抗がん剤(薬)は効くのか?

なんかこのようなタイトルだと、「抗がん剤は効かない」と言っているようですが、そうではありません。

化学療法を受けるかどうかを考えるときに理解しておいたほうが良いことをお伝えしたいと思います。

抗がん剤が効く、効かないを語るときにきちんと理解しておかなくてはいけないのは、効くとはどのような状態を言うのかという事です。

例えば奏効率30%と聞くと3割の人が治るのかな?なんて漠然と考えてしまうのではないでしょうか。

しかし、医療の世界では考え方が異なっています。

腫瘍の縦横の長さの合計が30%以上縮小した状態が4週間継続した場合に効果があった、つまり奏功したと言うように定義されています。分かり易く言えば10×7の大きさの腫瘍が7×4.9より小さくなっている状態が4週間継続すれば、それは効果があったと認められるのです。4週間経過した後にどのような状態になっていくかは関係ないのです。このような決め事があるのです。つまり 奏効率30%=30%の人が治る ではないのです。

もちろん効果がある方の中には完全にがんが見えなくなった状態の方もいらっしゃるでしょうし、4週間経過後に増大してしまう方もいらっしゃいます。そもそも30%に入れるかどうかもやってみなくては判りません。このことを理解しておく必要があります。

一方で2015年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表された外国の方のデータによると(ⅢB期またはⅣ期の扁平上皮肺がんの患者さんを対象にしたタキソールと言う抗がん剤と、あのオプジーボの比較試験です)生存期間中央値が

タキソールが6カ月

に対して、

オプジーボが9.2カ月

でした。

皆さんはこのデータを見てどのように思いますか?

何も知らない頃の私だったら「えっ、あのオプジーボでたったそれだけの差?」と思います。ある意味誤差の範囲じゃないかとさえ思ってしまいます。

でも医療の世界では異なった反応となります。「50%も生存期間が伸長した。素晴らしい成果だ!」となるのです。

しかし患者さんにとってはがんが何パーセント小さくなったかとか、何パーセント生存期間が伸びたかではなく、実際にどれくらい生存期間が伸びるのかが重要であり、個々の患者さんにとっては3か月程度の差はやはり誤差の範囲では無いのかなと、色々な知識をもった今でも思ってしまいます。(もちろん医学的には非常に大きな差だという事は理解していますし、裏を返せばがん患者さんの1日1日の大切さを表すものだと理解しています)

奏効率や生存期間の伸び方に対するこのような感覚の差が、そのままがん治療を実施する時の医療者と患者さんとの認識のずれとして現れてきます。

ですからこのような点を理解して、そして副作用などを加味しながら治療を選択していければ納得感のある治療へと繋がるのではないでしょうか。

私自身は進行がんにおいては特にですが、がんを無くすことに重点を置くよりはがんと共生しながらでも良い状態で長く生きていくという考え方もあるのではないかと感じています。

 

 

 

がんと脳梗塞

がんと脳梗塞。一見無関係に感じますが、実はそうではないのです。

なぜならば、がん治療中の患者さんが脳梗塞を発症することは稀ではなく、逆に脳梗塞を発症した患者さんにがんが見つかることもしばしばあるからです。また、海外ではがん患者さんの剖検(死因,病変などを追究する ために,死体を解剖,検査すること)例で約14.6%に脳血管障害の合併があり、その約半数は脳梗塞であったと言う報告もあります。

何故、がんと脳梗塞が関係があるのでしょうか?原因としてはいくつかあげられますが、そのうちの一つはがん自体が梗塞の原因となる事です。真性多血症や白血病、また悪性リンパ腫でも血管を梗塞することがあります。また、多発性骨髄腫でも、直接的な原因ではありませんが脳梗塞の報告があります。

また、治療自体が原因となる脳梗塞もあります。例えば抗がん剤治療で使われる事が多いシスプラチンでは心房細動が現れることがあります。その心房細動が原因となり脳梗塞が現れることがあるのです。また、肺や食道などの手術によっても心房細動が起こることがあると言われています。また、脳の近辺の放射線治療によって血管障害が起こると言う報告もあります。

がんを患っている方(担がん患者)の脳梗塞の発症率が高いかどうかについては若干の議論があるようですが、その発症の経緯については、がんの無い方と比較すると、かなり特異であると言えます。

そして、担がん患者さんに脳梗塞が発症した場合、QOLを決定したり予後を決定するのは、多くの場合がんでは無く脳梗塞になると言われています。

今はがんでも生きられる時代となりました。そんな時代だからこそ、脳梗塞には十分に注意を払ってくださいね。

高額療養費制度が変わりました

平成27年1月から高額療養費制度が変更となりました。

高額療養費制度とは、同一月(1日から月末まで)にかかった健康保険の医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。

今回変更となったのは、自己負担限度額の区分と金額です。負担能力に応じた負担を求める観点から、70 歳未満の所得区分が3 区分から5 区分に細分化され、高所得者は負担が増えるようになりました。

変更内容は以下の通りです

平成26年12月診療分まで

 所得区分  自己負担限度額 多数該当
 ①区分A
(標準報酬月額53万円以上の方)
 150,000円+(総医療費-500,000円)×1%  83,400円
 ②区分B
(区分Aおよび区分C以外の方)
 80,100円+(総医療費-267,000円)×1%  44,400円
 ③区分C(低所得者)
(被保険者が市区町村民税の非課税者等)
 35,400円  24,600円

注)「区分A」に該当する場合、市区町村民税が非課税であっても、標準報酬月額での「区分A」の該当となります。

 

平成27年1月診療分から

 所得区分  自己負担限度額 多数該当
①区分ア
(標準報酬月額83万円以上の方)
 252,600円+(総医療費-842,000円)×1%  140,100円
②区分イ
(標準報酬月額53万~79万円の方)
 167,400円+(総医療費-558,000円)×1%  93,000円
③区分ウ
(標準報酬月額28万~50万円の方)
80,100円+(総医療費-267,000円)×1% 44,400円
④区分エ
(標準報酬月額26万円以下の方)
 57,600円  44,400円
⑤区分オ(低所得者)
(被保険者が市区町村民税の非課税者等)
 35,400円  24,600円

注)「区分ア」または「区分イ」に該当する場合、市区町村民税が非課税であっても、標準報酬月額での「区分ア」または「区分イ」の該当となります。(全国健康保険協会ホームページより)

また、払い戻しには一般的には申請から3か月ほどの時間がかかりますので、その点には注意が必要です。

 

がん患者と医療者との良好なコミュニケーションの必要性

もし皆さんや皆さんのご家族ががんと診断され治療が行われるとしたら、治療中に幾度も医師の説明を聞く機会があると思います。もしそのような機会があったらどうすれば良いか考えておきましょう。

まず、現在不安に感じていること、疑問に思っていることを書き出しましょう。そして、その中でも重要と思われることを2~3点ピックアップし、それに関しメモを作っておきましょう。聞きたいことは沢山あるかもしれませんが、一度に多くを聞いても全てを消化できるとは限りませんから。

また、一番困っていることや、一番してほしいことを素直に伝えることも大切です。痛みや悩みがあれば遠慮せずに伝えましょう。

また、医師の説明を聞いていて、解らない言葉が出てきたりすることがあると思います。もし私が同席している場合であれば、患者さんやご家族が理解出来てなさそうだなと感じた時には、敢えて質問する場面もあるのですが、皆さんも遠慮せずに勇気を出して教えてもらいましょう。素直に質問すれば、通常は教えていただけます。

ただ、どのような場合にも言葉使いは丁寧に、自分の主張ばかりをするだけでなく、ちゃんと医師の話も理解するようにしましょう。

そして、出来るだけ家族や親しい人に同席を頼み、メモを取るなりしてもらいましょう。内容を後で確認できるので安心できます。ただし、どのような場合にも医師とは敵対関係にあるのではなく、一緒に病気に立ち向かっているんだと言う気持ちをご家族も含めて忘れないで下さいね。

医師とはきちんとした付き合い方をすることにより、お互いの信頼関係を築く事が大切です。医師と患者の良好な関係があってこその治療成果ではないでしょうか。(とは言え、首を傾げざるを得ないお医者様もまれにいらっしゃるのも現実ではありますが・・・)