結婚とがん治療-米国の研究結果から見る早期発見の重要性

米国立癌研究所(NCI)のSEERプログラムデータベースによる大規模な研究によると、がんの診断時に結婚していた患者さんは、結婚していなかった患者さんよりも長生きするという結果がでました。

分析によると既婚患者は、早い段階で診断を受け、適切な治療を受ける傾向が強いことも分かったそうです。この研究は2004年から08年の間にがんの診断を受けた73万人を対象に行なわれました。

その分析の結果によると、結婚していた患者は結婚していなかった患者に比較して、最初にがんと診断されたときに転移している可能性が17%低かったそうです。

また、結婚していた非転移性がん患者は結婚していなかった患者より53%も多く、更に最適な治療を受ける傾向にあったことや、既婚の患者のほうが20%長く生存することも分かったそうです。

これは患者が結婚していた場合、配偶者が患者の精神的苦痛を分かち合ったり、通院への付き添いや治療に関する手助けをする場合が多いことが影響しているのではないかと言っています。

一方、日本と米国では医療制度は大きく違います。ですから、日本でも米国の結果と同じ結果になるかどうかはわかりません。しかしこの話のキーポイントは、最初の診断時に既婚者のほうが転移の可能性が低いこと、つまり早期発見しているということにあるのではないでしょうか?そしてその後も配偶者の後押しもあり、適切な治療を受けていると言う事も重要です。

日本人男性は体調に変調があっても検診を中々受けたがらないそうです。ですからパートナーやお子さんに尻を叩かれて、渋々検診を受けると言うことも多いようです。そのような現実から考えると、日本でも米国と同様な結果となるのかもしれません。しかしここで大切なことは、結婚しているかどうかではなく早期発見できるかどうかと言う事です。結婚していても結婚していなくても、早期発見のための検診が大切と言う事です。

がんは何故できるのでしょうか?

がんは何故発生するのでしょうか?

それは以前にも書きましたが、DNAの損傷の積み重ねが原因です。

ではDNAの損傷はなぜ起こるのでしょうか?それは色々な要因で生じます。例えば放射線や化学物質、ウィルス、細胞分裂時のコピーミスなどです。

しかしながらDNAの損傷が蓄積されても必ずしもがんになるわけではありません。もしDNAが損傷を受けて細胞としての機能を果たせなくなった場合、ほとんどの場合その細胞はアポトーシス(細胞の自死)するか、老化して増殖を停止したり、免疫によって排除されます。つまり、異常な細胞がはびこらないようにするブレーキの機能が人間の身体には備わっているのです。

ところがその機能が働かない性質を持ってしまった細胞が、がんとなるのです。

がん細胞はブレーキの機能が働かないので無限に増殖をし、さらにその増殖スピードは速く、免疫機能をくぐり抜けます。更にやっかいな事は、がん細胞は分化度が低いので、転移をすることができます。転移先でもがん細胞の元の性質は受け継がれるので、無限に増殖をするのです。転移前に手術で取りきることが出来ればがんは治るのですが、目に見えないような微小な転移はその時点ではわかりません。その転移したがんが検査で解るような大きさになった時に「再発」となります。(「だから早期発見は意味がない」と言った論調には私は同意をしません)今は手術前の微小な転移の有無はわからないのですから、早期発見・早期治療に越したことは無いと思います。

または遺伝子治療のようにがんの根本を変えていくような治療を実施することが必要なのではないでしょうか。

追加全脳照射のリスクとベネフィット

がんが脳転移した場合、手術で脳転移病変を除去できるケースは限定されてきます。

脳転移病変が小さく、数も少ないケースでは脳腫瘍部位に放射線を照射する定位放射線治療を行いますが、その後、術後療法・救援療法・終末期治療などとして、全脳照射(WBRT)を実施することもあります。

しかし、ASCO2015(2015年米国臨床腫瘍学会学術集会)で報告された、米国立衛生研究所(NIH)が助成した第Ⅲ相試験では、1~3個の小さい脳転移病変(最大径3㎝以下)があるケースでは、定位放射線治療後に全脳照射を追加した場合、病変の増大は制御されるものの、全生存期間(OS)は有意に延長しないことが示されました。また、認知機能低下などのリスクは高く、リスクがベネフィットを上回ると報告されています。

本試験は日本人で実施されたものではないので、そのまま我々に当てはまるかは不明です。しかしながら、本件に限らず、リスクとベネフィット(便益)を意識しながら治療を選択すると言うことも大切ではないでしょうか。