肝がんの原因-ウィルス性肝炎

原発性の肝がんの原因はその90%が肝炎ウィルスであり、残りの10%がアルコール性やNASH(非アルコール性脂肪肝炎)などと言われています。では、その肝炎ウィルスにはどのようなものがあるのでしょうか。

ウィルス性肝炎を引き起こす肝炎ウィルスには、A型、B型、C型、D型、E型、G型、TT型があります。それぞれひきこす肝炎の経過は異なっていて、ウィルスの症状も異なっています。また、肝炎ウィルス以外でも肝炎を引き起こすウィルスがあり、EBウィルス、サイトメガロウィルス、単純ヘルペスウィルスなどがそうです。

しかしながら、これらのうちで肝がんを引き起こすウィルスはB型肝炎ウィルスとC型肝炎ウィルスです。

B型肝炎ウィルスは母子感染、性行為感染、血液感染(輸血、血液製剤、入れ墨!など)で感染し、C型肝炎ウィルスは血液感染が主な感染経路です。

B型肝炎で問題となるのはB型慢性肝炎です。3歳より小さい時期に母子感染するとウィルスが肝臓に感染した状態(キャリア)となります。この方のうちの10%位が症状を引き起こしB型の慢性肝炎となります。この慢性肝炎が進行していくと肝硬変の状態となり、肝がんへと進行していきます。

C型肝炎の場合は急性肝炎から慢性肝炎に移行する割合は60~70%であり、さらにそこから肝硬変に進行するのは20%位です。そのC型肝硬変のうちの50%前後に肝がんが発症します。

日本ではC型肝炎ウィルスから肝がんになる方が多く、冒頭の90%の内訳は75%がC型、残り15%がB型と言われています。

一方で、肝炎ウィルスの治療はハーボニーなどの薬剤による抗ウィルス療法が近年目覚ましい発展を遂げています。以前に治療をしたけど効果がなかった方も、諦めずに再度病院の門を叩いてみてはいかがでしょうか。

肝がんの原因ーアルコール性肝障害

アルコール性肝障害とは、アルコールを多量に飲むことが原因で、肝臓に障害が起こることをいいます。

しかしながら、多量に飲酒しても、一時的に飲酒するだけではアルコール性肝障害にはなりません。長い期間にわたって多量かつ継続的に飲酒することによりアルコール性肝障害は発症します。では多量で長い期間とはどれくらいを言うのでしょうか。

アルコールの量を言うときには日本酒換算を良く使います。日本酒換算で1日に3合かつ飲酒歴5年以上の人を常習飲酒家といい、1日5合以上かつ飲酒歴10年以上の方を大酒家といいます。このあたりが基準になってきそうです。

アルコールを多飲するとやがて脂肪肝になり、次にアルコール性肝炎へと進行していきます。そこから更に飲酒を続ければアルコール性肝硬変へと進行していきます。

脂肪肝やアルコール性肝炎の状態であれば、禁酒をすることで治ることが多いのですが、アルコール性肝硬変まで進行してしまうと、腹水や黄疸と言った症状が出てきて命にかかわる状態となってしまいます。

症状は脂肪肝の状態ではほとんどありませんが、アルコール性肝炎では食欲不振、吐き気、体のだるさなどが出てくることがあります。さらに進行した肝硬変になると、肝臓は小さくなり、形も凸凹になり、前述のような状態になる場合もあります。そしてこの肝硬変の状態から肝がんが出てくることがあり、注意を要します。

割合だけから言えば肝がんの原因のうちアルコールが原因となるものは少ないとはいえ、アルコール性肝硬変からの肝がんの場合は、肝機能が悪化しすぎていて治療ができないことも多々あります。ストレス発散等にアルコールもたまにならいいですが、多量かつ持続的な飲酒は慎むべきでしょう。

肝がんの原因NASH(非アルコール性脂肪肝炎)

日本人の生活習慣の変化に伴い、脂肪肝の方が増えてきていると言われています。いまや国民の3割にも達すると言われています。

脂肪肝とは肝臓の細胞に中性脂肪がたまった状態の事を言います。脂肪肝の原因は肥満や飲酒が主な原因ですが、その中でも特にお酒を飲まない人の脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と言います。1日あたりのアルコール摂取量が20g以下であることが非アルコール性の条件と定められています。更にNAFLD(ナッフルディー)は単純性脂肪肝と進行性の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)とに分けられます。NASHは脂肪性肝炎から肝硬変に移行し、場合によっては肝臓がんの発生に繋がるため、NAFLDの重症型と考えることができます。

NASHの原因はまだ解明されていませんが、二段階発症説というものがあります。第一段階は肥満、糖尿病、高脂血症などにより脂肪肝となり、第二段階で、酸化ストレスやサイトカインなどにより炎症が起きるというものです。いわゆるメタボリック症候群と何らかの関係がありそうです。ですので、NASHの改善に、減量が最も大切だと考えられています。食生活の改善を図り、ウォーキング等の適度な運動を心がけて下さい。

NASHになっているかどうかは、CT(コンピューター断層撮影)やエコー検査で脂肪肝の有無を調べます。そして血液検査では、肝臓の組織が壊れると値が高くなるAST、ALT、γ-GTP、線維化の程度を示す線維化マーカーと血小板数のほか、肝臓の鉄貯蔵量を示す「フェリチン」、空腹時の血中インスリンなどを調べます。ただし、確定診断には肝臓の組織検査(肝生検)を行います。

肝がんの原因はウィルスによるものが90%を占め、残り10%がアルコールやNASHによるものと言われています。つまり、NASHによる肝がんは、肝がんの発症原因の中では頻度は高くはないと言いつつも、脂肪肝には十分な注意が必要だと言えます。

肝細胞がんのリスク因子

肝細胞がんの原因としてよく知られているのは、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変です。つまり、この因子を持っている人は肝細胞がんの高危険群(発生のリスクが高い)と言えますので、定期的な検診が必要です。

また、B型肝炎ウィルスやC型肝炎ウィルスからの肝硬変ほどの高危険群とは言い切れませんが、次のような因子を持っている方は肝細胞がんになりやすいと言われています。

  • B型、C型肝炎ウィルスを持っている人
  • 両親がいずれかの肝炎である等の家族歴のある方
  • パートナーがいずれかの肝炎である方
  • C型肝炎ウィルスが発見された以前に輸血をしたことがある方
  • C型肝炎に脂肪肝を合併している方
  • 常習的に飲酒をしている方
  • 喫煙をしている方
  • メタボリックな因子を持っている方
  • 非アルコール性脂肪肝(NASH)の人
  • 肝機能悪い方

などです。このような因子を持っている方は定期的な肝臓のチェックをお勧めします。

なお、年齢や食生活、生活様式には特別な危険因子はないと言われています。

また、以前は母親がB型肝炎ウィルスを持っている場合、産道感染によりその子供がB型肝炎ウィルスに感染することがありましたが、現在では予防法が確立しており、母親から子供への感染はほとんどなくなりました。

がんと糖尿病の関係 その1

以前は、糖尿病になるとがんにならないという都市伝説?がありました。

しかしながら実際は、糖尿病患者さんはがんになりやすく、がん患者さんは糖尿病を起こしやすいと言われています。

2013年の5月に日本癌学会と日本糖尿病学会の合同委員会では「糖尿病とがんのリスクに関する報告」が発表されました。この報告によれば糖尿病がある人は無い人に比べて、全がんで1.2倍の発症リスクがあると言われています。

何故ならば、糖尿病とがん発生の間には、肥満、運動不足、喫煙、飲酒などの共通の原因もありますが、インスリン抵抗性や高血糖など、糖尿病の病態ががんを増やすリスクになると言われているからです。特に増加しやすいのは肝がんで糖尿病のない人の1.97倍のリスクであり、膵がん、大腸がん、子宮体がんと乳がんもリスク増加すると言われています。

また、もともと糖尿病があった患者さんに、がんが出来た場合の特徴的な症状として、血糖コントロールが悪化する事が多いと言えます。ですから、特に食べ過ぎてもないし運動量も以前と同じなのに血糖値が上がるなど、特別な理由もないのに血糖コントロールが悪くなる場合、その原因としてがんが隠れていることがあるので、十分な注意が必要です。

肝がんの原因NASH(非アルコール性脂肪肝炎)

がんと糖尿病の関係 その2

日本の肝臓がんの特徴

肝臓は体の右上腹部にあり、肋骨に守られるように囲まれている臓器です。人の臓器としては一番大きなもので、体重の1/50ほどの重さがあると言われています。また、肝臓は自己再生能力が高く、健康な肝臓なら75~80%を切り取っても約4ヶ月で元の大きさと機能を回復すると言われています。(ちなみにですが胃は再生できません。)

但し、肝機能が悪くなっている場合は再生が難しくなりますので、切除ができない事が多くあります。

日本の肝臓がんの多くが、慢性肝炎→肝硬変から発祥しています。肝炎ウィルスに感染すると、10~30年かけて、慢性肝炎→肝硬変→肝臓がんへと進行していきます。これが日本の肝臓がんの特徴ですので、慢性肝炎、肝硬変と診断された人は、きちんと治療を受けて肝臓がんを防ぐことが大事です。治療後は、肝機能の回復を図りながら、定期的に検診を受けることが重要となります。

逆に言えば、肝硬変が無いのにも関わらず肝臓がんだと診断された場合は、がんの原発が他にある事を疑って、しっかりと全身の検査をすることが肝要だと言えます。

がんと糖尿病の関係その1