肺がんの外科手術-縮小手術

肺がんの標準治療は、大きく分けて3つの方法があります。

切除をする外科手術、抗がん剤を主とした化学療法、放射線照射を行う放射線療法です。

その中でも切除によって根治が可能の場合に選択されるのが外科手術です。標準治療ではがんのできた肺葉を丸ごと取る肺葉切除が行われます。その場合には、リンパ節転移している可能性を考慮してリンパ節も切除します。最近ではリンパ節切除は最小限で済ますという方法も考えられていますが、肺がんは進行が速くて転移しやすいため、安全を考えて広範囲のリンパ節を切除するのが原則です。

しかしながら、切除部分が大きいと、術後の肺機能の低下による呼吸障害が見られることがあります。

その為に肺を出来るだけ温存して、切除する部分を出来るだけ狭い範囲にする方法で行われるのが縮小手術です。

基本的には非小細胞がんで病気はⅠA期で、がん細胞が2cm以下と言う、ごく早期のがんを対象としています。しかしながら2cmを超えていても肺機能の悪い方や高齢者、あるいは持病がある方に行われることもあります。

縮小手術には区域切除とくさび状切除があります。

区域切除はがんの有る肺葉の狭い区域を切除する方法ですが、リンパ節転移がないことが最低条件です。

くさび状切除は病巣のみをくさび形に切除する方法ですが、胸部CTで見たときに、すりガラス状の陰影が75%以上あり、がんの病巣が肺の外側三分の一以内にある事が条件となります。

この手術は手術後の呼吸機能低下が少なくて済むという結果が出てますが、しかし縮小手術は局所再発する可能性があります。

その為に、これらの手術は標準治療とはなっておらず、病院によっては行ってない施設もあります。行っている施設でも、主治医とよく話し合って手術法を決める必要があります。

肺がんの第三世代分子標的薬AZD9291(TAGRISSO タグリッソ)

非小細胞肺がんのうち、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子に変異があるタイプのがんはEGFR-TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬)と呼ばれる薬剤を用いて治療が行われます。EGFR-TKIについては第一世代のイレッサやタルセバ、第二世代のジオトリフが日本では承認されています。ところが、これらの薬剤を使用して数か月から1年で「薬剤耐性」が生じて薬剤が効かなくなります。

耐性が起こるメカニズムでよく起こるのは次の2つです。

1つは、薬は結合するものの、EGFR以外の経路から増殖シグナルを伝えるようになってしまうタイプです。MET遺伝子とよばれるものが過剰に増殖し、がんの増殖シグナルを出す場合などです。

そして最も多く、EGFRの耐性を獲得した症例の50%以上に見られるのが、EGFRの遺伝子の特定の場所に遺伝子変異が起こり(主にT790M変異陽性)、薬剤が結合しなくなるタイプです。

このEGFR-TKIによる治療後に病勢が進行したT790M変異陽性の非小細胞肺がんに効果を発揮する薬剤として期待されているのが第3世代薬のAZD9291(TAGRISSO タグリッソ オシメルチニブ)です。米国では2015年11月にFDA承認をされており、国内でも優先審査品目に指定されていて、今年の3月には承認される見込みとなっています。

ただし副作用としては5~6%の患者さんに間質性肺炎が生じたようですので、注意が必要です。

この薬剤の登場により、EGFR-TKIを使用していて耐性が起きた後には、耐性の原因を特定するための再生検の重要性はますます高まっています。

FDA(米国食品医薬品局)がオプジーボ(ニボルマブ)を腎がんに承認

FDA(米国食品医薬品局)は、血管新生阻害薬による治療歴のある進行腎細胞がんの治療薬として、オプジーボ(ニボルマブ)を承認しました。

オプジーボの安全性と有効性は、血管新生阻害薬による治療中あるいはその後に病勢が進行した進行腎細胞がん患者821人を対象としたランダム化非盲険試験で実証されたました。

オプジーボ群とアフィニトール群に割り付けられ、投与開始後の平均生存期間はアフィニトール群が19.6か月に対して、オプジーボ群は25か月と延長したそうです。

日本での腎細胞がんの承認申請も済んでいるようなので、あとは承認が待たれるところです。

ただし、オプジーボ(ニボルマブ)を投与しての副作用も報告されています。中には重症の筋無力症や筋炎を発症する方もいらっしゃるようですので、使用する際には副作用もしっかりと確認・理解する必要がありそうです。

乳がんの遺伝子治療について

遺伝子治療はいわゆる標準治療ではありません。しかしながら標準治療となっていないことと、効果の有無は別だと思っています。新しい治療法は最初はどれも科学的根拠が証明されていないのです。更に科学的根拠を証明するのには時間が必要です。しかしながら証明を待っていられない患者さんがいらっしゃるのも一方の現実ではないでしょうか。

以下の写真は40歳女性の方です。左乳がんの診断にて乳房温存術施行、2年経過後に再発しました。PET-CT検査の結果、左乳房内局所再発、左鎖骨上、腋窩リンパ節転移及び多発性骨転移が認められました。その後遺伝子治療を局所注射で6回施行したケースです。

頸部リンパ節転移部分

図1改2 図2改

PET検査の画像

図3改 図4改

見てお分かりのように画像に写っているがんは消失しました。もちろん時間がまだ経過していないので、この後どのような経過となるかはわかりませんし、皆さんに全く同じ結果が出るとも限りません。

しかしこのような効果が出る方が普通にいらっしゃるのも現実です。またこの治療は標準治療を邪魔する治療でもありませんし、逆に標準治療と併用することで、より大きな効果を示すともいわれています。

末期がんと言われ、標準治療でやれることが無いと言われても治療は可能です。更に副作用も少なく患者さんにとっては低侵襲な治療です。

一見良い事ばかりのようですが、残念ながらこの治療は自由診療です。費用は全額自己負担ですし、治療できる施設も限定的です。また名称は遺伝子治療と謳っていても、薬剤を含め内容は医療機関により異なります。だからこそ、どの医療機関で治療を受けるかと言う選択が非常に重要になります。

いつか科学的根拠が証明されて一般的な治療になると良いですね。

遺伝子治療に寄らず、ご質問・ご相談があればお気軽にどうぞ。

前立腺がんの臨床試験‐寡分割照射法(放射線療法)

前立腺がんの治療選択の一つに放射線療法があります。放射線療法には外照射と内照射があります。

内照射では、放射性物質を小さなカプセルに密封し、それを前立腺の中に埋め、身体の中から放射線を当てる小線源療法が行われます。

一方、外照射は身体の外から放射線を当てる方法です。前立腺がん診療ガイドラインでは根治的放射線治療では総線量70グレイ以上が必要で、1回あたりが1.8グレイから2グレイの照射が標準と記載されてます。その為に患者さんは相当回数の通院が必要となります。

寡分割照射法は1回の照射量を増やす照射法の事で、照射回数を減らすことが出来ます。生物実験や組織内照射の結果から、前立腺に放射線を照射する場合には高線量を少数回かけたほうが良く効くかもしれないと数年前から指摘されるようになってきたからです。

しかし1回あたりの線量を増やすので、少し間違えば正常組織を傷つけてしまい、副作用が強く出てしまいます。そこで用いられるのがIMRT(強度変調放射線治療)とIGRT(画像誘導放射線治療)です。両者を併用することにより、非常に精度の高い照射が可能となります。

日本ではIMRTとIGRTの併用寡分割照射の第Ⅱ相臨床試験が行われています。1回あたりの照射線量は2.5グレイで、総線量70グレイを28回で照射します。現在は登録が終了し、経過観察中です。

欧州では従来法と比較して同等の成績とする報告が出始めていますが、日本ではまだデータの報告はされていません。この治療法が可能になると従来法では8週間掛かっていた放射線治療が6週間でできると言うメリットと1回の線量を上げることで治療効果が高まるかもしれないと言う事があります。

ただし、承認されたとしても、機材の問題と技術的な問題で、限られた施設での治療となるかもしれません。

進行・再発の非小細胞肺がんに対して「オプジーボ」(ニボルマブ)が承認されました

最近何かと話題になっている、免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ(ニボルマブ)ですが、この12月に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の治療に関して承認がされました。

ご存知の通り、オプジーボ(ニボルマブ)は根治切除不能な悪性黒色腫に関して承認をされていましたが、今般上記が追加となりました。

ただ、「国内での治験症例が極めて限られているため、製造販売後、一定数の症例に関わるデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。」とありますので、日本人に対する効果や副作用などの集積はこれからとなるようですね。実際に少しずつですが副作用の報告もされ始めているようです。中には重症の筋無力症や筋炎のような重篤な副作用の報告もあるようですので、注意は必要です。しかしながら、非常に期待の高い薬剤が承認されたことは喜ばしい事ではないでしょうか。

一方でオプジーボは薬価が非常に高いのでも有名です。「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に使用する場合は悪性黒色腫に使用する場合よりも用量・使用頻度共に多くなります。用量は1.5倍となり点滴の頻度も悪性黒色腫が3週間間隔に対して、肺がんの場合は2週間間隔となります。

その為に1回あたりの薬価が体重60kgの方で130万円以上ともなり、年間で約3,460万にもなります。もちろん、自己負担は高額療養費制度を申請することにより随分と抑えられますが、それでも高額である事は間違いがありません。

健康保険でのがん治療はそんなにお金がかからないと言う方もいらっしゃいますが、そうとも言えなくなっているのが現実ではないでしょうか。

あきらめずにがんと向き合うためにも、これからはしっかりとした準備が必要となりそうです。

切らない乳がん治療 MRガイド下集束超音波療法

乳がんの治療において、出来れば乳房に傷をつけたくないと言う女性は多いと思います。大きながんでなければこのような要望を実現する試みが行われています。そのうちの一つがMRガイド下集束超音波療法です。

虫眼鏡の要領で超音波のエネルギーを一点に集中させ、熱でがん細胞を殺す治療法です。MRIと言う画像診断装置を使ってがんを狙うのでMRガイド下と言われます。

治療時にはMRIを見ながら行なうため、MR画像で焼灼範囲の計画を立てた通りに治療することが可能であり、治療データの保存が容易で温度のモニターもでき、焼け残りの有無もわかるので、世界的に研究が進んでいます。

適応は、大きさ2cm以下、広い乳管内進展がない、リンパ節転移がない、腫瘍が皮膚・肋骨から9㎜以上離れている、などです。

すでに子宮筋腫の治療で使われている治療法でもあり、治療方法としては全くの目新しい治療法ではありませんが、日本では臨床試験や自由診療として行われています。

肺がんのレーザー照射治療(PDT)

肺がんのうち早期の肺門部のがんに対する治療法としてレーザー照射治療があります。

早期肺門部がんで行われるレーザー治療はPDTと言わます。Photodynamic Therapyの略であり、日本語では「光線力学的療法」と言われています。

一般的なレーザー治療は高出力のレーザーで病巣を焼切るというイメージがありますが、肺がんのPDTに使用するレーザーは非常に弱いものを使います。手をかざしても熱さを感じない程度で、レーザーメスの出力の200分の1程度の出力です。

そのような弱いレーザーでどのようにしてがんを治療するのでしょうか?

まずは腫瘍親和性光感受性物質を注射します。この物質はがんに選択的に集中する物質で、光を当てると活性化する性質を持っています。この物質ががんに集中した時にレーザー照射を行い、活性化させるのです。そしてこの物質は、活性化した状態から落ち着いた状態に戻るときに活性酸素を出します。その活性酸素ががんをやっつけるという仕組みなのです。

適用は早期の肺門部(太い気管支のあたり)がんで、大きさは1cm以内、がんの深さが3mm以内のものに有効とされています。

この手術法は開胸手術をするわけではなく、肺を切除するわけではないので、身体への負担は軽い治療法です。

但し、光感受性物質を注射しているため、手術後は日焼けしやすいので、2~3週間は直射日光を避けることになります。

PDTは1986年以降、早期の肺癌だけでなく、胃癌、食道癌、子宮頚癌に対し保険で治療がきるようになっています。

腎臓がんの分子標的薬 パゾパニブ(ヴォトリエント)

根治手術不能または転移性腎細胞癌の治療、特にファーストライン治療から使用可能な新しい薬剤として、血管内皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(VEGFR-TKI)であるパゾパニブ(ヴォトリエント)が、日本では2014年3月から使用可能になりました。

パゾパニブ(ヴォトリエント)はもともと悪性軟部腫瘍の分子標的薬として認可されていましたが、今般適用が拡大されたものです。

腎臓がんのファーストラインの分子標的薬としてはスニチニブ(スーテント)がよく使用されてきましたが、パゾパニブ(ヴォトリエント)の治療効果は、スニチニブ(スーテント)に劣らないと言う結果が報告されています。

効果は同等でも、注目すべき点は、頻度が高く発生する注意すべき有害事象の種類が異なることです。

有害事象としては、簡潔に言うと、スニチニブ(スーテント)には血球減少や手足症候群が多く、パゾパニブ(ヴォトリエント)には肝機能障害が多いという特徴が認められるということだと思います。

効果が同等ではあまり意味がないとお感じになる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、効果は同等でも有害事象のプロファイルが異なる2剤が利用できるというのは、治療の選択肢が増えるという意味であり、非常に有用だと考えられるのです。

KM-CART療法(腹水濾過濃縮再静注法改良型):がん性腹水の治療

がんの終末期において、がん患者さんを悩ませるのが難治性の腹水。強い腹部膨満感や呼吸苦を生じ、患者さんのQOLを著しく低下させます。

しかしながら今のがん治療では腹水を抜けば体が弱るというのが常識です。というのも腹水にはがん細胞だけではなく、栄養分や免疫にかかわるたんぱく質も大量に漏出しているため、腹水を抜くということはこうした貴重な成分も捨てることになり、急激に体力が低下するだけでなく、さらに腹水がたまりやすくなるという悪循環を招くからです。

ですので、患者さんが腹水で苦しんでも治療しないことも多いようです。こうした医療の常識を覆したのが、KM-CART療法(腹水濾過濃縮再静注法改良型)です。この療法は腹水を抜いて濾過し、必要な成分を体内に戻すのです。

以前のCART法はがん治療に向かないと言われる欠点がありました。その欠点とは、がん性の腹水は成分が多いために、濾過する膜がすぐに詰まってしまい、濾過をするのに大変な手間と時間が掛かってしまうと言うことです。

そのために従来のCART法はがん性の腹水にはほとんど使われることがなくなってしまいました。その欠点を大きく改善したのが要町病院腹水治療センターの松崎圭祐センター長が考案した「KM-CART療法」です。従来のCART法と比較してはるかに短い時間で腹水を濾過できます。

患者さんの中には大量の腹水が抜けると見違えるほど元気になる方もいらっしゃいます。その上、2週間に1度施行できますので、「苦しくなったらまた腹水を抜けると思うと非常に気が楽になる」とおっしゃるかたもいらっしゃいます。実際の治療には多少の条件がありますが、がん性の腹水で悩まれている方がいらしたら検討されてはいかがでしょうか。

おおよそ2泊3日の入院でできますし、健康保険が適用されます。現在は要町病院だけでなく複数の医療機関で実施しています。