腎臓がんの分子標的薬 パゾパニブ(ヴォトリエント)

根治手術不能または転移性腎細胞癌の治療、特にファーストライン治療から使用可能な新しい薬剤として、血管内皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(VEGFR-TKI)であるパゾパニブ(ヴォトリエント)が、日本では2014年3月から使用可能になりました。

パゾパニブ(ヴォトリエント)はもともと悪性軟部腫瘍の分子標的薬として認可されていましたが、今般適用が拡大されたものです。

腎臓がんのファーストラインの分子標的薬としてはスニチニブ(スーテント)がよく使用されてきましたが、パゾパニブ(ヴォトリエント)の治療効果は、スニチニブ(スーテント)に劣らないと言う結果が報告されています。

効果は同等でも、注目すべき点は、頻度が高く発生する注意すべき有害事象の種類が異なることです。

有害事象としては、簡潔に言うと、スニチニブ(スーテント)には血球減少や手足症候群が多く、パゾパニブ(ヴォトリエント)には肝機能障害が多いという特徴が認められるということだと思います。

効果が同等ではあまり意味がないとお感じになる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、効果は同等でも有害事象のプロファイルが異なる2剤が利用できるというのは、治療の選択肢が増えるという意味であり、非常に有用だと考えられるのです。

卵巣がんの分子標的薬

日本においても年々罹患者が増加している卵巣がんですが、その標準治療は手術療法が基本となり、状況に応じて化学療法を加えます。

そして卵巣がんで使用できる薬剤は何種類もありますが、主流となっている化学療法はTC療法と言って、3週間ごとにパクリタキセル(タキソール)とカルボプラチン(パラプラチン)を投与していく方法です。最近までその中に分子標的薬は含まれておりませんでした。

しかし2013年11月にアバスチンが卵巣がんに対しても承認されました。アバスチンは、もともとは大腸がんの治療などで使われている分子標的薬です。アバスチンは卵巣がんでは、従来の抗がん薬にプラスして使用します。ですので化学療法への上乗せ効果が期待できます。

さらにアバスチンと抗がん薬による治療後に、維持療法として単独で使うと、再発するまでの期間を延長することが可能です。また、アバスチンは血管新生を抑える分子標的薬です。ですから、卵巣がんで問題となる腹膜播種(あるいは胸膜播種)に特に威力を発揮するのではないかと期待されています。

尚、アバスチンは、欧州では進行期の乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、腎がん、卵巣がん、米国では大腸がん、非小細胞肺がん、腎がん、再発膠芽腫の適応症で承認を受けています。また、アバスチンの卵巣がん(初回治療)に係る効能・効果は、EU28カ国を含む110の国または地域において承認されています(2013年8月7日現在)。

卵巣がんのIDS(腫瘍減量手術)

卵巣がんのサブタイプ

肺がんの分子標的薬

肺がんは表面の細胞膜から、さまざまな受容体が突き出ており、その受容体が受けた刺激により、がん細胞が増殖すると言われています。

そのような受容体のうち、肺がんの20~30%でEGFR(上皮成長因子受容体)をつかさどる遺伝子に変異があると言われています。そのEGFRに作用するように開発された分子標的薬の一つにイレッサがあります。(他の受容体を標的とする分子標的薬もあります。)イレッサは世界に先駆けて日本で承認された薬剤ですが、そのイレッサや少し後に承認されたタルセバという薬剤は第一世代と呼ばれています。それぞれ2002年と2004年に承認されおり、EGFR変異のある肺がん治療に使用されています。

そして今は第二世代、第三世代の研究が行われています。

では、新世代の薬剤は第一世代と何が違うのでしょうか。

第一世代では標的とするEGFRが特定されていますが、第二世代ではすべてのEGFRを対象として抑えると言われています。そしてEGFRに結合したら離れにくいと言う性質を持っています。そのために、第一世代よりも無増悪生存期間が長いと推測されています。

第二世代では日本ではジオトリフという薬剤が2014年5月に発売されています。

EGFR(上皮成長因子受容体)に変異を持つ患者さんのうちの約半分が、エクソン19という遺伝子の部位に欠損を持っていますが、そのエクソン19の欠損を持っている患者さんにジオトリフが良く効くことが臨床試験では明らかになっています。特に日本人の患者さんには高い効果が見られました。

さらに第二世代では変異のあるなしに関わらず、すべてのEGFRに作用していましたが、第三世代では変異のあるEGFRにだけ作用するようになっており、より効果的であると考えられています。第三世代はまだ承認薬はありませんが、いくつかの臨床試験では、副作用が今までよりも軽いのではないかと言う結果が出ているようです。また、用量を上げても副作用が出にくいために今後が有望視されています。

更に、新世代の薬剤には、イレッサなどに耐性を持ってしまったがん細胞への効果も期待されています。

この分野での開発は世界的にも積極的に取り組まれています。一日も早い新薬の承認が期待されるところです。

胃がんの新たな分子標的薬 サイラムザ

胃がんに対する最も有効な治療は手術による切除ですが、がんが進行しているために切除が難しかったり、術後に他臓器への転移などで再発した場合は、化学療法が治療の中心となります。

そのような場合でHER2陽性の場合は、分子標的薬のハーセプチン(トラスツズマブ)が2011年から使用可能となりましたが、HER2陰性の場合は、ファーストラインの化学療法としては、TS-1とプラチナ系抗がん薬を併用する治療法が行われています。(プラチナ系の抗がん薬としては、シスプラチンに加えて2015年3月からはオキサリプラチンが使用できるようになりました)

ファーストラインの薬剤が使えなくなった時のセカンドラインの薬剤として使われるのがタキサン系の薬剤であるタキソールやタキソテール、そしてイリノテカンが標準治療として位置づけられています。

このような状況の中で新たに登場したのが分子標的薬の「サイラムザ」です。

サイラムザはがんに栄養を運ぶための血管を作る「血管新生」を阻害する「血管新生阻害薬」です。タキソールと併用で使用されますが、日本が参加している臨床試験では良好な結果が報告されています。また、海外では1次治療で増悪が認められた、進行性の胃がん患者さんを対象に、サイラムザを単剤で投与する臨床試験も行われており、良好な結果が得られています。

副作用は同様な血管新生阻害薬のアバスチンの副作用である血栓症や消化管穿孔などがありますが、頻度もそれほど多くないとのことです。他にも高血圧やタンパク尿と言った副作用が出る場合もありますが、現時点ではサイラムザ特有の副作用が明らかになっていないので、アバスチンと同様な注意が必要になります。

抗PD-1抗体 オプジーボ(ニボルマブ)について

昨今、雑誌などでオプジーボと言う薬剤が話題になっているようですので、少しオプジーボについてお伝えしようと思います。

オプジーボは広い意味での免疫療法になりますが、今までの免疫治療とは異なった発想の治療法です。今までの免疫療法は、ワクチンで免疫を活性化させたり、リンパ球などを培養して体内に戻すなどの方法がとられていました。

一方、オプジーボの作用機序は異なります。がんを攻撃するリンパ球の代表的なものの中にT細胞と言うものがありますが、オプジーボはこのT細胞ががん細胞に働きかける局面で作用をします。

どのような事かと言うと、T細胞にはPD-1という受容体があります。ところがこのPD-1ががん細胞のPD-L1と繋がるとT細胞の攻撃力が抑制されてしまうそうです。このような事態を防ぐためにPD-1と繋がり、PD-L1と繋がらないようにするための抗体が作られました。それがオプジーボです。

第Ⅰ相の臨床試験では、非小細胞肺がん、メラノーマ(悪性黒色腫)、腎細胞がん、大腸がんに効果があったと報告されていましたが、2014年の9月にメラノーマの治療薬として日本で国内承認されました。

抗PD-1抗体の場合は、どのような人に効果が出やすいのかが明らかになる可能性があります。その目印(バイオマーカー)が明らかになれば、より精度の高い治療につながる可能性もあります。

ただし、この薬剤にも副作用はあります。もっともよく発現する副作用は皮疹で、次が下痢で、点滴反応が現れることもあるようですが、マネージメントできる範囲だと言われています。

大変に期待ができる薬剤のようですが、現在のところではメラノーマに承認されただけです。更なる適応の拡大が待たれるところです。

(2016年8月の段階で、肺がんの一部と腎がんの一部(予定)が適応に加わっています)