多発性骨髄腫の抗体薬(分子標的薬) ダルザレクス(一般名ダラツムマブ)

米国食品医薬品局(FDA)は、少なくとも3回の治療歴がある多発性骨髄腫患者の治療薬としてdaratumumab[ダラツムマブ](商品名Darzalex ダルザレクス)を迅速承認しました。

ダルザレクスは注射剤で、多発性骨髄腫治療を目的に承認された最初のモノクローナル抗体となりました。

ダルザレクスは、免疫システムに存在する特定の細胞のがん細胞攻撃を補助することで作用します。

ダルザレクスの安全性と有効性は2つの非盲検試験で検証されました。106人の参加者にダルザレクスを投与した1つ目の試験では、患者の29%で完全寛解あるいは部分寛解を実現し、この効果は平均7.4カ月持続した。二つ目の試験は42人の参加者にダルザレクスを投与し、患者の36%で完全寛解あるいは部分寛解を実現した。

ダルザレクスで最もよくみられた副作用は、インフュージョンリアクション(薬剤投与中または投与開始後24時間以内に現れる過敏症などの症状の総称)、疲労、嘔気、腰背部痛、発熱、咳です。ダルザレクスは、また、感染と戦う白血球数の低下(リンパ球減少症、好中球減少症、および白血球減少症)または、赤血球数の低下(貧血症)および血小板レベルの低下(血小板減少症)を引き起こす可能性もあります。

ダルザレクスは、日本でも増加傾向が見られる多発性骨髄腫の治療薬ですが、この承認はFDAの迅速承認プログラムに基づく承認であり、残念ながら日本ではまだ承認されておりません。

多発性骨髄腫の特徴と症状

多発性骨髄腫は、男性に多く発生する高齢者の病気で、発症の平均年齢は70歳代で、主に50歳代以降に多く発症します。日本での発症頻度は人口10万人に対して3~4人程度ですが、高齢化社会の到来と共に患者数の増加傾向がはっきりしてきています。

多発性骨髄腫は骨髄中のリンパ球が分化した細胞「形質細胞」が腫瘍化した病気です。形質細胞とは抗体(細菌などの抗原に結合し中和などをする)を作る細胞で、細菌や異物を攻撃する役割を担ってますが、多発性骨髄腫になると正常な抗体ではなく、異常な抗体が産出されます。

この異常な抗体には身体を守る機能はほとんどありません。多発性骨髄腫は、骨病変(こつびょうへん)を伴いやすいため、腰痛や骨折などの骨の症状で発見されることがしばしばあります。

また、治療面においては新薬でも十分な治療効果を得られない患者さんや再発を繰り返す患者さんが多いことも特徴ですが、しかしながら新薬の登場によって完全寛解にいたる患者さんも増えています。

症状は次のようなものがあります。

1.貧血

2.骨痛、骨折、高カルシュウム血症

3.腎不全   など

脳腫瘍

脳腫瘍とは、頭の中に異常細胞が増殖する病気です。脳組織自体から発生する原発性脳腫瘍と、他の臓器のがんが脳へ転移した転移性脳腫瘍の2種類があります。原発性脳腫瘍には、良性と悪性があり、たとえ良性の腫瘍であっても、頭蓋骨の内側という限られたスペース内に発生する脳腫瘍は、大きくなると正常な脳を圧迫して傷害を起こすため、治療の対象となります。 一方、転移性脳腫瘍は悪性となります。

脳腫瘍の発生率は、人口10万人に対して約12人と言われており、全体として悪性のものも多く、良性か悪性かによって完治の可能性が異なります。

脳腫瘍の種類

1.神経膠腫  28%  悪性(一部良性) グリア細胞から出来る

2.髄膜腫   26%  良性(一部悪性) 脳を包む膜に出来る

3.下垂体腺腫 17%  良性       脳下垂体に出来る

4.神経鞘腫  11%  良性       脳から出る神経に出来る

5.先天性腫瘍 5%  比較的良性

6.その他   13%

脳腫瘍の検査は、CT,MRIが中心です。PET検査では見つかりにくいがんの一つです。

胃がん手術後の感染症の注意

胃がんの手術によって体力が低下すると、普段から身の回りにいる菌などによって感染症を起こしてしまうことがあります。さらに、手術後に抗がん剤治療を受けている場合にも注意が必要です。

感染症としては、肺炎や虫歯、感染性腸炎などがあります。

肺炎では、食べ物が気道に入って起こる誤嚥性肺炎があります。これは高齢の方によく見られます。

虫歯や歯周病も口の中の細菌が引き起こす感染症です。放置していると菌がほかの部位に移って感染が広がり、重症化することがあるので、注意が必要です。

感染性腸炎は、殺菌作用のある胃酸の分泌が減ることで、食べ物と一緒に腸内に入った細菌などが感染を引き起こすことがあります。

このほかにもいろいろな部位で感染をおこしやすくなります。

感染症が疑われる症状としては次のようなものがあります。

1.38℃以上の発熱

2.せき、寒気、震え

3.歯肉痛、むし歯、口内炎

4.腹痛を伴う下痢

です。

感染症は、一旦かかると治りにくく、悪化しやすい傾向がありますので、注意が必要です。

せっかく手術が出来たのですから、上記のような症状がある場合にはただちに受診しましょう。

肺がん検査の有効性の検証

1970年代の後半に、がんの臨床で有名なアメリカにあるメイヨークリニックを中心に、肺がん検査の効果を実証する実験がおこなわれました。45歳以上の男性喫煙者4500人を、胸部X線検査と喀痰細部検査をする群としない群に分け、その後の肺がんの死亡率を比較したのです。結果は死亡率に差が見られませんでした。そのことから、胸部X線検査や喀痰細胞検査では肺がんの死亡率低下には繋がらないとする説が広く蔓延し、メイヨークリニックでは肺がん検診を中止しました。

一方日本では、肺がん診断時より前の検診率を比較したところ、1年以内に検診を受けた場合は、28%の肺がん死亡率減少効果が認められたという報告があり、健診が無駄とも、非常に有効とも言えない状況でした。

しかし、その後腺がんが増えるなど肺がんの種類も変化し、また精度の高いCTによる検査方法が開発されて、小さながんも見つけられるようになりました。その結果検診の効果が認められるようになり、先述のメイヨークリニックも肺がんの検診を再開しています。

肺がんは特徴的な自覚症状がない病気で、症状が現れた時には進行している可能性が高い病気です。ですから早期発見、早期治療が重要になります。そのためにも胸部CT検査などの検査を受けることをお勧めします。

腎臓がんの凍結療法

この治療法は4cm以下の腎臓がんに対して2011年の7月から健康保険適用になりました。高齢者や、他の疾患のために手術が困難な場合、手術を受けることを拒否する場合に行われます。

手術には、冷凍手術器と接続している長さ20cm、直径1.5mmほどの特殊な針が使われます。この針はマイナス185度まで冷却されます。

手術は局所麻酔で行われます。MRIで病巣を確認して、体表からがんに向かって針を刺していきます。そこで針を一気に冷やしてがんを凍らせて死滅させるのです。10分冷凍してから2分休憩し、また10分冷凍するという2回冷凍が行われます。治療は短期間で終了し、通常は1泊2日で退院できます。

1本の針で周囲2cmの範囲を凍らせられ、2本使えば3cm凍らせられます。針は最高で5本まで使えます。冷凍する範囲はがんの辺縁から5mm以上広くする必要がありますので、3cmのがんなら4cm冷凍する必要があります。但し、針のさせないような場所や血が止まりにくい場合この治療は出来ません。

凍結療法は、放射線や化学療法とは全く異なるメカニズムでがん細胞を壊死させるため、放射線や化学療法が効きにくいがんに対しても効果が期待できます。また、低侵襲(体の負担が少ない)ことも特徴のひとつです。放射線治療との違いとして、凍結部位に再発を来たした場合に繰り返し治療が行えるというメリットもあります。

腎臓がんのほかには、前立腺がんや肝がん、乳がん、肺がん、子宮頸がん等の治療として治験が行われています。

腎細胞がんの新たな分子標的薬カボザンチニブ

血管内皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(VEGFR-TKI スーテントやヴォトリエント等)の投与経験がある進行転移性腎細胞がんに対して、腫瘍の成長・転移をもたらせる腫瘍血管の成長と主要なシグナル経路を遮断する作用を有するCabozantinib(カボザンチニブ)は、エベロリムス(アフィニトール)よりも無増悪生存期間(PFS)を約2倍に延長することが非盲検第3相臨床試験であるMETEOR試験で明らかとなりました。

METEOR試験では、分子標的薬であるカボザンチニブ(コメトリク)が、前治療歴のある進行転移性腎臓がん患者に対する標準的な二次治療と考えられてきたエベロリムス(アフィニトール)と比較されました。この試験では、増悪または死亡のリスクが42%減少し、カボザンチニブは無増悪生存期間の中央値を3.8ヵ月から7.4ヵ月とほぼ倍増させました。

主な副作用は、下痢、疲労感、吐き気、食欲減退、手足症候群などですが、サポーティブケアや用量調整で対処可能な範囲内であったようで、重篤な有害事象の発生率に両群で差は無かった模様です。

カボザンチニブは2012年に甲状腺がんの特異的タイプに対する治療薬として米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けていますが、残念なことに日本では未承認です。

肺がんの遺伝子治療について

遺伝子治療はいわゆる代替医療です。すなわち、科学的根拠を証明していない治療です。しかしながら証明出来ていないことと、効果の有無は別だと思っています。新しい治療法は最初はどれも科学的根拠が証明されていないのです。更に科学的根拠を証明するのには時間が必要なのです。でも証明を待っていられない患者さんがいらっしゃるのも一方の現実です。

以下の症例はある医療機関で行われた肺がんの患者さんの遺伝子治療の写真です。

66歳男性 遠隔転移無しと言う見立ての患者さんです。

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もちろん、皆さんに同じ結果が出るわけではありません。

でもこのような効果が出る方がいらっしゃるのも現実です。更に言えばこの治療は標準治療を邪魔する治療でもありませんし、副作用も少なく患者さんにとっては低侵襲な治療とのことです。

一見良い事ばかりのようですが、残念ながらこの治療は自由診療です。費用は全額自己負担ですし、治療できる施設も多くありません。更に遺伝子治療と謳ってても実施施設により治療内容も異なります。だからこそどこで治療をするのかの選択が非常に重要になるのです。

遺伝子治療に寄らず、ご質問・ご相談があればお気軽にどうぞ。

膀胱がんの膀胱温存手術

筋層浸潤膀胱がんの標準治療は膀胱全摘除+尿路変更ですが、この手術は患者さんへの負担が大きく、また、膀胱機能がなくなることによる、術後の患者さんのQOLの低下が問題となります。

これらを解決するべく開発されたのが膀胱温存療法です。

通常この方法では経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)+化学療法+放射線療法で行なわれ、患者さんのQOLが維持される上に、膀胱全摘除と同じ程度の生命予後が報告されています。

適用となるのは、

  1. 筋層浸潤膀胱がん
  2. 浸潤がんの範囲が広範でないこと(がんの範囲が膀胱の1/4以下)
  3. 転移が無いこと

となります。

TUR-BTでがんを減量した後、低用量化学放射線療法を行ないます。そして仕上げの治療として、身体に優しい手術で膀胱部分切除と骨盤リンパ節郭清を行ないます。この仕上げの手術はCo2ガスを使用せず、下腹部に3~4cmの穴を一つ開けるだけで、最新の3D内視鏡と多機能ヘッドマウントディスプレイ(ロボサージャンシステム)を用いて行なわれます。日本発の技術であり、高い安全性と低侵襲性が特徴であり、保険適用となっています。

乳がんの分子標的薬アフィニトール(エベロリムス)

乳がんの治療はサブタイプ別に選択されます。サブタイプとしては分かれますが、その中で7割強を占めるのが、ホルモン受容体陽性のタイプです。

ホルモン受容体陽性の乳がんでは、女性ホルモンであるエストロゲンが、増殖因子受容体を通じてがん細胞の核にあるエストロゲン受容体に結合すると、がん細胞を増殖させるシグナルが出てしまいます。その結合をブロックするのがホルモン療法薬です。ですから、ホルモン受容体陽性の患者さんにはホルモン療法が行われます。

しかしながら治療の過程でホルモン療法薬への耐性(薬が効かなくなる)が出来てしまう事があるのが課題でした。

薬剤耐性が出来てしまう仕組みは、次のとおりです。ホルモン療法薬ががん細胞の核にあるエストロゲン受容体にエストロゲンが結合しないようにブロックすると、がん細胞は細胞の表面にあるわずかな増殖因子受容体(膜型エストロゲン受容体)の経由など、本来の増殖因子受容体を通さない迂回路を通じて増殖シグナルを受け取るようになるのです。

このような耐性を克服しようと登場したのが、分子標的薬のアフィニトール(エベロリムス)です。アフィニトールは、腎がんなどを対象に承認されていましたが、2014年に日本で「手術不能または再発乳がん」に対して承認されました。アフィニトールは、先ほどの迂回路の途中にあるmTOR(エムトール)という細胞内のタンパクに作用し、ここでがん増殖のシグナルをブロックすると言うものです。つまり増殖シグナルの迂回をさせない働きをします。

治験ではホルモン療法薬であるアロマシンとの併用で、アロマシン単独と比較して、無増悪生存期間(PFS)が大きく伸びました。

ただし、アロマシン単独と比較すると併用群では副作用も高い頻度で発生しました。代表的な副作用としては口内炎と間質性肺炎が上げられます。口内炎は2週間くらいで発生率が上昇し、その後落ち着くそうですが、間質性肺炎は1年くらいの間、発症頻度が増え続けるそうなので特に注意が必要です。