肺がんの新ALK阻害薬 – アレセンサ(アレクチニブ)

肺がんは組織型の違いで小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分類されます。非小細胞肺がんが85%ほどで、更に非小細胞肺がんは扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんに分けられます。その中でも腺がんは肺がん全体の約60%を占めますが、その腺がんの治療において大変に重要になるのが遺伝子異常の見極めです。

腺がんの20~30%でEGFR遺伝子に異常があり、5%ほどにALK(未分化リンパ腫キナーゼ)の変異が見られます。ALKで染色体の転座が起きるとALK融合遺伝子と呼ばれ、がん細胞を増殖させる元となります。ALKの遺伝子変異は、タバコを吸わない若い人の肺がんに多くみられます。

そのALK融合遺伝子を阻害することでがんの増殖を止め、腫瘍を小さくする分子標的薬としてザーコリが2012年に承認されました。奏効率も6~7割と非常に高く、無増悪生存期間(PFS)もそれまでの倍になりました。

そして2014年7月にはALKの阻害薬としては第二世代とも言われるアレセンサ(アレクチニブ)が承認されました。PFS率も非常に良好なデータが得られており、脳転移に対する効果も長く続くことが明らかになっています。更に、副作用も非常に軽いと言われています。

更に、米国の臨床試験(AF-002JG)では第一世代のザーコリ(クリゾチニブ)に抵抗性の出た47例の患者さんに対しても奏効率54.5%、寛解が1例と高い有効性が認められました。

ALK融合遺伝子陽性の頻度は非小細胞肺がんの2~5%ですが、それに対する特効薬になる可能性があるアレセンサが発売されたことは非常に喜ばしいことではないでしょうか。

大腸がんと大腸ポリープ

皆さんの中にも何らかの健康診断を受けて「大腸にポリープがある」と言われてびっくりした方がいらっしゃるのではないでしょうか。

実際に人間ドックで大腸内視鏡検査を受けた25万人以上の集計(平均48歳)では18%の方、つまり5人に1人近くの方から大腸腺腫(一般的なポリープ)が見つかったと報告されています。

しかし、ここで注意を頂きたいのは「ポリープ=がん」では無いということです。

ポリープにはいくつかの種類があるのです。大腸の場合、大腸の粘膜から内側の管腔に飛び出したイボのようなものは、その形から全てポリープと呼ばれますが、そのポリープは大きく分けると、腫瘍とそれ以外のポリープに分けられます。

まず腫瘍以外のポリープには炎症性のポリープや過形成によるポリープがあります。これは炎症性の病気が治るときに出来たり、一種の老化現象ともいえるもので、がんとは無関係と言われています。

次に腫瘍ですが、これには良性と悪性があります。この悪性の腫瘍が「がん」です。がんと言ってもポリープ状の形をしているのは多くの場合早期のがんです。進行してしまうとイボのような突起ではなくなるので、ポリープとは言われなくなります。

良性のポリープの場合は「腺腫」と呼ばれ、大腸ポリープの80%は腺腫です。一般にポリープと言う場合はこの腺腫を指す場合が多いのですが、この腺腫はがんになる一歩手前の状態と言われています。

ただし、腺腫が全てがんになるわけではありません。腺腫の一部だけが「がん」になるのですが、がん化する一番のポイントは大きさです。腺腫の大きさが1cm以下ですとがん化率は5.6%ですが、1~2cmで28.7%、2cm以上だと65.6%となります。1cmを境に急に高くなります。しかし、ほとんどの腺腫は2~3mmの大きさにとどまっています。

このようにポリープと言っても種類があります。もしポリープがあると言われても、無用な心配をしないためにも自分のポリープがどの種類なのかを担当医に確認をしましょう。

塩分と(胃)がんの深い関係

塩分の過剰摂取は高血圧を通じて脳卒中の大きな原因と考えられていますが、他にも胃がんと深い関わりがあり、さらにはがん全般の発症とも関わっているといわれています。

ではなぜ塩分の過剰摂取で、胃がんのリスクが増加するのでしょうか。

塩分は過剰にとると刺激によって胃壁が荒れやすくなります。まず、このこと自体ががんの発生を促すと考えられます。さらに荒れた胃壁にはピロリ菌が棲みつきやすく、活動や繁殖も活発になるそうです。そしてそのピロリ菌によって、さらに胃の粘膜が荒れるという悪循環が発生します。そこでは胃壁の荒れと修復が繰り返されます。一方で身体の組織はどこであれ、荒れて修復を繰り返すほど、がん化のリスクは高まっていきます。つまり、塩分とピロリ菌がタッグを組めば胃がんのリスクが高まるのは当然なのです。

さらに荒れた粘膜からは塩分そのものが細胞に浸透しやすくなり、それにより細胞のミネラルバランスが崩れることによっても、がん全般のリスクは高まると考えられています。

もともと我々の身体にはミネラルが溶け込み一定のバランスを保っています。そのことにより正常な代謝が行われるようになっているのです。その中でも特に重要なのが、ナトリウムとカリウムのバランスだといわれています。しかし塩分(ナトリウム)の過剰摂取が続くとこのバランスの乱れを招きやすくなります。このバランスが乱れると細胞の代謝の異常につながりやすく、ひいてはがんの発症の促進につながると考えられています。

このようなことから、塩分の取りすぎは脳卒中だけではなく、がんの大きな要因にもなっていると考えられるのです。ですので、がんの食事療法で有名な「ゲルソン療法」や「甲田療法」、そのほかの多くの「がんの食事療法」では塩分の制限を行うのです。塩分は人間の身体に必要なものではありますが、何事もほどほどが肝要なようですね。

切らない乳がん治療 MRガイド下集束超音波療法

乳がんの治療において、出来れば乳房に傷をつけたくないと言う女性は多いと思います。大きながんでなければこのような要望を実現する試みが行われています。そのうちの一つがMRガイド下集束超音波療法です。

虫眼鏡の要領で超音波のエネルギーを一点に集中させ、熱でがん細胞を殺す治療法です。MRIと言う画像診断装置を使ってがんを狙うのでMRガイド下と言われます。

治療時にはMRIを見ながら行なうため、MR画像で焼灼範囲の計画を立てた通りに治療することが可能であり、治療データの保存が容易で温度のモニターもでき、焼け残りの有無もわかるので、世界的に研究が進んでいます。

適応は、大きさ2cm以下、広い乳管内進展がない、リンパ節転移がない、腫瘍が皮膚・肋骨から9㎜以上離れている、などです。

すでに子宮筋腫の治療で使われている治療法でもあり、治療方法としては全くの目新しい治療法ではありませんが、日本では臨床試験や自由診療として行われています。

肺がんのレーザー照射治療(PDT)

肺がんのうち早期の肺門部のがんに対する治療法としてレーザー照射治療があります。

早期肺門部がんで行われるレーザー治療はPDTと言わます。Photodynamic Therapyの略であり、日本語では「光線力学的療法」と言われています。

一般的なレーザー治療は高出力のレーザーで病巣を焼切るというイメージがありますが、肺がんのPDTに使用するレーザーは非常に弱いものを使います。手をかざしても熱さを感じない程度で、レーザーメスの出力の200分の1程度の出力です。

そのような弱いレーザーでどのようにしてがんを治療するのでしょうか?

まずは腫瘍親和性光感受性物質を注射します。この物質はがんに選択的に集中する物質で、光を当てると活性化する性質を持っています。この物質ががんに集中した時にレーザー照射を行い、活性化させるのです。そしてこの物質は、活性化した状態から落ち着いた状態に戻るときに活性酸素を出します。その活性酸素ががんをやっつけるという仕組みなのです。

適用は早期の肺門部(太い気管支のあたり)がんで、大きさは1cm以内、がんの深さが3mm以内のものに有効とされています。

この手術法は開胸手術をするわけではなく、肺を切除するわけではないので、身体への負担は軽い治療法です。

但し、光感受性物質を注射しているため、手術後は日焼けしやすいので、2~3週間は直射日光を避けることになります。

PDTは1986年以降、早期の肺癌だけでなく、胃癌、食道癌、子宮頚癌に対し保険で治療がきるようになっています。

肺がんの症状

肺がんは早期のうちには症状の出にくいがんです。特に肺野型肺がんは早期のうちには、ほとんど症状が出ません。一方、肺の入り口部分の肺門部に出来る肺がんには症状があります。しかしながらその症状も肺がんに特徴的なものではありません。

肺門型肺がんは早期のうちから咳や痰がでやすく、血痰もしばしばみられます。ただし、咳や痰は肺がんに限らず、ほとんどの呼吸器の病気で最も頻繁にみられる症状で、がん特有の症状とは言えません。

ですので、咳や痰が2週間以上続く場合や、治療しても治らない場合はがんの可能性も考えて、呼吸器科の専門医に診てもらいましょう。特に肺門型肺がんの代表的ながんである扁平上皮がんは、喫煙との関係が濃厚だと言われています。煙草を吸っている人や、今は禁煙していても過去に長く煙草を吸っていた人は、症状の原因を専門医に調べてもらった方が良いと思います。

肺門型肺がんが進行すると、気管支の内壁が狭くなり、ゼーゼー、ヒューヒューと気管支ぜんそくのような症状が出てきます。さらに気管支の先への空気の出入りが悪くなるので、肺の中の空気の量が少なくなって肺がつぶれたような状態になることもあります。このような状態になると、空気の出入りが悪くなって、空気がよどんで浄化できなくなるので、ウィルスや細菌の感染が起こりやすくなります。このような結果起こった肺炎を閉塞性肺炎と言いますが、咳や痰はもちろん、発熱、胸痛なども伴うようになります。

また冒頭で記載したように、肺野型肺がんは早期のうちは症状がほとんどありません。周囲の組織に浸潤したり、転移したりして症状が出ることが多いので、早期発見のためには定期検診が必要と言う事になります。

更に肺がんは転移しやすので、転移先の臓器の症状によって、肺がんが発見されることもあります。しかしそのような状態で発見できたとしても、転移をしたがんは肺がんに限らず、治る確率が低くなってしまいます。

やはり、早期発見をするための定期的な検査と、異状を感じた時の速やかな受診行動が身を守る事に繋がります。

神奈川県立がんセンターが重粒子線治療を開始

12月1日付の日経新聞によりますと、神奈川県立がんセンターがかねてより建設をしていた、重粒子線の専用施設(アイロックと言うそうです)を12月中旬から稼働するそうです。

通常の放射線治療に使用されるX線は、体表部が一番線量が高く奥に進むほど線量が低くなるという性質がありました。その為にがん細胞だけでなく正常細胞にもダメージを与えてしまうと言う欠点があります。その欠点を補うためにがん細胞の形に添って360度から線量の強度を調整しながらX線を照射する強度変調放射線治療(IMRT)などの技術が開発され、大変有効に活用されています。

一方で重粒子線治療も放射線治療の一種ですが、X線を使用せずに光速の70~80%の速度に加速した炭素イオンをがん細胞に照射するという治療です。ちなみに陽子線治療は炭素イオンではなく、軽い水素イオンを使いますが、どちらの治療も粒子線が持つブラッグピークと言う特性を活かして、がん細胞だけをピンポイントで狙うことができると言われています。また、炭素線はパワーも高いためにがん細胞の殺傷能力もX線治療に比べて高いと言われています。もちろん放射線治療の一種ですので、手術痕なども残らず、低侵襲な治療です。

更に、アイロックでは高速三次元スキャニング照射法を用いた重粒子線治療を行います。この照射法は、細い重粒子線ビームで腫瘍を塗りつぶすように照射する新しい技術です。

この技術を用いることで、腫瘍の形状に合わせて腫瘍だけに高い線量を集中させることができます。また、腫瘍の周りにある正常組織の線量を今までの照射法よりさらに低く抑えることができると言われています。

期待が高まるアイロックですが、重粒子線治療共通のネックとして、費用の高さがあります。民間の生命保険などを上手に活用しての準備をされておいたらいかがでしょうか。

大腸がんの再発・転移率と検診の必要性

がんの原発巣(最初に出来たがん病変)を手術治療で切除して、しばらく経過してから再びがんが現れることを再発と言います。再発の中でも、がん細胞が元あった原発巣から離れた場所(ほかの臓器や組織)に飛び火し、その部位で増殖するのが転移です・

国立がん研究センターの予測では、2015年日本人の男女合計で最も罹患者数が多くなるとされる大腸がんですが、大腸がんの再発・転移が起こる割合はほかのがんと比べて高くはなく、大腸がん全体では再発率は約17%と言われています。しかし実際には最初に発見されたがんの進行度や発生部位(結腸がんか直腸がんか)によっても異なります。

大腸がんの再発は、その再発のうちの約80%が3年以内に起こり、95%が5年以内に見つけられています。5年経過後に再発する割合は非常に少ないと言えます。そして、再発も症状があらわれて発見されるケースよりも、定期的な検診によって発見されるケースが多くなっています。また、再発率は結腸がんよりも直腸がんの方が高いことにも注意が必要です。

以上のような事からも、治療後5年間は定期的な検診が必要とされているのです。

大腸がんのステージ別再発率と手術後の経過年数別累積再発出現率は以下の通りです。

ステージ 再発率(%) 手術後の経過年数別累積再発出現率(%)
3年以内 4年以内 5年以内
     Ⅰ 3.7 68.6 82.4 96.1
     Ⅱ 13.3 76.9 88.2 92.9
     Ⅲ 30.8 87 93.8 97.8
    全体 17.3 83.2 91.6 96.4
大腸がん研究会・プロジェクト研究1991-1996年症例より

肝細胞がんのリスク因子

肝細胞がんの原因としてよく知られているのは、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変です。つまり、この因子を持っている人は肝細胞がんの高危険群(発生のリスクが高い)と言えますので、定期的な検診が必要です。

また、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変ほどの高危険群とは言い切れませんが、次のような因子を持っている方は肝細胞がんになりやすいと言われています。

  • B型、C型肝炎ウィルスを持っている人
  • 両親がいずれかの肝炎である等の家族歴のある方
  • パートナーがいずれかの肝炎である方
  • C型肝炎ウィルスが発見された以前に輸血をしたことがある方
  • C型肝炎に脂肪肝を合併している方
  • 常習的に飲酒をしている方
  • 喫煙をしている方
  • メタボリックな因子を持っている方
  • 非アルコール性脂肪肝(NASH)の人
  • 肝機能悪い方

などです。このような因子を持っている方は定期的な肝臓のチェックをお勧めします。

なお、年齢や食生活、生活様式には特別な危険因子はないと言われています。

また、以前は母親がB型肝炎ウィルスを持っている場合、産道感染によりその子供がB型肝炎ウィルスに感染することがありましたが、現在では予防法が確立しており、母親から子供への感染はほとんどなくなりました。

腎臓がんの分子標的薬 パゾパニブ(ヴォトリエント)

根治手術不能または転移性腎細胞癌の治療、特にファーストライン治療から使用可能な新しい薬剤として、血管内皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(VEGFR-TKI)であるパゾパニブ(ヴォトリエント)が、日本では2014年3月から使用可能になりました。

パゾパニブ(ヴォトリエント)はもともと悪性軟部腫瘍の分子標的薬として認可されていましたが、今般適用が拡大されたものです。

腎臓がんのファーストラインの分子標的薬としてはスニチニブ(スーテント)がよく使用されてきましたが、パゾパニブ(ヴォトリエント)の治療効果は、スニチニブ(スーテント)に劣らないと言う結果が報告されています。

効果は同等でも、注目すべき点は、頻度が高く発生する注意すべき有害事象の種類が異なることです。

有害事象としては、簡潔に言うと、スニチニブ(スーテント)には血球減少や手足症候群が多く、パゾパニブ(ヴォトリエント)には肝機能障害が多いという特徴が認められるということだと思います。

効果が同等ではあまり意味がないとお感じになる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、効果は同等でも有害事象のプロファイルが異なる2剤が利用できるというのは、治療の選択肢が増えるという意味であり、非常に有用だと考えられるのです。