禁煙の肺がんリスク低減効果およびその他のメリット

巷間言われますように、喫煙による発がんリスクは高く、その中でも特に肺がんのリスクは非常に高くなります。逆に言えば、禁煙する事により、肺がんになるリスクを低減させることは大いに期待出来得ると言うことです。

しかしながら、禁煙してから肺がんのリスク低下が現れるまでに5年掛かり、禁煙後20年経過した時点でようやく非喫煙者と同等になるというデータがあります。

それをもとに出てきた意見と言うのが、「若い人は禁煙すれば肺がんリスクは下がり筋炎の効果を手にすることができるが、高齢になったら禁煙の効果を手にする前に寿命が尽きてしまうので、高齢(70代以降)になってからの禁煙はあまり意味がない」と言う論調です。

しかし禁煙による健康効果はがんに対してばかりではないのです。

米国肺協会は以下のように報告しています。

禁煙開始から20分で血圧は正常になり、8時間で血中の酸素濃度が正常になる。24時間で心筋梗塞のリスクが下がり始め、48時間で味覚や嗅覚が回復する。2週間から3か月かけて循環機能が改善され歩行が楽になります。1~9か月で咳や疲労感、息切れが改善する。

どうですか?短期間に効果が出ることも沢山あります。やはり禁煙すればしただけの効果が期待できそうですね。

肺がんの発症を防ぐためにも、肺がんを悪化させないためにも、肺機能の低下によって根治手術が不能になる状態を防ぐためにも、老後の生活をより快適に過ごせるようにするためにも、そして大切な家族のためにも、禁煙は何歳になってから初めても決して遅くはないのです。

肝がんの原因-ウィルス性肝炎

原発性の肝がんの原因はその90%が肝炎ウィルスであり、残りの10%がアルコール性やNASH(非アルコール性脂肪肝炎)などと言われています。では、その肝炎ウィルスにはどのようなものがあるのでしょうか。

ウィルス性肝炎を引き起こす肝炎ウィルスには、A型、B型、C型、D型、E型、G型、TT型があります。それぞれひきこす肝炎の経過は異なっていて、ウィルスの症状も異なっています。また、肝炎ウィルス以外でも肝炎を引き起こすウィルスがあり、EBウィルス、サイトメガロウィルス、単純ヘルペスウィルスなどがそうです。

しかしながら、これらのうちで肝がんを引き起こすウィルスはB型肝炎ウィルスとC型肝炎ウィルスです。

B型肝炎ウィルスは母子感染、性行為感染、血液感染(輸血、血液製剤、入れ墨!など)で感染し、C型肝炎ウィルスは血液感染が主な感染経路です。

B型肝炎で問題となるのはB型慢性肝炎です。3歳より小さい時期に母子感染するとウィルスが肝臓に感染した状態(キャリア)となります。この方のうちの10%位が症状を引き起こしB型の慢性肝炎となります。この慢性肝炎が進行していくと肝硬変の状態となり、肝がんへと進行していきます。

C型肝炎の場合は急性肝炎から慢性肝炎に移行する割合は60~70%であり、さらにそこから肝硬変に進行するのは20%位です。そのC型肝硬変のうちの50%前後に肝がんが発症します。

日本ではC型肝炎ウィルスから肝がんになる方が多く、冒頭の90%の内訳は75%がC型、残り15%がB型と言われています。

一方で、肝炎ウィルスの治療はハーボニーなどの薬剤による抗ウィルス療法が近年目覚ましい発展を遂げています。以前に治療をしたけど効果がなかった方も、諦めずに再度病院の門を叩いてみてはいかがでしょうか。

肝がんの原因ーアルコール性肝障害

アルコール性肝障害とは、アルコールを多量に飲むことが原因で、肝臓に障害が起こることをいいます。

しかしながら、多量に飲酒しても、一時的に飲酒するだけではアルコール性肝障害にはなりません。長い期間にわたって多量かつ継続的に飲酒することによりアルコール性肝障害は発症します。では多量で長い期間とはどれくらいを言うのでしょうか。

アルコールの量を言うときには日本酒換算を良く使います。日本酒換算で1日に3合かつ飲酒歴5年以上の人を常習飲酒家といい、1日5合以上かつ飲酒歴10年以上の方を大酒家といいます。このあたりが基準になってきそうです。

アルコールを多飲するとやがて脂肪肝になり、次にアルコール性肝炎へと進行していきます。そこから更に飲酒を続ければアルコール性肝硬変へと進行していきます。

脂肪肝やアルコール性肝炎の状態であれば、禁酒をすることで治ることが多いのですが、アルコール性肝硬変まで進行してしまうと、腹水や黄疸と言った症状が出てきて命にかかわる状態となってしまいます。

症状は脂肪肝の状態ではほとんどありませんが、アルコール性肝炎では食欲不振、吐き気、体のだるさなどが出てくることがあります。さらに進行した肝硬変になると、肝臓は小さくなり、形も凸凹になり、前述のような状態になる場合もあります。そしてこの肝硬変の状態から肝がんが出てくることがあり、注意を要します。

割合だけから言えば肝がんの原因のうちアルコールが原因となるものは少ないとはいえ、アルコール性肝硬変からの肝がんの場合は、肝機能が悪化しすぎていて治療ができないことも多々あります。ストレス発散等にアルコールもたまにならいいですが、多量かつ持続的な飲酒は慎むべきでしょう。

甲状腺がんの治療-アイソトープ療法

甲状腺がんには5つのタイプがあります。乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん、悪性リンパ腫です。このうち日本人に圧倒的に多いのが乳頭がんで、その次が濾胞がんです。この二つで甲状腺がんの約95%を占めます。

乳頭がんと濾胞がんの一般的な治療は切除です。しかしながら、肺や骨にがんが遠隔転移している場合や、手術で取りきれたと思われる場合でも進行がんであった場合には、放射性ヨード(アイソトープ)療法を行います。

これは、乳頭がんも濾胞がんも甲状腺の濾胞細胞(甲状腺ホルモンをつくる細胞)が、がん化したものであり、この細胞には濾胞細胞が本来持っているヨードを取り込む性質が残っていることが多いことを利用したものです。

手術で甲状腺を全摘した後に、アイソトープのカプセルを服用します。そうするとアイソトープは濾胞細胞の性質が残っている転移部分に集まり、ベータ線を発して腫瘍の内部からがん細胞を破壊します。しかもベータ線は飛程が短いために、周りの組織に悪影響を与えることが少なく治療できます。

また、アイソトープ療法は濾胞がんの再発治療としても効果があります。ただし、遠隔転移の場合には大量のアイソトープが必要のため、治療の際に専用の病室に入ることになります。これはほかの方への影響を防ぐためです。

一方で、進行がんの場合の術後の微小ながん細胞をつぶす目的でのアイソトープ治療は外来でもできるようになりました。ただしこの場合でも一定の基準がありますので、担当医と相談することが必要となります。

気を付けたい喘息に似た症状の肺がん

肺がんのほとんどは、腺がん、扁平上皮がん、小細胞肺がん、大細胞肺がんの4種類で占められています。

しかしわずかですが、この4種類の組織型に入らない特殊な肺がんもあります。

特殊な肺がんの中でも、線様嚢胞がん、粘表皮がん、カルチノイドは、早期発見・早期治療により治癒する可能性の高いがんです。

カルチノイドは形と性格からいえば小細胞肺がんに似ていますが、転移などが小細胞肺がんに比して少ない腫瘍とされています。線様嚢胞がんと粘表皮がんは、唾液腺に発生するがんと似た組織型をしているがんです。

これらのがんはいずれも気管と、太い気管支から亜区域気管支までに発生して、気管支の内腔に発育していきますが、悪性度が低いので低悪性腫瘍と呼ばれており、早期治療により治癒の可能性が高いのです。

ただし、気を付けなくてはいけないのは、これらのがんは早期には無症状である事です。更にがんが大きくなって内腔が狭くなると空気が通りにくくなるので、ゼーゼー、ヒューヒューなどの喘鳴が起こります。このことにより、気管支喘息と間違われることも多く、気管支喘息の治療をしているうちに、がんの治療が遅れてしまうことがあるのです。

しかもこれらのがんは比較的に若い人に多くみられるので、それもがんが疑われない一因になってしまうのです。

喘息やかぜの治療をしても症状が改善しない場合、一度は呼吸器科の専門医に正しく診断してもらったほうが良いのではないかと思います。

肺がんの第三世代分子標的薬AZD9291(TAGRISSO タグリッソ)

非小細胞肺がんのうち、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子に変異があるタイプのがんはEGFR-TKI(上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬)と呼ばれる薬剤を用いて治療が行われます。EGFR-TKIについては第一世代のイレッサやタルセバ、第二世代のジオトリフが日本では承認されています。ところが、これらの薬剤を使用して数か月から1年で「薬剤耐性」が生じて薬剤が効かなくなります。

耐性が起こるメカニズムでよく起こるのは次の2つです。

1つは、薬は結合するものの、EGFR以外の経路から増殖シグナルを伝えるようになってしまうタイプです。MET遺伝子とよばれるものが過剰に増殖し、がんの増殖シグナルを出す場合などです。

そして最も多く、EGFRの耐性を獲得した症例の50%以上に見られるのが、EGFRの遺伝子の特定の場所に遺伝子変異が起こり(主にT790M変異陽性)、薬剤が結合しなくなるタイプです。

このEGFR-TKIによる治療後に病勢が進行したT790M変異陽性の非小細胞肺がんに効果を発揮する薬剤として期待されているのが第3世代薬のAZD9291(TAGRISSO タグリッソ オシメルチニブ)です。米国では2015年11月にFDA承認をされており、国内でも優先審査品目に指定されていて、今年の3月には承認される見込みとなっています。

ただし副作用としては5~6%の患者さんに間質性肺炎が生じたようですので、注意が必要です。

この薬剤の登場により、EGFR-TKIを使用していて耐性が起きた後には、耐性の原因を特定するための再生検の重要性はますます高まっています。

FDA(米国食品医薬品局)がオプジーボ(ニボルマブ)を腎がんに承認

FDA(米国食品医薬品局)は、血管新生阻害薬による治療歴のある進行腎細胞がんの治療薬として、オプジーボ(ニボルマブ)を承認しました。

オプジーボの安全性と有効性は、血管新生阻害薬による治療中あるいはその後に病勢が進行した進行腎細胞がん患者821人を対象としたランダム化非盲険試験で実証されたました。

オプジーボ群とアフィニトール群に割り付けられ、投与開始後の平均生存期間はアフィニトール群が19.6か月に対して、オプジーボ群は25か月と延長したそうです。

日本での腎細胞がんの承認申請も済んでいるようなので、あとは承認が待たれるところです。

ただし、オプジーボ(ニボルマブ)を投与しての副作用も報告されています。中には重症の筋無力症や筋炎を発症する方もいらっしゃるようですので、使用する際には副作用もしっかりと確認・理解する必要がありそうです。

細胞ががん化するメカニズムと遺伝子治療

細胞が「がん」になってしまうのは遺伝子の異常によってであることは皆さんご存知だと思います。そのことをもう少し見ていきましょう。

ここで遺伝子に書かれていることを一冊の本にたとえて考えるとわかりやすいと思います。

まず遺伝子の異常は、紫外線や化学物質、またはウィルス由来のDNAがヒトのDNAに割り込むこと等によって生じます。しかしながら、このような遺伝子の異常が1か所に発生しただけでは通常はがんにはなりません。なぜなら1冊の本の中で1か所だけ間違いがあったとしても、本に書かれている内容に大きな変化が起きるわけではないからです。

しかし、間違いが増えてくると、だんだん文章の意味が取れなくなってしまい、最終的には内容までわからなくなってしまいます。同様に、遺伝子の異常が積み重なることによって、細胞はがん化してしまうと言うことなのです。

このことこそが、加齢とともにがんになる確率が高くなることと関係しているとみられています。すなわち年齢とともに遺伝子の異常も蓄積される可能性が高くなり、その蓄積が多くなれば本の内容までが変わってしまうということなのです。

そして、がん細胞では異常がよく見られる遺伝子があります。これらの遺伝子の多くは細胞の増殖を促す遺伝子や細胞の増殖を制御する遺伝子です。遺伝子の異常が積み重なることで増殖のアクセルが常に全開になったり、制御側のブレーキが全く効かなくなったりするのでがん細胞の増殖が制御不能になると考えられています。

そして、異常になった遺伝子を正常に戻そうとする考え方が遺伝子治療の根本となります。

ですから遺伝子治療の対象はがんだけではありませんが、がんの遺伝子治療に関しては下記をご参照してください。

がんと向き合うための資金準備

がん治療は大きく前進を続けています。昔と治療の方法も大きく変わり、また選択肢も増加しています。そのお蔭もあり、今や「がん=死」とは必ずしも言えなくなってきました。

それ故に、がんに罹患した時の資金準備の重要性も高くなっています。

がんが治る時代なのに、どういう事でしょうか?

その答えは、「がん治療にまつわる費用の掛かり方を知ること」にあります。ではがん治療にまつわる費用ってなんでしょうか?

それは大くくりで言ってしまえば治療に直接掛かる費用とそれ以外の費用です。

治療に直接掛かる費用と言うと皆さんは保険会社等のパンフレットに記載されている金額を思い浮かべるかもしれません。しかし保険会社のパンフレットに記載されている費用って健康保険診療のケースです。また先進医療特約を持っている会社の場合は先進医療の費用も記載してあります。しかし、がんの治療は保険診療や先進医療のみで終われる場合だけではないのも現実です。

また、オプジーボに代表されるような高額な新薬の薬価を考えると健康保険制度や高額療養費制度がいつまで今のままもつのか疑問を感じます。

また、治療以外にも費用は掛かります。例えばQOLを維持するための費用です。これは長く生きられる時代だからこそ必要な費用です。これも準備しておくに越したことはありません。

私は患者さんと接していて、ピントのずれた資金準備(保険加入)をしている方が多いことを感じますし、それを非常に残念に思います。私が患者さんとお話しをするときには、治療費用の有無やどのような保険に加入されているかを確認する場合もあります。時々潤沢な資金準備をされている方もいらっしゃって安心するのですが、古い保険に加入していたりして適切な準備とは言えないケースも多く見られます。

一方で収入に関しても無関心ではいられません。多くの方の前提は「今の収入」ですが、がん罹患により収入が減少するケースが多々あります。特にご自分でお仕事されてる方は収入面のフォローをきちんと考えておかないと厳しいことにもなりかねません。

がんは事前通知してくれません。「いつか考える」では遅いのです。今すぐ準備されることを強くお勧めいたします。(ただ単にがん保険に加入すれば良いと言うような単純な話ではありません)

がんの事も良くわかっている、信頼できる専門家に相談しましょう。もしそのような方が居なければ専門家をご紹介いたします。下記のご相談フォームにお名前、メールアドレスを記入いただき、紹介希望と記載し送信下さい。

皆さんの加入しているがん保険は再発で一時金が支払われますか?

乳がんの遺伝子治療について

遺伝子治療はいわゆる標準治療ではありません。しかしながら標準治療となっていないことと、効果の有無は別だと思っています。新しい治療法は最初はどれも科学的根拠が証明されていないのです。更に科学的根拠を証明するのには時間が必要です。しかしながら証明を待っていられない患者さんがいらっしゃるのも一方の現実ではないでしょうか。

以下の写真は40歳女性の方です。左乳がんの診断にて乳房温存術施行、2年経過後に再発しました。PET-CT検査の結果、左乳房内局所再発、左鎖骨上、腋窩リンパ節転移及び多発性骨転移が認められました。その後遺伝子治療を局所注射で6回施行したケースです。

頸部リンパ節転移部分

図1改2 図2改

PET検査の画像

図3改 図4改

見てお分かりのように画像に写っているがんは消失しました。もちろん時間がまだ経過していないので、この後どのような経過となるかはわかりませんし、皆さんに全く同じ結果が出るとも限りません。

しかしこのような効果が出る方が普通にいらっしゃるのも現実です。またこの治療は標準治療を邪魔する治療でもありませんし、逆に標準治療と併用することで、より大きな効果を示すともいわれています。

末期がんと言われ、標準治療でやれることが無いと言われても治療は可能です。更に副作用も少なく患者さんにとっては低侵襲な治療です。

一見良い事ばかりのようですが、残念ながらこの治療は自由診療です。費用は全額自己負担ですし、治療できる施設も限定的です。また名称は遺伝子治療と謳っていても、薬剤を含め内容は医療機関により異なります。だからこそ、どの医療機関で治療を受けるかと言う選択が非常に重要になります。

いつか科学的根拠が証明されて一般的な治療になると良いですね。

遺伝子治療に寄らず、ご質問・ご相談があればお気軽にどうぞ。