前立腺がんの治療には多くの選択肢がありますが、その中の一つに前立腺全摘術があります。
前立腺全摘術はもともと開腹で行われていましたが、その後、腹腔鏡手術も行われるようになりました。腹腔鏡は切開部位が小さく、患者さんの身体的負担が軽いのがメリットですが、逆に術者からは立体的な視野と自由に動く指を奪いました。
腹腔鏡手術で失ったこの二つの要素を回復させたたのが、ダヴィンチ手術です。手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った手術では患者さんから離れた位置で機械を操作しますが、このとき覗き込む画像は拡大3D画像です。
さらに人間の指以上に器用に動く多関節鉗子が使われています。つまり「ダヴィンチ」は立体的な視野と自由に動く指を術者に取り戻したのです。2012年4月からダヴィンチによる前立腺全摘術が健康保険適用になってからは急速に普及しています。
一方でダヴィンチによる手術は高価な使い捨ての器具が多く、機械自体も維持費も高いので、コストが高くなってしまいます。
そのようなダヴィンチと異なるアプローチで患者さんに優しい手術を目指したのが「ミニマム創内視鏡下手術」です。
この手術では、切開する部位はダヴィンチの4~6個に対して、1円玉2個程度の大きさの切開を一か所だけで済みます。ですので、手術を受けた患者さんの回復が早いと言われています。また、二酸化炭素ガスで腹腔を膨らませないのもミニマム創内視鏡下手術の利点だと言えます。これにより、呼吸器系や循環器系へのリスクを低減できます。さらにミニマム創内視鏡下手術ではそのほかの全摘術と異なり、後腹膜腔から直接入っていくので腹腔を開けません。ですので、この手術では腸の癒着を起こす危険性がほとんどなくなります。
さらにこの手術は進化を続け、術者がヘッドマウントディスプレーなどを使用する、「最先端型ミニマム創内視鏡下手術」となっています。これにより内視鏡の拡大3D画像だけでなく、経直腸超音波画像やMRI画像を並べて映し出すこともできるので、血管の位置などを正確に把握しながら手術が行えるのだと言います。
また、多数のヘッドマウントディスプレーに同じ画像を映し出せるので、多数の術者が同じ情報を共有しながら手術を進めることができます。
また、手術器具の進歩も著しく、例えば、血管を切断した時に糸で結ばなくても止血できるような機器が開発されています。このような技術の開発により、小さな切開部位からより安全に手術が行えるようになりました、ですから、この手術に使う器具はダヴィンチほどの動きをすることは出来ませんが、必要な操作はほぼ十分に行えるようになっているのです。