組織型により、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類されます。さらに細かく病理学的に分類されますが、それは治療法を選択するための重要な手掛かりとなります。日本ではホジキンリンパ腫は約1割で、9割が非ホジキンリンパ腫です。(欧米では約3割がホジキンリンパ腫です。)

ホジキンリンパ腫は主に首やわきの下や胸の縦隔などにあるリンパ節から発生します。

一方、非ホジキンリンパ腫はリンパ節から発生する人が半分。残りは胃腸、肝臓、すい臓、乳腺、卵巣、どこにでもできます。 できた場所により症状もまちまちです。胃に出来れば胃潰瘍のような症状がでますが、それゆえに他の病気と間違われやすく、診断が遅れたり、適切な治療が施されない場合もあるので注意が必要です。

悪性リンパ腫は化学療法の効果が高いがんですが、根治になりにくいタイプや使用できる薬剤が限定されているタイプもあります。現在も新薬の開発がされていますので、一刻も早い登場が期待されます。

また、遺伝子治療で非常に大きな効果がある患者さんもいらっしゃいますので、それも選択肢の一つに入るのではないでしょうか。

胃がんの縮小手術

胃がんの手術では定型手術が標準治療となっています。胃に関連したリンパ節に転移した可能性のある場合はこの定型手術が行われます。

定型手術は胃の3分の2から5分の4程度の切除と切除範囲の領域のリンパ節すべてを、その周りの脂肪組織とともに切除します。日本ではがんが出来る場所との関係もあり、胃の出口の方の幽門側を切除する、幽門側切除が行われます。全摘も含め、幽門がなくなると、食物が一気に腸に流れるため、低血圧、発汗、めまい、低血糖状態が現れるなどの「ダンピング症候群」などが発生しやすくなります。

このような障害を軽減し、手術後のQOLを上げる目的で行われるのが縮小手術です。

縮小手術は定型手術と比較して胃の切除範囲を縮小するとともに、リンパ節を取り除く範囲も縮小した手術です。

胃の切除範囲の縮小にはいくつかの選択肢がありますが、その一つに幽門保存切除術があります。これは胃の出口である幽門を残すことによって、上記ダンピング症候群の発生や腸液が胃に逆流するのを防ぐことができます。また、胃以外の組織の切除縮小範囲としては、胃に付着している大網と言う脂肪組織の多い膜を残せます。これにより、腸の癒着の程度を減少させ、腸閉塞が起こる危険性を少なくできます。また、胃の周囲の神経を温存することにより、手術後に下痢が起こりにくくなり、また胆石が出来るのも防げます。

このような縮小手術の適応は、リンパ節転移の可能性はあっても低いこと、がんが粘膜内か粘膜下層にとどまっていることが条件となり、内視鏡治療適応外のがんに対して行われます。

子宮頸がんの標準治療

子宮頸がんの標準治療は、がんの進行期や組織型によって異なります。

0期~Ⅰa1期なら局所療法が可能です。膣から器具を入れて子宮頚部の一部を切除する「円錐切除術」と言う手術を行います。但し妊娠をしなくてもいい場合や円錐切除術での完治が難しい場合は、単純子宮全摘手術が適用される場合もあります。

Ⅰa2期では、子宮の周りの組織をやや広めに切除する準広範子宮全摘手術を行い、転移の可能性に備えて骨盤リンパ節の郭清を行うこともあります。

Ⅰb期~Ⅱ期では、広範子宮全摘手術で子宮と膣の一部、卵巣、卵管の摘出及び骨盤リンパ節の郭清も行います。放射線療法や化学療法が追加されることもあります。

Ⅲ期以降では、放射線療法が治療の中心となります。遠隔転移の可能性も考慮して同時に化学療法も行われます。

子宮頸がんは初期の段階では自覚症状がほとんどないか、あっても軽いものであり見過ごしてしまうことがほとんどです。しかしながら上記のような治療を考慮するならば、早期発見することはとても大切になります。そして早期発見のためには定期的に検診を受けることが大切なこととなります。

肺がんの外科手術-縮小手術

肺がんの標準治療は、大きく分けて3つの方法があります。

切除をする外科手術、抗がん剤を主とした化学療法、放射線照射を行う放射線療法です。

その中でも切除によって根治が可能の場合に選択されるのが外科手術です。標準治療ではがんのできた肺葉を丸ごと取る肺葉切除が行われます。その場合には、リンパ節転移している可能性を考慮してリンパ節も切除します。最近ではリンパ節切除は最小限で済ますという方法も考えられていますが、肺がんは進行が速くて転移しやすいため、安全を考えて広範囲のリンパ節を切除するのが原則です。

しかしながら、切除部分が大きいと、術後の肺機能の低下による呼吸障害が見られることがあります。

その為に肺を出来るだけ温存して、切除する部分を出来るだけ狭い範囲にする方法で行われるのが縮小手術です。

基本的には非小細胞がんで病気はⅠA期で、がん細胞が2cm以下と言う、ごく早期のがんを対象としています。しかしながら2cmを超えていても肺機能の悪い方や高齢者、あるいは持病がある方に行われることもあります。

縮小手術には区域切除とくさび状切除があります。

区域切除はがんの有る肺葉の狭い区域を切除する方法ですが、リンパ節転移がないことが最低条件です。

くさび状切除は病巣のみをくさび形に切除する方法ですが、胸部CTで見たときに、すりガラス状の陰影が75%以上あり、がんの病巣が肺の外側三分の一以内にある事が条件となります。

この手術は手術後の呼吸機能低下が少なくて済むという結果が出てますが、しかし縮小手術は局所再発する可能性があります。

その為に、これらの手術は標準治療とはなっておらず、病院によっては行ってない施設もあります。行っている施設でも、主治医とよく話し合って手術法を決める必要があります。

食道がんの原因-バレット食道

長引く食道の病気が食道がんの素地を作ってしまう場合があります。

その病気の一つがバレット食道です。

バレット食道は食道粘膜の細胞が異常になってしまった病気です。通常の食道粘膜の扁平上皮細胞は平たい四角形をしています。これが食道炎を繰り返すうちに、酸から身を守るために円柱形に変化していき、やがて粘膜に、大きさや形の異なる細胞が入り乱れた状態になってしまうのです。バレット食道は腹部食道(胃の近く)に起こることが多く、腺がんの原因になりやすいと言われています。

では、バレット食道の原因はなんでしょうか。良く聞く、逆流性食道炎もその一つです。胃から胃酸が食道に逆流し、食道炎をおこす病気です。この病気で食道炎を繰り返すことによって上記バレット食道を引き起こすのです。

逆流性食道炎は、胃の入り口にある噴門の筋肉が緩んでくることによって発生します。筋肉の緩みは多くは加齢が原因となります。また、胃や食道の手術後にも発生しやすいものです。胸焼けや咳、のどの違和感など、症状としては軽いので市販の胃腸薬でやり過ごしてしまう場合もありますが、逆流性食道炎が疑われる方は医師の診察と定期的な検診を受けられることをおすすめします。

禁煙の肺がんリスク低減効果およびその他のメリット

巷間言われますように、喫煙による発がんリスクは高く、その中でも特に肺がんのリスクは非常に高くなります。逆に言えば、禁煙する事により、肺がんになるリスクを低減させることは大いに期待出来得ると言うことです。

しかしながら、禁煙してから肺がんのリスク低下が現れるまでに5年掛かり、禁煙後20年経過した時点でようやく非喫煙者と同等になるというデータがあります。

それをもとに出てきた意見と言うのが、「若い人は禁煙すれば肺がんリスクは下がり筋炎の効果を手にすることができるが、高齢になったら禁煙の効果を手にする前に寿命が尽きてしまうので、高齢(70代以降)になってからの禁煙はあまり意味がない」と言う論調です。

しかし禁煙による健康効果はがんに対してばかりではないのです。

米国肺協会は以下のように報告しています。

禁煙開始から20分で血圧は正常になり、8時間で血中の酸素濃度が正常になる。24時間で心筋梗塞のリスクが下がり始め、48時間で味覚や嗅覚が回復する。2週間から3か月かけて循環機能が改善され歩行が楽になります。1~9か月で咳や疲労感、息切れが改善する。

どうですか?短期間に効果が出ることも沢山あります。やはり禁煙すればしただけの効果が期待できそうですね。

肺がんの発症を防ぐためにも、肺がんを悪化させないためにも、肺機能の低下によって根治手術が不能になる状態を防ぐためにも、老後の生活をより快適に過ごせるようにするためにも、そして大切な家族のためにも、禁煙は何歳になってから初めても決して遅くはないのです。

肝がんの原因-ウィルス性肝炎

原発性の肝がんの原因はその90%が肝炎ウィルスであり、残りの10%がアルコール性やNASH(非アルコール性脂肪肝炎)などと言われています。では、その肝炎ウィルスにはどのようなものがあるのでしょうか。

ウィルス性肝炎を引き起こす肝炎ウィルスには、A型、B型、C型、D型、E型、G型、TT型があります。それぞれひきこす肝炎の経過は異なっていて、ウィルスの症状も異なっています。また、肝炎ウィルス以外でも肝炎を引き起こすウィルスがあり、EBウィルス、サイトメガロウィルス、単純ヘルペスウィルスなどがそうです。

しかしながら、これらのうちで肝がんを引き起こすウィルスはB型肝炎ウィルスとC型肝炎ウィルスです。

B型肝炎ウィルスは母子感染、性行為感染、血液感染(輸血、血液製剤、入れ墨!など)で感染し、C型肝炎ウィルスは血液感染が主な感染経路です。

B型肝炎で問題となるのはB型慢性肝炎です。3歳より小さい時期に母子感染するとウィルスが肝臓に感染した状態(キャリア)となります。この方のうちの10%位が症状を引き起こしB型の慢性肝炎となります。この慢性肝炎が進行していくと肝硬変の状態となり、肝がんへと進行していきます。

C型肝炎の場合は急性肝炎から慢性肝炎に移行する割合は60~70%であり、さらにそこから肝硬変に進行するのは20%位です。そのC型肝硬変のうちの50%前後に肝がんが発症します。

日本ではC型肝炎ウィルスから肝がんになる方が多く、冒頭の90%の内訳は75%がC型、残り15%がB型と言われています。

一方で、肝炎ウィルスの治療はハーボニーなどの薬剤による抗ウィルス療法が近年目覚ましい発展を遂げています。以前に治療をしたけど効果がなかった方も、諦めずに再度病院の門を叩いてみてはいかがでしょうか。

肝がんの原因ーアルコール性肝障害

アルコール性肝障害とは、アルコールを多量に飲むことが原因で、肝臓に障害が起こることをいいます。

しかしながら、多量に飲酒しても、一時的に飲酒するだけではアルコール性肝障害にはなりません。長い期間にわたって多量かつ継続的に飲酒することによりアルコール性肝障害は発症します。では多量で長い期間とはどれくらいを言うのでしょうか。

アルコールの量を言うときには日本酒換算を良く使います。日本酒換算で1日に3合かつ飲酒歴5年以上の人を常習飲酒家といい、1日5合以上かつ飲酒歴10年以上の方を大酒家といいます。このあたりが基準になってきそうです。

アルコールを多飲するとやがて脂肪肝になり、次にアルコール性肝炎へと進行していきます。そこから更に飲酒を続ければアルコール性肝硬変へと進行していきます。

脂肪肝やアルコール性肝炎の状態であれば、禁酒をすることで治ることが多いのですが、アルコール性肝硬変まで進行してしまうと、腹水や黄疸と言った症状が出てきて命にかかわる状態となってしまいます。

症状は脂肪肝の状態ではほとんどありませんが、アルコール性肝炎では食欲不振、吐き気、体のだるさなどが出てくることがあります。さらに進行した肝硬変になると、肝臓は小さくなり、形も凸凹になり、前述のような状態になる場合もあります。そしてこの肝硬変の状態から肝がんが出てくることがあり、注意を要します。

割合だけから言えば肝がんの原因のうちアルコールが原因となるものは少ないとはいえ、アルコール性肝硬変からの肝がんの場合は、肝機能が悪化しすぎていて治療ができないことも多々あります。ストレス発散等にアルコールもたまにならいいですが、多量かつ持続的な飲酒は慎むべきでしょう。